表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
フォーチュン・ライト  作者: おじさま
幕間其の二 決意表明
32/37

第三十二話 追憶:兄との思い出

 その村には、希望()が生まれていた。

 その村には、(勇気)が降り立っていた。

 その村には、災厄(人類の脅威)を討ち滅ぼす理念を掲げており。

 

 その村は、そうした大層な役目(呪い)を独りの子供に託していた。


 俺は、そんな村にいた。

 その村で育てられた過程で、ずっと頭にこびりつく言葉を掛けられ続けて……自分の心には、深い深い穴みたいなモノが出来てしまっていたんだ。


 そんな大きなモノ、背負えないっていうのに。


 村では、とある宗教が信仰されていた。

 その名も、『兎輝星(ときぼし)教』

 初めて世界で覚醒石(デザイアギット)を目覚めさせた()()()()、その人物を崇め奉る宗教であり、その信仰の内容は。


 兎の獣族を『希望』とし、世界を救う存在として世に広めていくこと。


 これを聞く限りではまともにも思えるかもしれないけど、その実態は悍ましいもので。

 どこの誰とも分からない兎の獣族の子供をひたすらに誘拐して、その子供に洗脳染みた教育と厳しい訓練を施していたんだ。


 『お前は必ず世界を救う存在となる』

 『だからお前は頑張らなければならない』

 『世界の為に、自らを犠牲にしていかなければならないのだ』


 ってね。

 そうした思想に迎合出来なければ……殴る蹴る等の暴力を用いてでも、その思想に染まらせようとしてた。

 俺はそんな境遇に対して、堪らなく無力だったんだ。

 同じ年頃の子を助けられない、逆らってもより強い暴力で押さえつけられるだけで。

 その強制的な洗脳と訓練に、数知れない子供達(同類)が耐え切れずに死んでいった。

 

 そして、俺自身は。

 両親を知らない。

 顔も、声も、何もかもを。

 物心ついた時からその村にいて、洗脳をただひたすらに与え込まれていた。


 ずっとこんな暮らしが、狂ったような暮らしが続くと思っていた。

  

 けどそんな時に、兄……そう呼ぶようになる人物と出会うことになったんだ。


「……誰? あんた、外の人?」

「あぁ、そうだよ。それで君は……何でここに、一人で?」

()()()()んだ。オレは希望で、光なんだって。だから、化け物が襲ってきた時に村の皆がこぞって隠した。だからオレは、こうしてここにいる」


 洞窟の奥、小さな石の祭壇がある場所に俺は避難していて、そこが初めての顔合わせ。

 冷たい祭壇に背中を預けながら、俺は静かに兄さんを見つめていた。

 鉄仮面の様に表情一つ変えないボロボロの姿の俺に対し、兄さんは優しく微笑みながら会話を続けてきたんだ。


「そうだったのか。……なぁ、君。良ければなんだが、僕と一緒に来ないか? 君の事、ほっとけなくて」

「いい。オレはこのままここでくたばる。疲れてるんだ、色々と。だから、ほっといてくれ」

「それは出来ないな。今目の前でくたばるなんて言う子供一人を、放っておけるわけないだろ。……よしっ」


 何かを決めたとばかりに兄さんは動き出す。

 無理やり俺の体を抱きかかえると、そのまま洞窟の外へと連れ出したんだ。

 俺はそこで、抵抗を示す様にもがいて暴れて。


「離せよっ、オレに構うな! 過度な期待なんて要らない、勝手な希望を与えられて生きようだなんて思わない!」

「僕は君に、そんなモノを押し付けようとはしてないよ。ただ健やかに生きていてほしい。それだけだ」

「なんっ、だよそれ! やめろよっ、この!」


 逃れようとしても、兄さんは一切放す事なく歩みを進めていく。

 力強く、俺を抱き締めて。

 拒否権なんて無いとばかりに彼は道を進んでいくんだ。

 荒れ果てた村の中を、射し込まれる空からの光に照らされながら。


 そうして俺は、森深くに佇んでいたオウンズ家へと住むことになる。

 最初は警戒した。ずっと洗脳紛いな事をされて、ろくに自由もなかったから……兄さんや他の人達が何かしてくるんじゃないかって、反抗的でさ。

 

 そんな時に一度、俺は家から逃げ出したことがあったんだ。


 森の奥深くまで、息を切らしながら必死に走って。

 足がもつれて地面に転んでも、ずっとずっと走り続けてた。

 そうしたら、不意に森の中から声が聞こえてきて。

 兄さん達が来たのかと思ったら、違って……よくよく注意深く聞いてると、それは魔獣の唸り声みたいなものだったんだ。

 俺はたまらず腰を抜かして、怯えて体を縮こまらせてさ。

 そうしていると、(くだん)の魔獣が飛び出してきて俺に襲いかかってきたんだ。


 もう駄目だ! って思った時に……兄さんが助けに来てくれた。

 風の剣を鮮やかに振るってその魔獣を斬り伏せたその姿は、本当にカッコよくて。

 今でもその姿は覚えてるなぁ。

 そうやって見惚れてた間に、魔獣もその姿を消していって。

 そのまま、兄さんが俺の方を向いたんだ。

 怒られるって思った。

 叩かれたりするんじゃないかって、身構えたんだけど……兄さんは俺の事を優しく、でも力強く抱きしめてきたんだ。

 びっくりした。それと同時に、何でこんな事をするんだって思って兄さんの顔を見たら、兄さんは凄く辛そうな顔で俺に言ったんだ。


「無事で良かった……! 勝手にいなくなって、心配したんだぞ!? でも……本当に、良かったぁ」


 そんな言葉を、涙目になりながら言ってさ。

 それ以来、俺は兄さんの事を信頼するようになっていった。

 この人は、本当に心の底から人の事を助けられる人なんだって、感じられたから。 

 

 そこからの毎日は楽しいし、面白いし、凄く晴れやかな気分で過ごせた。


 兄さんが、味わい深くて愛情の籠った料理を作ってくれたり。

 色々な物語が紡がれた、絵本の数々を読んでくれたり。

 周りに広がる自然や、動物たちとの触れ合い方を教えてくれたり。


 本当に、幸せだったんだ。


 兄さんはよく、こんな事を話してくれた。


「人と共に助け合うのは、とても大事な事だよ。そうした絆の繋がりが、やがては世界を救う鍵になっていく。ごく自然に、当たり前のように人と人とが手を取り合えたなら……それは本当に素晴らしい事だと僕は思うんだ」


 とても素敵な言葉だと思って、俺は今でもこの言葉は大事にしてる。

 それが実行出来てるかは、分からないけど。

 

 そんな兄さんが時折、陰を見せてた事も俺は知っててさ。

 どこかからやって来た偉そうな人達と話をしては、毎回頭を悩ませてるっていうのも小耳に挟んだりしてて。 

 心配だった。

 でも、俺からは何も言い出せなかったんだ。

 言って、嫌われたらどうしようとか考えちゃってて。

 けど……兄さんは陰を俺に当てることは一度も無く、常に笑って過ごしてた。

 

 そんな善性の塊である兄さんと俺は……死別してしまったんだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