第三十三話 貴方に頼られる私に
「……っていうのが、兄さんとの出会い。そんでもって、思い出かな」
そう言って、サイトは一つ息を吐いて話を終える。
アリスは静かに、真剣に彼の話を傾聴していた。
サイト自身はなんて事のないように語っていたが、その中身は考えさせられるものがあり、彼女の瞳は揺れている。
村を化け物に襲われて。しかも状況的に考えると、サイトはアリスの様に村の人々と親しげな間柄ではなく、凄惨な扱いを受けていた。
それはアリスにとって、とても信じられることではない状況で。
彼女にとって村の人々は、“家族同然とも言える縁“で結ばれた良き隣人。
共に助け合い、笑い合い、時には喧嘩をして……そんな対等とも言える関係が、村人との関わり方であったから。
だが件のサイトはそこに関して気にしている様子もなかった為に、アリスはあまり言及をしようとは思わなかった。
それとは別に彼女の気を引いたのは、やはり『兄』と呼ばれる存在についてだろうか。
サイトがその人物について話す度に、彼の表情は生き生きとしていた。
それだけで、彼が兄の事をとても好ましく思っているのは明白であると分かる。
アリスは、心の中でどこか物悲しげに呟く。
――――だから、サイト君は兄に成り代わってまでその存在を残そうとするんだ。
自分の命の恩人であり、生きる指標を作った張本人でもあるんだから。
「……貴方は本当に、お兄さんの事が大好きなんだね」
「そう、だね。あはは、何か恥ずかしいな。こういう話をするの、初めてだからさ」
「ふふっ。でも、なんか安心した。貴方は大人びようとしてて、それでいて凄い力を持っているけど……等身大の少年でもあるんだなって思ったから」
アリスの言葉に、兎の少年は更に恥ずかしがって視線を逸らす。
けれど、彼自身は満更でもなさそうで。
そんな和やかな空気の中、パクスがニヤニヤと顔を綻ばせながらやって来た。
「あらあらお二人さん、いい感じになってるねぇ。とってもお似合いだよ!」
「えぇっ!? いや、その、違うよこれは……単純に雑談してただけだって!」
「んふふ、初心だねぇ。それで、あんた達注文は決まったのかい?」
言われ、彼らはハッとする。
話に夢中になるばかりで、注文を一切していなかったのだ。
アリスがすぐさまメニュー表に書いてあった料理をパクスに頼み、承諾したパクスは奥にいる店員に注文を頼みに向かっていった。
そうした間が空いた後、今度はアリスの方から口を開いていく。
「ねぇ。私が貴方に秘密を教えてもらった時に言った事、覚えてる? 悪いのは全部厄者なんだから、貴方がお兄さんの代わりになるっていう事をしてまで辛い気持ちを背負う必要は無いよって」
「……うん、覚えてるよ」
「正直に言うと、今でもその気持ちは変わってない。貴方からお兄さんの話を聞いて、とても素敵な人なんだってことは伝わった。けど、だからって貴方が犠牲になるような生き方はやっぱり違うと思う。貴方自身として、貴方が胸を張って生きていけたならって……私はそう思う」
兎の少年はアリスの言葉を、どう受け止めたのだろうか。
フードの中の顔は、いつもなら見えていなくても感情が分かるようになってきたのに、今は微かにしか感じ取れない。
彼の心境が、まだ掴めきれていない。
けど、絆を育めていないわけではないとアリスは思う。
思うからこそ、言葉を続ける。
「だから、また改めて約束。貴方に頼られる私になる。皆を守れる強い私に。そして、貴方の本当の名前も教えてもらう。だから――――」
彼女は手を差し出す。
その行動を見たサイトはすぐに察したが、即座に行動に移しはしなかった。
けれど、続くアリスの言葉に彼は。
「それまで私、頑張るから。貴方や、ソウジに追いつくために……精一杯頑張る! それまで、諦めたりなんかしないからね!」
その橙色の瞳を、揺らしていく。
最初に会った時は弱々しかった彼女であったが、実際はこっちの方が本来の彼女らしいところなのだろうか、などと彼は考える。
村を襲われ滅ぼされ、一人苦しくなっていた時とは違うのだろう。
であれば、応えなければならない。
彼女の強さと、勇気に。
サイトはアリスの手を、握り返していく。
「俺も、約束するよ。必ず、本当の名を明かすって。そして……さっき言ったみたいに、君に誇れる自分であれるように、頑張る」
彼らの間に、友情が改めて結束されていく。
それは強固な繋がり、千切れることの無い永久の縁。
その友情はいつしか、世界を救う希望となる。
と、誰かの腹の虫がなった。
アリスが腹を擦っていく。
「じゃあ、これで一旦お話は区切ってさ。料理を食べたいよね〜!」
「そういえば、まだ食べてなかったっけ。そろそろ来そうな気がするけど」
「は〜い! お待たせしたよあんた達ぃ! 特製ドデカキッシュ、たんとお上がり!」
話が一区切りついた頃に、それはやって来た。
テーブルを覆うのではないかというぐらいの、デカい、デカい料理。
アリスは目を輝かせる。サイトは少し引いている。
サイトはアリスの方に顔を向け口を開けながら、料理を震えながら指さしていく。
「あの、アリスこれ……頼んだの?」
「うん、そうだよ! ほら、サイト君も食べよ食べよ! ぜーったい美味しいからさこれ!」
「うーん。アリスって本当に、よく食べるよなぁ」
頬をかくサイトに、ハヤテが一言。
『いいんじゃないか? お前、そんな彼女の一面も好きなんだろう?』
その一言に、サイトは毛をブワッと逆立たせてしまう。
表情も固くなってしまい、視線はしどろもどろに。
アリスはそんな彼を見て不思議そうに首を傾げていく。
「サイト君、どうしたの?」
「い、いや……何でも、ない」
「そう? じゃあ、早く食べちゃお! いただきまーす!」
――――ハヤテ、後で覚えてろよ……!
そうして、彼らは日常を過ごしていく。
因みにこの後、アリスは机の上にあった大量の料理を全て平らげてしまった。
その後にサイトが食事を終えた後も、更に料理を注文していって美味しそうに頬張っていき。
その食いっぷりにサイトのみならず、パクスや他の客も驚いていたのはまた別の話――――。




