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フォーチュン・ライト  作者: おじさま
第一章 叫び猛れ、獅子の咆哮 〜心実の想い〜
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第二十七話 嫉妬は取り込まれ、欲深き者の糧となる

 とある地域の森、その奥深くで。

 黒々とした靄であるアンチが、悶え苦しんでいた。

 実体が無いにも関わらず、痛みが与えられている。

 脳が焼き切れる、体中が痛い苦しい、思考すると熱が宿りすぎて上手く考えが定まってくれない。


 この現状を、打破することが出来ない。


 そんなアンチの状況を作り出しているのが、ミア。

 彼女は自身が生成し編み出したとある魔術を使って、アンチの動きを制限していた。


「『精神蝕・喰メンスクリプス・イーター』……どうかしら、私のそこそこの自信作。行動を起こそうとするだけで、体が痛くてたまらないでしょう?」


 クスクスと、小馬鹿にしたように笑うミア。

 そんなミアに、アンチは最大限の殺意を込めた威圧感を放つ。

 が、それは何の意味もなさない。

 この場においての強者、ヒエラルキーの絶対的頂点に位置するのはミアに他ならないのだから。

 

 弱者がいくら反抗したとしても、無意味だ。


「さぁて。何か言い残す事はあるかしら?」

「ク■ッ、■ソク■ク■■ッ!!■■! ふ■■るな■、■の(アマ)■■■!!■! 利■■て■った■■僕■、■■、僕■■■!!!■■ お■■たい■掠■■る■■ザ■なん■に■■■でぇ■■ぇぇ!!■■!」

「うっふふ、ほんっとうに貴方って見苦しいわよねぇ。まっ、それも仕方ないか。貴方は()()に関する負の感情を主にして造られた存在。羨ましいと憎いが共存した、とっても醜い(面白い)感情基盤。それが、貴方なんだものねぇ」


 ミアは笑う、笑う、笑う。

 小馬鹿にしつつ、けれどその視線はどこか観察をしている様にも感じられる。

 何かを理解する様に、目を細めていき。


 やがて彼女は、笑みを無くした。


「じゃあ、そろそろ終わりにしましょうか?」


 その言葉に、アンチは初めて恐怖というものを感じる。

 そう、恐怖だ。

 今までなら、自分が死なない事を分かっている状態だった為に、封印されようが何をされようがまるで堪えていなかった。

 不死身なのだから、人類が何をしようが意味はない。

 だから、恐怖なぞしない。

 憎悪しか湧かなかったというのに。


「お■、何■■■つ■り■■…!」


 聞かざるを得ない、聞かなければ、生きる手立てが見つけられない。

 そんな恐怖の感情を感じ取ったミアは、その変わらない無表情を保ったままにアンチへと返答していく。


「貴方を()()するの。私の中に取り込んで、そして力に変える。それだけの話よ」


 ミアの放った言葉に、アンチの思考は呆けてしまう。

 何を、言った?

 何の、冗談だ?

 こんなアバズレに、僕が取り込まれる?

 ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな、ふざけるな。

 ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな――――――――――――


「じゃ、さようなら。貴方の嫉妬、よーく参考になったと思うわ」


 靄は喰らわれる。

 残忍に、残酷に、言葉にならない悲鳴をあげて。

 誰にも助けてもらえず、人知れずに喰われ殺される。

 痛みが走る、自分自身が消えてなくなっていくのを感じていく。


 消えたくない、消えたくない。

 嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 僕はもっと、世界を……破滅、に………… ………… …… …………………… ………………。


「……ふぅ、終わりっと。これで何もかも万事解決、っていう感じでどう? ()()()


 アンチを吸収し、手の平を開いて閉じながら具合を確認しつつ、ミアは後方へと言葉を投げかける。

 すると、何もない宙空に黒い靄が突如として現れた。


『よくやりました、ミア。貴女を厄者の後継として認めます』


 その靄から聞こえるのは、無機質かつ冷たい声。

 冷淡さを感じさせるその声に、ミアは対照的とも言える場違いな明るさを表した声色で愉快そうに返答する。


「ありがと〜。それもこれも、貴女が力を分けてくれたお陰ね! にしても、その分けてくれた()に備わっていたエッセンス……ただそこらにある概念って訳じゃないわよね? 一体何なのか、教えてくれたり?」


 あざとく、手を合わせながらそう尋ねるミアへの返答は無い。

 ただただ淡々と、事務的にメモリは言葉を並べていく。


『話すべきでない事を話すつもりはありません。貴女は何も聞かず、ただ私に従ってくれていればそれでいいのです』

「えー、酷いなー。貴女に協力してあげてる有用な駒なんだから、ちょっとぐらい優遇してくれてもいいのに」

『くだらないことを言わないでください。それよりも、アンチの力は馴染んでいますか?』


 にべもなくそう話していく黒い靄……メモリに、ミアは諦めの溜め息をフッと吐く。

 笑みを絶やさず、しかしてまた観察する視線をメモリへと向けながら言葉を返す。

 

