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フォーチュン・ライト  作者: おじさま
幕間其の二 決意表明
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第二十九話 帰還、そして日常に

日常がまた、過ぎていく。

 ボーデンでの出来事が過ぎて、それから三日後。

 サイト達は無事にアストラの街へと戻ってきていた。

 馬車から降り立ち、何週間ぶりに見る街並みを見渡すサイト達は、ある事に気がつく。

 飛び立つ風船、軽快な笛の音や弦楽器が奏でる音楽に、騒がしい人混みと立ち並ぶ露店の数々。

 まさにどんちゃん騒ぎな光景に、サイトは驚きの表情を隠せずにいた。

 目を白黒させながら、ソウジへと顔を向けていく。


「ねぇ、ソウジ。今って何かやってるの?」

「あぁ、サイトは初めて見るのか。今の時期、アストラではある祭りを開催してるんだ。その名も『()()()()()()』! 人々が災厄に打ち勝てるように、希望を祈る祭りなんだが……その影響で、人も店もこんなに多いわけだなぁ」

「かがやき祭り……! 凄いね、アストラってそんな事もやるんだ! 早速見に行こう、ソウジ――――」


 目をキラキラと輝かせながら祭りに参加しようとするサイトに対し、ソウジは額に向かって軽く手を叩きつけた。

 痛みがサイトをヒリヒリと襲い、額を抑えながら彼はソウジへと抗議の視線を送る。


「何するんだよぉ」

「何するんだよって……まずはギルドに戻って報告。それにお前、ギルドに提出する報告書も完成してないだろ? ボーデンでうんうん唸ってた所から、ちゃんと進んでんのか?」


 言われ、サイトは固まった。

 冷や汗をダラダラと流しながら露骨に視線を逸らす彼の姿に、ソウジは軽くため息を吐く。

 ソウジはサイトと共に過ごし観察してきたことで、分かった事がいくつかある。

 

 年相応に子供っぽくムキになる、若い者らしく無茶をしがち、時に自分の事を卑下もする、など様々。

 

 ソウジが特に意外だと思ったのは、紙に向かう作業が苦手だという事だった。

 それとなく、ソウジはサイトに尋ねてみた。

 何故苦手なのかと。

 すると、彼はこんな返答をしたのだ。


『……実は、あんまりジッとしてるのは好きじゃないんだ。紙に向かってると、眠くはならないんだけどイマイチ興が乗らないというか、やる気が出なくて』


 と、これまた子供らしい理由であった。

 要するに、興味のある事以外にはやる気が出ないという事であり……何となく共感は出来る事だと、ソウジは心の中で頷く。

 しかし、それとこれとはまた別で。

 ギルドに報告書を提出するのは、大事な事。

 特に今回の一件は厄者絡みであり、重要な情報はギルド間でも共有しなければならないのだ。

 サイトは厄者と直に戦っている為、より報告書の重要性は高まる。

 である為にソウジは敢えて厳しく、視線を逸らすサイトへと叱咤していくのだ。


「進んでねぇんなら、書き終わって提出してから祭りに参加すること! 分かったか?」

「うぐぅ……でも報告書って何をどう書けばいいのか、あんまり分かんないんだよ。書けば書くだけいいってもんでもないだろ? 起こった事を纏めたりとか、それを上手く説明するのって難しいしさぁ」


 サイトは不満を漏らしていく。

 その反論は、ソウジにとっても共感できるものであり。

 狼の顔をむぅと悩ましげに変化させながら、一つ息を吐く。

 

