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フォーチュン・ライト  作者: おじさま
第一章 叫び猛れ、獅子の咆哮 〜心実の想い〜
24/37

第二十四話 叫び伝えるは、獅子の想い

 アンチの逃げた先、幻惑の白き霧が漂う異空間。

 そこにサイトとレオンは入り込み、アンチを探していた。

 周囲を伺い、気配を探る。

 しかし、その姿を見つける事が出来ない。

 アンチが自身の姿を隠す事に特化しているからか、探っても探っても一向に姿が見当たらない。

 どうしたものかと、二人は頭を悩ませていた。

 

 ――――その時。


「ッ! レオン、危ない!」


 サイトが叫びレオンを押し退ける。

 すると、レオンが立っていた位置に悍ましい気の流れが迫り、濁流の様に雪崩込んでいく。

 それはサイトへと押し寄せられて、飲み込まれそうになる。


「サイト! 待ってろ、今助ける!」


 レオンが助けようと動くが、サイトはそれを制止する。

 

「僕の事は、いい! レオンはアンチを探す事に集中しろ! 大丈夫、絶対助けに行くから――――」


 その言葉を残して、サイトは濁流の中に沈んでいった。

 後に残ったレオンは、意を決して前に進む。

 親友を、救け出すために。


 ―――――――――――――――――――――――――――――



 ――――酷く、静かだ。


 あれから、レオンは歩き続けている。

 ひたすらに、ただひたすらに。

 歩いて、歩いて、歩き続けて。

 しかし、その心に曇りは無い。

 必ずサーペンを見つけられると、信じているから。

 あの頃のように、手を引いて。

 連れ出せると、信じているから。 

 

『いやぁ、レオンの活躍は目覚ましいものがあるよなぁ。勇者として、村に尽くして頑張ってるアイツの姿は、凄く勇気をもらえる』


 ふと、声が聴こえた。

 自身の耳に、スルスルと入り込むようにして、その声は続けられていく。


『それに比べて……サーペンの奴はてんで駄目だな。頭は良くても、覚醒石の力がないから魔獣にすら太刀打ちできない。戦いに不得手な時点で、期待はしてなかったが』


 これは、まさか。

 レオンはすぐさま勘付いた。

 この声は……この、光景は。

 サーペンが味わってきた出来事そのものなのだと。

 村の住人らしき男や他の村民は、口々にサーペンへの悪態をついていく。


『レオンに何かと気に入られているが、旧くからの付き合いというだけで引っ付き回られては、たまったものではない。変に邪魔をされて、レオンの気を削がれても困る』

『普段から大人しいし、顔にあんまり表情も出ないから何を考えてるか分からないのよねぇ。ちょっと怖いわぁ』

『何より気に入らねぇのは、あれでギルドの一員として活動してることだな。あんなのにまで報酬が分けられてるなんざ、信じたくねぇよ』


 代わる代わるに発せられる内容は、レオンの顔を顰めさせていく。


 ――――あぁ、本当に腹立たしい。

 

 そして、景色は移り変わり。

 次いでレオンの目に見えるのは、家の中で一人本を読み漁るサーペン。

 ブツブツと何かを呟きながら、血眼になって読んでいるその姿は荒れに荒れて、酷く痛々しい。


『作戦は綿密にけれど大胆にそれでいて柔軟に有用性の高いものでなければ意味がないそれらを立案できなければ俺があそこにいる価値はない駄目だ駄目だこんなんじゃ駄目だ駄目なんだ俺は勇者じゃないんだからこんなものじゃ駄目だもっと努力しないと頑張らないと駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ駄目だ』


 半ば声は震え、誰かに許しを乞うていると認識出来るそれに、レオンは近寄ろうとする。

 しかし、それは叶わない。

 近づこうとしても、近づけない。

 何かの力が働く様に、押し返される。


「レオン、これが彼の答えなのさ。君を拒絶し、自らを認めず、無残に華々しく散ることを望んでいる……そうそれはまるで、勇者の様にねぇ!」


 レオンの背後から聞こえた下卑た声。

 それに反応し、彼は振り向く。

 そこにいたのは、サーペン……の身体を操るアンチ。

 睨みつけるレオンは、直ぐ様殴りかかろうとしたが。

 それをアンチは制止する。

 片手の人指し指を左右に振って、待ったをかける。


「待ちなよレオン、良い話があるんだ。サーペン君にとっても、君にとってもねぇ」

「聞く意味がねぇ! ぶっ飛ば――――」

「それでサーペン君が救われるとしても?」


 アンチの言葉に、レオンはその動きをピタリと止めた。

 そして。


「……どうやって」


 問うレオンに、アンチは。

 ニンマリと笑みを濃くすると、ネットリとした口調で答えていく。


「僕が君の身体に乗り移る。たったそれだけのかんったんな事で……サーペン君は無事に解き放たれ、君の願いは叶う。サーペン君を救いたいと願う、君の想いがね。どうだい? 悪くない話だろう?」


