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五十年前の水柱 『劇場版「鬼滅の刃」無限城編 第一章 猗高座再来』記念

作者: 秋街

夜、それは満ちるのをやめた半月が照らす日だった。

このところ任務の忙しさが増している。去年、数百年続いた江戸幕府の政治が天皇陛下の元に返され、鬼の活動は激化した。

明治政府は江戸幕府と違い、鬼のことを信じていない。今では鬼殺隊の命の支えである刀すら所持を禁止しようとしている。

これも時代を移り変わりだ。未来では隊士が刀を持っている所を見つかって警備隊に追い回される日が来るかもしれない。と儂は微笑した。

すると鴉が喋り始めた。


「ホウコクゥー、ホウコクゥー、ミズバシラノキョウノニンムハシュウリョウ、シュウリョウ。タダチニカエリ、キュウソクセヨー。」


「な!まだ夜は半分も残っている。儂はまだやれる。他の隊士も頑張っているんだぞ。なのに休息などするはずがないだろ!」


「ウルセェーゾミソッカス、キュウソクヲシロッツッテンダロ!」


「な!畜生の分際で調子に乗りやがって。綱吉公に守られてたからって自惚れてんのか?あん!」


「ダマレクソヤロウ。コレハオヤカタサマノメイレイナンダヨ、オトナシクキケェー、キケェー。」


「お館様が!なんで」


「オマエハハタラキスギダカラヤスンデクレトオヤカタサマハオッシャッテンダヨ。」


「く!いや、そうか、そうなのか、ならそのお言葉ありがたく受け取る所存。帰らせていただきます。」


「ソレガイイヨオマエハ。ソレジャアオラハオヤカタサマノトコロニイクカラナ。ジャアナ。キヲツケロヨ。」


というわけで儂は田舎の道を下って帰っている。

最近は左近次の修行に付き合ってねーから相手をしてやらねーとな。

あの坊め、俺を打ち負かすとかほざいて聞かねーからな。師匠としてあいつには手酷くぶっ飛ばす義務があるってもんだ。


風が一層深みを増し、頬を掠めながら俺は森を抜けていく。嫌な風だ。

すると突然、奥から刀の金切り音と大砲のような爆発音が続いて絶え間なくなるのが聞こえた。誰かが争っている。鬼かもしれない。

すると儂は呼吸を足に集中させ全速力で地面を蹴った。


「助けてくれー。誰かいないのかー。」


「はっはーどうしたもうダメか。仲間がやられても逃げるのかお前は? そこまで気持ちも力も弱いとは見てられない。だから、」


鬼が拳を隊士の頭を砕かんと空を切る。


「死ね」


「させる、、、ものかー!」


木を蹴り体を弾丸のように近づく、

儂は深く呼吸する。


「水の呼吸ー弐ノ型 水車みずぐるま!」


鬼の肩ごと拳を切った。


「はぁはぁ、助かった。ありがとうございます助けていただき」


「御託はいいあの鬼はなんだわかることを言え!」


隊士は満身創痍であり刀を持つ力も入らなくなっている。  そして近場にはその隊士の相方であろう隊士が頭のない状態で地に倒れていた。


「、、私は任務を終えて帰っていたらいきなり弦之助の頭が吹き飛んで、そしたらあいつが襲ってきて、早すぎて見えなくて、死んだと思って、ぐす、うぅ〜、すみません力及ばず、  それで奴のことは分かりませんでした。本当にすみません、」


「あい、わかった。ここは儂に任せろ。お前は友の刀を持って、 逃げろ。遺族に必ず届けろ!全力でだ」


「いえ私も加勢を、」


「いいから逃げろ!!...お前では無理だ。足手纏いになる、」


「わかり、ました」


少年は走った。足は悲しみと悔しさでふらつきながら。


「さてお前は何者かな」


雲が晴れ、森の隙間から月の光が差し込んだ。その光は鬼の姿を写し出し、、


「上弦の弍!」


まさかこんな大物に出くわすとはな。

鬼が口を開く。


「何故そのような弱き小物を助ける?」


その言葉、突然だか俺の気に触った。


「バカを言うな餓鬼、彼らが小物であるはずがなかろうて。彼らはお前より余程強い、彼らは日々弱きカタギの人間を守り、命を張っている。だが貴様はどうだ?鬼なんぞに堕ちよって、死なないから偉いのか?強いのか?そうではない。その命をどう使うかで強さは決まるのだ。よって貴様は彼らと比べるまでもなく」


「弱い!!」


儂はそう言い切った。


「くくっく、そうか悪かったな、...くっくく、俺から逃げた奴が俺よりも強いとはこれは面白い。」


鬼が笑うところは初めて見たかもしれない。


「...ではこうしよう。お前を半殺しにした後、すぐに逃げたもう一人も捕まえてやる。そしておまえの目の前で手足から生きたまま捥いで、お前にそいつの脳髄をぶっかけてやろう。そうすればお前の戯言も消えるだろう?」