「……はぁ、じゃあ俺もお前の報告書作りを手伝うよ。ギルドの空いてる机で一緒に書いて、そんで書き終わって諸々済ませたら、アリスを誘って三人で祭りを観て回ろうぜ?」

「ホント!? ありがとうソウジ! それじゃ、早くギルドに戻ろう!」

「はいはい。って、そんな走んなよ他の人にぶつかっちまうぞー!」

「だいじょーぶ!」


 ソウジの注意に、サイトは軽く受け流して走っていく。

 フードを被りながら、その中にある瞳をキラキラと輝かせて彼は楽しげに進んでいた。

 そんな彼の様子を、ハヤテは中で静かに。


『……全く』


 呆れながらも、見守っていた。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 『不滅の(ペルペトゥス・)物語(ファーブラ)』、その訓練所にて。

 組手の構えを取る巨漢の男性……ガッツは、動きやすい布の服を靡かせながらそこにいた。

 相対する人物は、()()()で。

 目の前のガッツを見る水色の瞳は真剣そのもので、油断がない。

 普段着ている胴衣一体型のスカートとは違った、動きやすい布着から見える腕や足は健康的で、肉付きも太く逞しい。

 両者ともに対峙するその空気は、緊張感が漂っていた。


 風が流れ、両者の服を揺らしたのと同時に。


 アリスが動き出す。


「はぁっ!」


 距離を詰めて踏み込むのと同時に正拳を勢いよく放つが、ガッツは掌で軽く受け流す。

 しかしアリスは攻撃の手を緩めず、もう片方の足で踏み込んで逆突きを放った。

 が、これもあっさりといなされる。

 ならばとアリスは続け様に流れるような乱打、けれど攻撃はどれも当たらない。

 全てがガッツに受け流されていく。


「くぅ……!」

「どうしたアリス、こんなものか!」

「っ、こんなものじゃ、ないよ! これなら――――」


 アリスはガッツから距離を取り、そして即座に技へと移る。

 回転、右脚を軸とした左脚での上段への蹴り。

 相手の首元へと引っ掛けるような動作を取ったその蹴りが、ガッツへと襲い掛かる。

 今の今までの稽古で、ガッツにこの技は見せていない。

 いける、そう確信していたアリスだったが。


 ――――いとも簡単に、その脚は受け止められた。


「嘘っ!?」

「なっはっはっ! 足技とはな! お前の成長には驚かされるぞ、アリス!」

「くっ、この――――」


 脚をすぐさま離したアリスは、また新たに攻撃を繰り出そうとする。

 が、それよりも早くにガッツは行動を起こしていた。

 その巨体に見合わない素早さで体勢を低くし足払いを繰り出すと、アリスを転ばせる。


「うわっ!?」

 

 転び戸惑った彼女の眼前へ、そのまま流れる様に拳を放ち――――寸での所でその一撃は止められた。

 一瞬の間の後、アリスは項垂れてため息を吐く。


「……私の、負けです」


 勝負は決した。

 ガッツはニヤリと笑いながら、アリスへと手を差し伸べる。

 アリスはその手を掴み、そのまま体を起こしていった。

 服についた土埃を払いながら、彼女は悔しげな表情を浮かべてガッツへと話しかけていく。


「はぁ、今回は良いところまでいけると思ったんだけど……やっぱりガッツさんは強いなぁ」

「そりゃまぁ、俺はギルドのメンバーを訓練する指導者の立場だからなぁ。強いのは当っ然、ってなもんだぜ?」

「それはそうだけど……うーん、私って強くなれてるのかなぁ。イマイチ実感湧かないというか、何というか」


 腕を組み、悩ましげに眉毛を寄せるアリス。

 そんな彼女に、ガッツは優しげな視線を送った後にその背中をバンバンと叩いた。


「心配しなくても強くなってんぜぇお前は! 最初の頃と比べたら、見違えるように動けるようになってら! 特に足技、あれどこで覚えてきたんだ?」

「……足技は、その。サイト君が戦ってた時に使ってた事があったから、それを参考に他のギルドの人達から色々と教えてもらって練習してたんです。でも結局、ガッツさんには通じませんでしたけど」

