目覚めたらメイドが切腹しようとしてた件
「うぅ、ここは…」
目が覚めると見知らぬ天井…ではなくレースの天蓋が目に入った。
そういえば前世の記憶を手に入れてからこうして天蓋の裏をちゃんと見ることがなかったのでちょっとだけ新鮮だった。
ゲームや漫画でしか見たことの無い天蓋付きのベッド、なるほどこんな感じだったのか。
どうして僕はベッドの上にいるのか。僕は逡巡する間もなく思い出す。
そうだ日本刀を勢いよく押し当てられて気を失ったのだ。
カッコよく死ぬを目標にしている割に初気絶が事故とは何とも情けなく思う。
多分運んだのはシイナなのだろう。
せっかくならベッドではなくシイナが膝枕をしてくれたら…なんて思うのはいくらなんでも役得が過ぎるだろうか。
(そういえばシイナは?)
彼女の性格的にすぐ近くにいるだろうと思い、天井側に向けられていた視線を入口扉の方へ移した。
―――シイナは白装束ならぬ白メイド服と口に白いレースのハンカチを加えて日本刀を握っていた。
「こんなことになるなんて…死してお詫びいたします」
「待てい!!」
勢い良く起き上がりシイナを止めた。低血圧気味なので急な運動で脳が痛い…。
「あらルイスさま起きられたのですね」
「起きたよ、飛び起きたよ!!ビックリして逆に死ぬかと思ったよ!!」
「驚かせてしまった申し訳ございません。やはりここは死んで…」
「それだからね!!何で目が覚めたらベッド脇に専属メイドが死んでるのさ!!最悪の目覚めになるところだったよ!?逆に二度寝するよ、一生目が覚めなくなるかもだけど!!」
あれ…僕がイメージしていたシイナはもっと冷徹冷酷。
ルイスとしての記憶のシイナは母親のような母性を感じさせる完璧ふわふわメイドだったのに…。
今もきょとんとしているシイナを見た。
「もうルイスさま。貴族たるものあまり声を荒らげてはいけませんよ。いつでも冷静沈着、余裕が無いことはそれだけ能力が低いと思われかねません。
ですがあれだけの言葉と声量を一呼吸で言える肺活量はとても素晴らしいことだと思います。それと荒らげていてもルイス様の声色はとても聞きやすくて綺麗ですね」
「一謗り二肯定!?」
「謗りではございません、お叱りと言ったほうが正確でございます。
ただルイスさまは謗りという難しい言葉を御存じなんですね。それに一謗り二笑い三惚れ四風邪というくしゃみの回数に関することわざにも掛けていて教養がございますね」
「マジで全肯定するな、この人!!」
そんなことわざは知らなかった…。いやそんなことはどうでも良くて。
現在僕の中でのシイナの評価が【全肯定ゆるふわ武士魂メイド】なんだけど…武士要素が全てを台無しにしている気がする。
なんか思ってた展開と違う。
だけど…。
「どうかされましたか、ルイスさま?」
「ううん、なんでもないよ」
シイナの微笑む顔を見つめながら、そしてルイス=ストレイの記憶を改めて覗きながら僕は思考する。
やはり今のシイナがゲームで出てきた魔王軍の幹部であり、無関係の人間を殺し尽くした人類の敵には到底思えない。
博愛精神に満ち溢れており、主が人道に外れたら命を懸けてでも止めに入る忠誠心もある。
そんな彼女がどうして…。
僕がこの世界に転生したから何かが変わったのか、それともこれから何かが起こるのか?
「そろそろお食事のお時間です。
ルイスさまもご準備はよろしいですか?」
「うん、大丈夫。楽しみだよ」
「はいっ!! 今日も使用人みんなで、ご主人様に喜んでもらえるように、目一杯がんばりました!!」
願うならば―――あの『未来の殺戮者』が、あのままの全肯定ゆるふわメイドでいてくれますように。
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