第三十七話 新たな任務は突然に
ラヴィーネ編、開幕。
「ティ……イニティウムギルド長! ソウジ、サイト、並びにアリス、到着しました!」
サイト達は足早にイニティウムが待つギルド長の待合室へとやって来た。
机に膝をつき、何かの用紙を持って見ていたイニティウムは彼らの到着に気づき言葉をかけていく。
「あぁ、来たかお前達。早速で悪いが、本題に入らせてもらう。ソウジ、そしてサイト。二人には新たな任務を任せたいと思っている」
「新しい任務、ですか?」
「そうだ。近ごろ、ある薬が出回っているんだが……その効能が良くなくてな。服用した人物の精神、特に愛情が暴走してとんでもない事態を引き起こしてしまう事件が多発しているんだ。そこで、新たな任務はその薬の出処と言われている雪の都ラヴィーネへと向かい、調べてほしい」
イニティウムが話したのは、新たな任務について。
しかも内容は、薬の出処を調べてほしいとのこと。
その薬に思い当たることがあったのか、ソウジが耳をピコピコと動かしながらイニティウムへと尋ねていく。
「ギルド長、その薬ってアモールってやつか? 飲んだら恋愛が必ず成就するって言われてる、中々きな臭い代物の」
「あぁ、そうだ。その薬は最初はラヴィーネの中でだけ流行っていたそうだが……徐々に別の場所でも流行るようになってしまっている。そこで、早急に対処をお願いしたいとラヴィーネの王族から依頼があったんだよ。ラヴィーネのギルド『凍える龍の理想郷』と協力して、薬の売買に対処してほしいとな」
「なるほど……分かりました。その調査、受けますよ」
イニティウムの説明に納得したサイト達は頷き、任務に了承する。
これで話が終わったかに思われたが……不意に、アリスが手を挙げた。
皆がアリスへと視線を向ける中、アリスは口を開いていく。
「あの、イニティウムさん。私もその任務に、同行させてはもらえないでしょうか?」
アリスからの言葉は、彼らに衝撃を与えるには十分な内容で。
イニティウムが何かを言う前に、まずサイトが素早く反応した。
「アリス、なんで!? 流石に駄目だよ、何があるか分からないんだし!」
「で、でも。私だって、役に立ちたい。皆が怪我した時の軽い治療ぐらいなら出来るし、迷惑もかけないから!」
「……これは、どうだろうなぁ。ギルド長的にはどうなんですか?」
言い合う二人の傍ら、ソウジがイニティウムへと言葉を促す。
イニティウムもかなり衝撃だったのか、顎に手を添えながら悩ましげに唸っている。
そんなギルド長の様子に、サイトが念を押していく。
「イニティウムさん、駄目ですからね! 流石に危険すぎますから!」
「そ、そんなの分からないじゃない! 私も動けるから、大丈夫だから!」
「……取り敢えず落ち着け、お前達。まぁ、なんだ。今回の件、当然ながらサイトとソウジの二名だけに向かわせるつもりだった。いつどこで厄者の危険が潜んでいるか分からない関係上、こういった任務は覚醒石に目覚めた勇者が担当すべき事だからな」
イニティウムの言葉に、アリスが露骨にしょげていく。
顔を俯かせ、目に見えて落ち込む彼女に対しイニティウムは目を細めて言葉をかける。
「だが……お前は最初に言ったな。無力なままで、災厄達に怯えるだけ。そんなのは嫌、と。そして、俺もこう言った。お前を一人のギルド員として迎え入れると。であるのなら、お前だけを守る形にするのは違うよな」
「っ、それじゃあ!」
「お前が前線へと無理に出ない事。危険だと感じたら、コイツら二人にすぐ頼る事。この二つを守れるなら、同行を許そう」
イニティウムの言葉に、アリスはパァッと顔を明るくさせた。
「ありがとうございます、イニティウムさん!」
はしゃぎ喜ぶアリスに対し、ソウジは見守るような視線を送っているが……中には納得していないものもいた。
それは、サイトで。
彼は狼狽えたまま、イニティウムへと強く抗議していく。
「イニティウムさん! 危険だって分かっているなら了承なんてしちゃ駄目じゃないか!」
「サイト、すまないな。だが、アリス自身が頑張りたい、強くなりたいと思っているのなら……経験は何より大事だとも俺は思う。勝手な判断だが、汲み取ってはくれないだろうか?」
「っ、ぐ、ぬぬ……だぁーもう分かりました! こうなったらしっかり守る! アリス、危険になったらすぐに頼ってくれよ?」
半ば自棄になりながら、サイトは胸をドンと手で打ち付ける。
そんな彼の様子を見たアリスは、感動を最高潮に高まらせていき。
「っ、サイト君ありがとう!」
思わず、抱きついていった。
勢いよく、突進するかの様に。
サイトは鍛えていたのと、体幹があった為に倒れるような事はなかったが。
抱きつかれた、という一つの真実に対して……彼はたいそう狼狽えた。
明るめな麻色をした体毛の裏では、さぞや顔全てが真っ赤に染まりきっていることだろう。
幸いにもフードを被っている為に、その表情は伺われなかったが。
困惑した様子のサイトに対し、ソウジは呆れながら助け舟を出していく。
「ほらアリス。サイトが困ってんだろ、離れてやれ」
「あっ、ごめんつい!」
「……だ、大丈夫。うん、大丈夫。絶対、守るから」
そうして空気が弛緩した中、イニティウムは咳払いを零していく。
三人が姿勢を正したのを確認すると、イニティウムは口を開いていく。
「では、改めて君達に命じる。雪輝く国スノウステイトにある都ラヴィーネへと赴き、そこにいる協力者達と共に薬の出処を調べ上げてその全てを廃棄してくれ。頼んだぞ」
「「「はい!」」」
イニティウムからの指令に、三人は各々が元気よく返事をしていく。
彼らに待ち受ける運命や、いかに――――。