「うーん、今はまだ取り込んだばかりだから微妙かなぁ。時間が経てばまた変わるだろうけど」

『そうですか。では、早急に力を馴染ませる努力をしてください。貴女には新たな仕事を用意していますので』

「人使い荒いなぁ……まぁいいけど。で、次は何?」


 ただの友人との会話のような流れを続ける彼女達。

 しかし、その内容はとても常人がする様なものではない。

 悪辣なる者達の、会合だ。


『メ―ディアが開発している薬、その手伝いを頼みます。魔術的な要素を加味して、貴女が適任だと判断しました』

「薬、ねぇ。私の専門じゃあないけれど……メ―ディアの事は気になっていたし、いいわ! じゃあ早速、お願いね」

『はい。スノウステイトへと送りますが、()()()()様に留意はしておいて下さい。あの地に住まう者達は、我々の様な魔なる存在を特段忌み嫌っていますので』


 そう話し、メモリは新たに大きな黒い靄を生み出す。

 ミアはその靄へと歩を進めて……入りきる直前に、彼女はメモリへと言葉を投げかけた。


「そうそう、メモリ。貴女の()()が何なのかは、まだよく分かってないけれど……とりあえずその無愛想は直した方がいいと思うわよー?」

『……無愛想、ですか。ふむ、無愛想』

「あら意外。一切取り合わないと思ってたのに反応するんだ」


 移動する直前、ミアは本当に驚いたようで目を丸くさせる。

 相手は厄者、感情など存在しないと思っていたが故の反応だ。

 興味本位からか、ミアは笑みを濃くしながらメモリへとアドバイスをしていく。


「んー、もし本当に直したいと思うならさ。私と定期的に話さない? これでも人の感情に関してはそこそこ詳しいつもりだから、貴女に有益な助言を沢山教えられると思うの」

『……何故ですか? その提案は、私にとってメリットがありすぎます。少なくとも、貴女の労力が増える事は必至でしょう。なのに、どうして?』

「それはねぇ……()()()()()()()()()()。理由はそれだけよ?」


 ミアの言葉に、メモリは黙る。

 一切の騒音の無い静寂が、数刻続き。

 メモリが、淡々と言葉を発する。


『なるほど。一つ学びました。貴女とは定期的に話す事にします。では、そろそろ向かってください』

「はいはーい! 仕事の件に関しても任せておいて。私の求めてる事の為なら、なーんでもするから」


 そうして、ミアは靄の中に消えた。

 その様子を確認したメモリも、自らに繋がる黒い靄を閉じる。


 森の中には、誰かのいた痕跡など跡形もなく消え失せて。


 後に残るのは、いつも通りの穏やかな森の風景のみ――――。


 ――――――――――――――――――――――――――――


 吹雪く雪原、見渡す限りの白、白、白、白。

 飛ばされた先、スノウステイトに存在するその地でミアは首を捻っていた。


 ――――魔を弾く結界石(ゲニウス)による結界が、前に来た時よりも一層強固になっている。それも、ここいら一帯の地域特有の聖なる力を使って。


 メモリはこれらの事象に考慮しての転送だったのだろうが……このままではメーディアと合流するのは難しい。

 ボーデンにて既に問題を起こしている傍ら、続け様に問題を起こして自身に不用意な危害が及んでしまうのは避けたいが為に破壊もしたくない。

 そもそも、スノウステイトの地特有の結界となってしまっているせいで、原理を解析して壊すのにも時間がかかる。

 メーディアとの合流が遅れれば、薬にも着手が出来ない。

 どうしたものかと悩みに悩んで……彼女は一つある事を思いついた。

 それは。


()()()()に手伝ってもらっちゃおう! スノウステイト(ここ)ってあの人の故郷だから、こういう結界の上手い避け方か壊し方を知ってそうだし!」


 善は急げ、彼女は自身の手元に()()()()()を出現させて何かを口ずさみ始める。

 簡単な詠唱、ものの数秒で事は済み……開かれた書物、白紙のページに文字が現れた。


【何用だ、ミア? 我は鍛錬で忙しいのだが……】


 堅苦しい文面にミアはクスリと笑うと、ツラツラと自身の現状を伝える文字を別のページに書いていく。

 そして、転送。

 そこから数秒で、また返事がくる。

 そこには。


【相分かった。その様な事情であれば、力を貸さぬ道理はない。我が目的の為にも、厄者と協力関係を結ぶのは吝かではないからな】


 そんな、またもや堅苦しい文章が書かれていた。

 ミアはそこにまた軽い文章を送り、書物を閉じる。

 

 ――――息を吐き出す。


 冷たい空気、肌を刺す風、凍えていく体温。

 これは、既知の事だ。

 寒い所にいれば、こうなる。

 そういう、当たり前に知っている事なのだ。


 でも、今から起こり得る事象は、知らない事。


 未知、未知なのだ。


 あぁ、あぁ。

 とっても。

 非常に。


「たぁっのしみぃ〜……」


 恍惚と、彼女はそう呟いた。

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