「練習ってお前……一朝一夕で身につくもんじゃねぇぞそれ。どんだけ頑張ったんだっ、ったくよぉ! すげぇぞ、すげぇすげぇ!」


 頭をこねくり回すように撫で褒めちぎるガッツに、アリスは困惑する。

 少しして、こねくり回される状態から解放されたアリス。

 その表情には変わらず困惑の色が浮かんでおり、先程のガッツの言葉に納得がいっていないようだった。

 しかしそれはそれとして、彼女はある事を伝える為に口を開いていく。


「ガッツさん……その、色々とあ――――」


 が、その言葉は途中で途切れる事になる。

 ある一人のギルド員らしき人族(ヒューマノス)の女性がアリス達へと走りながら近づき、大きな声で呼びかけてきたからだ。


「おぉーい二人ともー! サイト君とソウジが帰ってきたってさー!」


 言葉の内容を聞いたアリスは、すぐさま反応を示す。


「っ、本当ですか!?」


 その表情には嬉しさの他に、安堵も備わっていた。

 しかし彼女はその場からすぐに向かおうとはしない。

 ガッツの顔と、サイト達が帰ってきているであろうギルド内の建物とを交互に見合わせている。

 そんな彼女に気が付いたガッツは、ニカッと笑みを浮かべて背中を優しく押す。


「行って迎えてこい。そんでもって、今日の訓練も終わりだ。丁度かがやき祭りもやってる事だし、皆で楽しんでくるといい」


 言われ、アリスはキラキラと満面の笑みを浮かべた。それはもう分かりやすいぐらいに。

 そして行動も早かった。

 だっ、と駆け出し、声をかけてきた女性の横を通り過ぎてそのままギルドの建物へと入っていく。

 

 

 ――――その様子を、ガッツは微笑んで見つめていた。

 そう、それはまるで大切な相手を眺める様な、慈しんだ眼で彼女を見守っていたのだ。

 


「しかしその眼には同時に、何かを憂うようなモノも含まれている。そうそれはまるで、これからの彼女の行く末を案じるかのような……!」

「おい、何勝手に人の心の声を好き勝手に喋ってんだよ。暇なんだったら、訓練してやるぜ?」

「えー、ちょっとした冗談じゃないですかぁガッツさん。ていうか、実際問題アリスに向けてる感情はそれに近しいものなんじゃないですかー?」


 カラカラとからかうように笑う女性ギルド員に対し、ガッツは「ちげぇよ」と否定していく。


「アイツは……大事な部下っつーか、親しい隣人みてーな感じだよ。まぁ、特別贔屓目に見てやってるってのは間違いないけどな」

「ははぁ、ナルホド。つまりそれほど大事で大切な存在なんですねぇ〜! いやぁいーなー、私もそんな気持ちを味わってみたーい!」

「……だからそういうんじゃねぇっての。お前も相変わらずだな」


 苦笑気味のガッツに対し、ギルド員はニンマリとした笑みを浮かべたままに口を開く。


「だってそういう感情、すっごく大切じゃないですか! 愛……それは心を揺れ動かし、潤わせる愛しき感情! 抱けば抱く分、お得なんですよー!」


 そう言ってはしゃぐギルド員に、ガッツは一つ頭にチョップを浴びせる。

 不満げに抗議するギルド員を無視し、ガッツはある懸念を心に抱いていた。


 それは、彼女が先程言いかけていた言葉。


『色々と、ありがとう』


 その言葉に返すなら、ガッツは気にするなと言うだろう。

 ただ助けになりたいからしてるだけだ、と。

 彼女は優しい……他者を慮る事の出来る穏やかな心を持ち合わせている。


 しかしそれは、これから彼女が相対する敵と戦う時に大きなハンデと成りうるかもしれない。


「……まっ、考えすぎても仕方ねぇか」


 誰にも聞こえない程に、小さくそう呟くガッツ。

 彼の言葉は、風に攫われ消えていく――――。 

幕間その二、始まりました!

この章が終わった後、二章へと突入します!

是非お楽しみ頂ければと思いますー!

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