 アンチはにこやかに、そう告げる。

 

 『彼らの様な存在は、自己犠牲も厭わない』

 

 何処までも優しく(愚か)、何処までも高潔(道化)

 それらを理解するアンチは、こうして甘言を用いて交渉を迫る。

 望み通りに、そうするであろうと予測して。


 ――――さぁ、さぁ、さぁ。その愚かさを証明してみせろ!


「………………あぁ、そうだな。確かに俺が犠牲になりゃあ、サーペンの気持ちも晴れるかもしれないな」


 少しばかり考え、出された言葉は。

 肯定と捉えられるようなものであり。

 アンチはその言葉に、喜んで相槌を打っていく。

 

「ははっ、だろう? 先に視た光景や、サーペン君の気持ちを鑑みれば……君は居なくなったほうがいいのさ。それはサーペン君の総意で、意志だ。だから――――」

「けど、俺は納得してない。だから、お前の提案は受けない」

「……はっ?」


 ポカン、と間抜けな表情をアンチは晒す。

 その言葉が、そんな我儘と差し支えないモノが飛び出た事に、呆気にとられている。

 そんなアンチに、レオンは真剣な眼差しのまま言葉を続けていく。


「今の光景がサーペンの視てきたモノ、そして、ずっとサーペンの中にいたお前の意見を聞いたとしても、全く納得がいかないさ。だって俺は、サーペン本人からは何も聞けてないんだからな」


 言葉の真意を聞いたアンチは、ようやく意識を戻したかと思うと。

 明らかに狼狽した様子を醸し出しながら、怒りを向けて反論する。


「そん……なもの! 詭弁に過ぎない! あれはサーペン君が得てきた心の傷で、苦しみの根幹だぞ!? 本音と差し支えないモノだ、相違ない! 何より僕はサーペン(コイツ)の中にいたから尚の事分かる! お前よりもずっと、ずっとずっとずっとずっとずっとなぁ! 何なら今ここで、お前に対しての憎悪(想い)をいくらでも話してやるがぁ!?」


