第14話 その夜
夜。
レオンとセレナの家。
灯りは低く、鍋の湯気だけが動いている。
三人で、同じテーブル。
「……ありがとうございます」
ミラの声は、まだ少し濡れていた。
「本当に……」
「大丈夫です」
レオンは、落ち着いたまま。
「管理局側が、
全部悪いです」
「ミラさんは、
何も迷惑をかけていません」
「……でも」
「強いて言うなら」
一拍。
「迷惑をかけているのは、
僕らの存在だと思います」
「……え?」
「だから」
ゆっくり。
「ミラさんが、
背負う必要はありません」
「……」
ミラは、箸を置いた。
「救われているのは、
私です」
「二人の存在に」
セレナが、椅子にもたれた。
「はぁぁ……」
「ほんと、
よかったわー……」
「安心したら、
一気にきた」
「……あいつ」
「吐き気するわね」
「分かります」
レオンが言う。
「言い方が、
特に」
「でしょ?」
「顔も」
「顔もです」
「声も」
「声もです」
三人、同時にため息。
「……あは」
ミラが、小さく笑った。
「三人とも、
同じこと思ってますね」
「当然でしょ」
「当然です」
「……ふふ」
ミラの笑いが、少し大きくなる。
「じゃあさ」
セレナが言う。
「もう、
嫌な話禁止」
「賛成です」
「賛成です」
「じゃあ、
くだらない話ね」
「くだらない、
大事です」
「大事だよね」
三人、ソファへ。
セレナは、完全に力を抜いた。
「あー……」
「生き返る……」
「ソファが、
仕事してます」
「でしょ」
「……ミラ」
「はい?」
「ここ、
遠慮しなくていいから」
「……お邪魔します」
「もう、
家族みたいなもんでしょ」
「……」
「……はい」
「ほら、
笑った」
「……あ、
ほんとだ」
「やっとだ」
「……」
「……あの」
レオンが、思い出したように言う。
「そういえば」
「腰の、
深い裂傷は」
「完全に、
塞がりましたか?」
「はい」
ミラは、即答した。
「体中、
傷跡、残ってないです」
「内部も、
問題なさそうです」
「……内部まで、
確認します?」
「確認?」
「はい」
「……この服で?」
「……」
「……立てば、
見やすいですね」
「……え」
ミラが、立つ。
「え、
ちょっと……」
レオンが、真剣にスカートに手を伸ばす。
ひざ丈のスカートが、持ち上がっていく。
白い太もも。
なめらかで、
光をそのまま受ける色。
どんどん露わになっていく。
「……あ」
「……あの、、」
――ドン。
鈍い音。
「ぐっ……」
レオンが、倒れた。
「ちょっと!」
セレナの声。
「何してんのよ!」
「……どうしてでしょう」
床で、脇腹を押さえながら。
「医学的に、
最短だと判断しました」
「判断が、
壊滅的よ」
「……一旦治癒させてください」
脇腹に、光。
「あんた」
セレナが、呆れた声で言う。
「ほんと、
馬鹿ね?」
「何も、
考えられないの?」
「考えた結果です」
「最悪よ」
「……」
「ミラ、
こっち来なさい」
「この、
ド変態に」
「変なこと、
されないように」
「……え」
ミラが、少し慌てて。
「い、
いえ……」
「……」
「……大丈夫、
だったんですけど」
「……え?」
「レオンさんなら、
特別ですし……」
ミラは、照れていた。
セレナが、固まる。
「……」
「……」
「……は?」
レオンは、床で考えていた。
蹴られた理由を。
分からないまま。
夜は、
静かに続いていた。