......そうか。

儂は内からすさまじい怒りが吐き出てきた。


「そうか、やはりお前は鬼だ、今、お前を殺る決心がついた。そしてお前に一つ。」


儂は引かない。今ここでこの鬼を倒さねば被害が拡大することは必死だ。


「やれるものなら、、、やってみろ!」


刀の握りと呼吸を強め首を目指す。


「水の呼吸ー肆ノ型 打ちうちしお!」


岸辺に打ちつける潮の如く切り付ける。


「血気術 術式展開 破壊殺・羅針! 乱式!」


それに対応するように大砲のような拳撃が絶え間なく襲う。


「く!やはり手ごたえが違うな。さすがは上弦。 本気で行く!」


「全集中 水の呼吸ー参ノ型 流流舞い(りゅうりゅうまい)!」


「速い! 破壊殺・砕式さいしき万葉閃柳まんようせんやなぎ!」


地面と木々が諸共吹っ飛ばされ倒れてゆく。


凄まじき災害のような鬼だ。特別な血気術じゃない。単純で絶望的なほどに強い悪と格闘の化身、それが儂の感想だ。


激しい攻防の中、会話が始まる。


「なるほど、水の呼吸の剣士か、その練度、柱だろう?技も極みに達している。俺はまだ水の柱は殺したことがないんだ。お前の美しき剣技を見せろ!俺のためだけに刀を振れ!お前の名を教えろ。覚えておきたいお前のような強き剣士を!」


「お前に見せる刀などない。ただこれでお前を切るだけだ。そしてお前に儂の名など教えない。」


「そうかそれは残念だ。お前の齢は24、いや5か。その体、全盛であろう。至高の領域に限りなく近い、だが、まだ至っていない。俺は悲しい!お前のその剣技が歳を取ることで衰えることが、そして死ぬことが!」


「儂とお前じゃ価値観が違う。花火を知っているか?花火は花火の光が一番デカい時が一番美しいんじゃない。その光が小さくなるまでのその全てが美しいんだ。人も同じで強くなるとこも弱くなることも人間の本望だ。それをとやかく言う権利は、鬼のお前には、ない!」


「そうかならば死んでくれ、強いまま、美しいまま!  破壊殺・滅式めっしき!、、、」


* * *


「お願いします、お願いします、私を強くしてください、お願いします」


その時、子供は親を鬼に殺され嘆き、儂に懇願してきた。儂が助けるのが遅かったからこうなったのだ。だから儂は修行をつけた。


半年が経つころには元気になり、呼吸の仕方を覚えた。そいつは鼻が良かった。技もすぐ覚えた。儂ほどではないが才能があった。


「ーー師匠、俺はあんたを越えて柱になって鬼舞辻無惨を倒す!」


「は、まだ十二鬼月も倒してねー癖に、それに明治最強の俺を越えるなんてオメェーには無理だよ」


「なんだとジジイ!」


「俺はまだ25だ。このクソ餓鬼左近次」



* * *


嵐のような攻防は半刻に及んだ。

人間は全力疾走をするのは3分が限界だ。それ以上すれば体は鉛のように重くなる。

だが儂は他よりも長く全力を維持できる。それでも、、、


「はぁーはぁーやるじゃねーか鬼のくせに」


「素晴らしい。その剣技。人間の体では考えられない尋常ならざる体力。そして俺は何度も首を切られかけた。こんなの初めてだ。やはりお前は鬼になるべきだ。お前の名を言え!俺は猗窩座!さぁ言え、そして鬼になるのだ!」


「、、鬼になど、はぁ、ならない、と、はぁ、言って、いる、だろう!!」

「水の呼吸 拾ノ型 生生流転せいせいるてん!」


儂は戦い始めてからずっと流転を少しも切らさず貯め続けている。だがそれだけでは足りないとわかっている。 だから、、、


「水の呼吸 十二の型 滝壊海星(たっかいかいせい)!」


これは儂のオリジナルだ。儂の得意な八の型を改良、そして強化させた。これは対一体に特化した技であり、対象の防御を一緒に全て切り刻み首も体も消滅させる。


十一の型は何故か他の奴が使うべきな気がした。不思議な気持ちがしたのだ。


「すさまじいその闘気、アバラも折れ、身体中から血を吹いてなお、隙がない!素晴らしい素晴らしいぞお前の名を言え、そして戦い続けよう!」


「破壊殺・終式 青銀乱残光あおぎんらんざんこう!」


同時に来る百発の打撃、やってやる。


「うおぉーーーーお!!!!」








* * *

「なんだと左近次、儂の名前の文字が欲しいだー?やめとけやめとけ、取るもんもないしな。、、でも取るんだったら」


「滝」

「そうお前の鱗と合わせて「鱗滝」なんてどうだ」

「いいだろ、鱗滝左近次、いい響きだ」


* * *


そんななんて事のない日常が頭をよぎった


* * *


「鬼になれ!鬼になると言うのだ!」


「ごふぅ、やっちまったな。」


拳は肝臓を打ち潰し、貫いている。


瞬間、血の出し過ぎか体が燃えるように熱い。不思議だ。死ぬことは初めてでこれが死に際の症状なのかはわからない。だが、どこからか湧く力の本流が体を伝う。


「なんだこれは?」


おかしい猗窩座の体が、俺の体が透けて見える。右手にも桜の紋が出ている。

これが猗窩座の言う至高の領域?

ふ、これが頂の世界ならば面白いな。


「儂は死ぬ、だがお前も道連れだ、、猗窩座!」


儂の人生最強の一閃は首をギリギリ切り終わる寸前で止まり、儂は生意気な弟子の顔を浮かべながら笑い、息を引き取った。


立ったまま死んだのだ。


* * *


吹雪は吹き付ける昼間


ある少年は言った。


「あなたの意思は私が、いえ儂が、鱗滝左近次が継ぎます。だから見守っていてください。黒滝誠一郎師範。」


そんな声が墓場で泣く未来の柱の口から空へ響いたのだった。

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