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出迎えって、そうじゃねぇだろ

 おれは疲れていた。

 人生はあまりにもクソだし労働もクソだ。

 それだと言うのに労働に勤しんでいるおれ自身もクソだし、QUOカードプランを選ばなかったようなセコい道徳心もウンザリするくらいのクソさだ。

 たまたま手にした時間は120分数万の高いサウナで消えてなくなった。

 嫌いな上司の名前で領収書を取っておけばよかったが、後の祭りだ。せめて名刺はスーツにでも入れておくか。

 


 飛行機は墜落せずに空港に降りた。

 おれの願いは叶わない。苦しまずに死にたいし、おれ以外の過失で死にたい。

 長い廊下を歩く。

 買春がしたい。

 到着ゲートの向こうで手を振る男を見つけてスーツケースを引きずて行った。

「お疲れ様」

 男は笑顔で俺の手からスーツケースを受け取ると意気揚々と成田エクスプレス乗り場に向かおうとした。


 0.5秒と衝撃。

「おい待てよ、何処に行くんだ」

 咎める声がうわずる。

「あぁ煙草を吸うのが先か」

 男はこともなく笑う。

 やはりおれは馬鹿だった。

 アゴアシ程度で済ませようとこんなアホを呼んだ自分を恨む。

「いや違う、まさかお前ここまで電車で来たってのか?」

「それが何か問題でも」

 男はきょとんとした顔で聞き返した。


 おれは疲れているしウンザリしている。

 愚昧な友人がいるということはおれ自身も愚昧だと言うことだ。

「ばかやろう、どこまで馬鹿なんだ?おれは疲れてるから迎えに来てくれって言ったんだ」

「あぁそう言われたから来た」

「普通に考えろ、空港まで迎えに来てくれって言ったら、それは車で来てくれって意味だろうがよ」

 ウンザリしたおれの声は思ったより大きくなった。何人かが振り向き、何人かは足早に去り、何人かがスマホを構えた。

「そうだったか、それは済まない事をしたな」

 男は笑ってレンタカー受付に向かってさっさと車を借りる手続きを始めた。


 人生はクソだ。

 喫煙所は行儀良く順番待ちをしているクソが並んでいる。コロナ以降は当たり前になった人数制限は喫煙所だけが解除されない。

 飼い慣らされたクソども。

 緩慢な自殺志願者たちの葬列。

 だが喫煙が自傷行為なら酒もサウナも労働もそうだ。

 なら人生に何の歓びがある?

 セックスだって労働なんだ。



 煙草を灰皿に放り込んだところで、レンタカーに乗った男が手を振っているのが見えた。

 あそこまで歩けと言うのか?

 ここに立っているのを知っているのだからここに回してくれたらよいのに。

 奴は愚鈍や愚昧といった言葉では表せない無能さを体現している。

 つまりおれもそうなのか?


「出張はどうだった?」

 男はスーツケースをトランクに放り込みながら訊いた。

「疲れたよ」

「そう言ってたな」

「あぁ、言ったよ」

 おれは帰ってから片付けるべき仕事を考えながら答えた。

 掃除、洗濯、射精。

「年末だしな」

「あぁ、もうすぐ大晦日だ」

「晦日の最後だから大晦日、だよな」

 男は急に賢しらな顔を作った。


 この男がそんな顔をすることがあるのか?おれは驚いたが顔には出さなかった。

 出していないつもりだ。

 出ていてもこいつは気づかない。

「どうした急に」

「10年に一度の大晦日は超晦日になるのかな」

 やはり馬鹿だ。

「ならないだろ」

「100年に一度だとハイパー晦日とか」

 男は当たり前な顔をして間抜けた事を言う。


 つまりおれもこいつと同じくらい馬鹿だと言うことだ。

 死にたくなるね。

「精々がミレニアム晦日だろ」

 こうやって答えてやる優しさを神は見ているのか?

 報われろよ、おれ。

「それいいな。じゃあ1000年に一度の大晦日は超銀河晦日にしよう」

「にしよう、たって次のそこまで生きてねぇだろう」

「そりゃあそうなんだが」

「いいから車を出してくれよ」

 馬鹿はようやくエンジンをかけて車を動かした。

 信じられるか?車は停まったままだったんだ。



 男は車を出しながら再び

「1111年の11月11日にはポッキーとかプリッツって無かったんだよな」と言い出した。

「無かっただろうな」

 お菓子の歴史は知らない。

 だがどんなアホでもそれをパスタの日にしようなどとは言わなかったはずだ。

「じゃあ2222年の2月22日には、やっぱり超猫の日とかにして祝日か祭日になるのかな」

「ならないだろ」

「そっか」

 男は窓を開けて煙草に火をつけた。

 煙が流れていく。

「レンタカーだろ、まずいんじゃねぇの」

「あぁ、そうか」

 男は窓から煙草を放り投げた。


 

 いい加減に生きると言うのも楽しいかもなと思いながら、おれは目を閉じた。

 ゆっくりと黒く沈んでいく世界。

 その奥にある脳味噌の中で、巨大な猫が目を見開いていた。

 超銀河猫の日か、と呟くと「それいいな」と男が言った。

 レンタカーは周回路を走って再び成田空港に向かっていた。

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