ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜
【スピンオフ】宿屋ピーピー日和
シーラがクラルハイトに帰った翌朝。
ジェイドは複雑な表情でテーブルについていた。
普段だったら楽しい朝食の時間。しかし今日は違う。
これ見よがしに、黄色いスライムたちがピーピー鳴きながらお皿を運んでいるのだ。
「リンダ、これはいったい?」
「これはって、スライムちゃんたちにお皿運んでもらっているだけよ〜。ね〜?」
『ピ〜!』
『ピ〜ピ〜!』
リンダの呼びかけに嬉しそうに答えるスライムたち。テーブルに増えていくお皿を見て、ジェイドが呆れたように息を吐いた。
「あのなぁ……」
「なぁに?この子たち何も悪いことしてないわよ?」
「確かにそうなんだが……危なっかしくて――ああ、もう」
そう言いながらジェイドはフラフラと進んでくるスライムから、お皿取り上げる。するとスライムは大きく跳ねてジェイドに訴えた。
『ピピ〜ッ!!』
「ん?返せって言ってるのか?でもなぁ、せめてまっすぐ進んでくれないと、
お皿割っちゃうぞ?」
『ピー……』
「やっぱり言葉を理解してるな、この子たち……」
トボトボと仲間の所へ帰っていくスライムを見て、ジェイドがポツリと呟く。
リンダが追い打ちをかけるように笑顔で言った。
「そうなのよ〜。だから、面倒見ても良いわよね〜?」
「そういう話じゃないぞ、リンダ。魔物なんだからな」
「むぅ、手強いわね」
子どものように頬を膨らませるリンダを見て、ジェイドは両手で顔を覆う。
耳が真っ赤になっていた。
「シレッと俺の心を乱そうとしないでくれよ……」
「私は本気なのよ?あなたが心を動かしてくれるまで、諦めないんだから!」
「……とりあえず、朝食にしよう。せっかく焼いてくれたパンや玉子が冷めてしまうから……」
ジェイドは両手を下げると、顔を赤くしたまま料理を眺める。
ヴァイスア大陸で取れるパホリ麦を使用したパンに、ツィル鳥の玉子焼き。
2つともジェイドの好物だ。
「そうねー。なら、食べちゃいましょう」
リンダはニコニコしながらジェイドの正面に座った。
するとスライムたちも集まってくる。
『ピーピー!』
『ピッ!』
「あなたたちは食べれないわよ〜。終わるまで待っててちょうだい」
『ピ……』
スライムたちはスゴスゴとテーブルの下にひとかたまりになった。
もちろん、その中心にはぬいぐるみのリーダー、テネルがいる。
テネルもピョンピョンと飛び跳ねながら、夫妻の朝食が終わるのを待っていた。
やがて食事が終わると、待ってましたとばかりにスライムたちがテーブルに登ってくる。そして空になったお皿の前でピョンピョンと跳ねた。
「あ、次はあなたたちの番ね〜」
リンダは笑顔で言うと立ち上がり、それを見たジェイドが慌てたように声をかける。
「まさか、同じの食べさせないよな?」
「もう~心配しすぎよ、あなた。
この子たち何でも食べるみたいだから、麦や卵の殻をあげようと思って」
「……腹、壊さないか?」
「あら、心配してくれてるの?よかったわね〜、あなたたち」
『ピ〜ッ!!』
『ピィ!!』
嬉しそうに大きく飛び跳ねるスライムたちを見て、ジェイドは小さくため息を吐いた。
「いや、心配しているわけじゃないんだが……。
そんなに飛び跳ねてたらお皿が――」
言い終わらない内にテーブルから1枚のお皿が滑り落ち、ガチャンと嫌な音を立てて割れた。
スライムたちは一斉に飛び跳ねるのをやめ、飛び散った破片を見つめている。
「ほら、言わんこっちゃない」
「まぁ大変。片付けなきゃ……」
「君は座っててくれ。ケガしたら大変だ」
シェイドは素早く立ち上がると、スライムたちを軽く睨んだ。
「お前たちも動くんじゃないぞ。魔物とはいえ、ゲガはするだろ」
『ピ』
厳しい目つきで言われて、スライムたちは体を縮こませる。
その間にジェイドはホウキとチリトリを取りに、部屋を出ていった。
後ろ姿を見送りながら、リンダがポツリと呟く。
「あらあら、怒っちゃったかしら」
『ピ〜……』
「そんなに落ち込まなくても大丈夫よ。機嫌は悪くなっちゃったけど、あなたたちのことを心配してたでしょ?」
『ピ……』
リンダの優しい声を聞いて、ゾロゾロと彼女の周りに集まる。
その真ん中で、テネルが指示を出すように小さく跳ねていた。
「あら、動いちゃだめって言われたのに」
『ピ』
『ピー』
『声のハリもなくなってるし、反省しているのかしらね』
リンダは小さく首を傾げると、ニッコリと笑みを浮かべる。
「大丈夫、まだ取り返せるわ。ジェイドが破片を片付けてくれたら、今みたいに反省してますってアピールしなさい」
『ピ!』
スライムたちは一声鳴くと再びひとかたまりになり、ジェイドが戻ってくるのを待った。