 アンチの言葉は、レオンに届いている。

 これはある意味……いや、下手な理由付けなんかよりもよっぽど正しい正論であるのだろうと。

 しかし、けれど、だって。

 心に正直になってしまえば、そんな理由付けは。


 ――――いらない。


「サーペン!!!!!」


 言葉を紡ぐ、第一の段階。

 名を呼ぶ、叫ぶ。

 自らの心を、届け伝える為に。

 しっかりと、自身の光り輝く橙色をした両の眼で見据えながら。

 叫んで、いく。


「余計な事は言わねぇ! ただ、一つ! 俺と話そうぜ!!!!!」


 避け続けていた事、目を逸らし続けていた事。

 それらに向き合う為に。

 彼はそう、叫ぶ。


 無論、その言葉を聞いて。

 厄者(アンチ)が黙っている筈も無いのだが。


「もういいや。死ね。死ね。とにかくひたすらに惨たらしく……死“ん“で“し“ま“え“ぇ“ぇ“え“ぇ“ぇ“!“!“!“!“!“」


 最早、苦し紛れ。

 己の力を極限まで振り絞り、蛇を無数に顕現させて襲い掛からせる。

 うねり、這いずり、疾走して襲い来るその大群に対しレオンは。

 アンチに向かって走り出しながら、捌く。

 掴み投げる、踏みつける、殴る蹴る躱す。

 そうして距離は縮まり、徐々にその差は埋まっていた。


「ッ!? クソがッ、これだから力の有り余ってる馬鹿は嫌いなんだ!!!!!」


 苦々しげに、吐き捨てて。 

 アンチは逃げる為に後方へと飛び退くが――――レオンの拳は既に、間合いへと入っていた。


「だぁらぁ!!!!!」


 腹へと右の拳がめり込まされ、鎧は凹む。

 そしてアンチもそれに比例するかの様に、大きく吹き飛んでいった。

 霧を掻き分けながら、勢いよく。

 すると、周囲の霧に変化が生じ始めた。

 薄く、薄く……蔓延っていた霧は消え始めたのだ。

 視界は晴れ、隠れる場所も無くなる。

 それと同時に、アンチは確信する。


「こんのクソガキャァ……! あの陰鬱チビ魔女の力を宿してやがんなぁ!!!!! あぁぁぁあぁぁ! 身体への漂着が……剥がれるぅ……!」


 レオンに宿る力の正体に、慌て嫌悪を表す。

 つまりそれは、有効な事の証であるのだ。

 が。


「はぁっ……んぐっ、はぁぅ、グブッ!?」


 レオンの口から血が少量吐き出される。

 アンチへと攻撃を行い、その身体にしっかりと拳を打ち込んだのと同時に、自身へと明確な反撃が行われたのだ。

 肉体的なものではなく精神的な、言うなれば呪詛に近しきものによって。

 それは対象の身体へと入り込み、精神を蝕んで、やがては肉体そのものに影響を及ぼす呪い。

 現に今のレオンの状態は……黒ずんでいるのだ。


「はぁっ、クソッ……後一発、撃ち込んで……耐えられるかどうか、か?」


 右腕は何かに侵食された様に、その健康そのものであった小麦色の肌を黒く染め上げ。

 心の臓辺りは激しく脈動し、今にもはち切れんばかり。

 全身、特に脳の辺りは一際痛みが強く走り、とても立てるような状態ではない。


 けれど、レオンは立つ。

 ここで踏ん張らねばならぬ理由があるから。

 しっかりと構え直し、彼は力を右拳に込め始める。

 この一撃で、終わらせる為に。


「芯技解放」


 拳に宿るは、気の流れ。

 生命の息吹、大地の奔流。

 そこに加わる邪を祓う聖域の力は、極限にまで高まっていく。


「この一撃こそは、我が想いの輝き、想いの全て。ただお前だけに捧ぐ、本当の気持ち――――」

 

 しかし、アンチはそれを許さない。


「させると思うかぁ!!!!????」


 怪物達を生み出して襲わせるばかりか、自身も剣を用いて突撃したのだ。

 瞬足、その素早さに反応できる者は――――


「風よ、吹き荒れろ!!!!!」


 一人。

 アンチの放った刺突を風の剣で受け流すと共に、生み出した豪風で怪物達を一掃したのは――――サイト。

 剣を受け流され体勢を崩したアンチの腹へ、サイトは鋭く蹴りを放った。

 呻くアンチは、剣を手放す。


 しかし、まだ厄者(ばけもの)は諦めない。


「ま“ぁ“だ“ぁ“だ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“!“!“!“!“!“」


 必死な形相で、もがき足掻いて手を突き出そうとする。

 自信に蓄えられた嫉妬を中心とした負の感情を放出し、殺そうと試みる――――が。


「っ!? うご、か……!」


 動かない。

 体が、拒否する様に。

 その行動を行わない。

 寧ろ、今目の前で繰り出されようとするレオンの拳を真正面から受け止めるようにして、構えている。


 ――――まさか、そんな、嘘だ、馬鹿な、こんな、事が


「レ、オン……や、れぇ……!」 


  

 そして。

 


「受けてみろぉ!!!!! 叫び伝えるは、(ライオネル、)獅子の咆哮(ソウルロア)ぁ!!!!!」


 レオンの光り輝いた鋭い一撃が、刺さる。

 アンチの顔面へと、深々とめり込んでいく。

 すると。


「あ“ぁ“あ“ぁ“ぁ“ぁ“あ“あ“ぁ“あ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“あ“あ“あ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“!“!“!“!“!“!“!“!“!“!“?“?“?“?“?“?“?“?“?“?“」


 聞くもの全てが震え上がる程の絶叫を放ちながら。

 サーペンの体から、得体の知れない何かが抜け出ていくのをサイトは視認した。

 サーペンがふらりと倒れそうになる。

 咄嗟にサイトが抱き抱えようとするが、それは叶わなかった。

 何故ならば、レオンがしっかりとサーペンを支えたからだ。

 サイトは驚き、彼らへと駆け寄る。


「レオン!? 大丈夫……じゃないな。あんた、無茶しすぎだ!」

「……俺は、大丈夫だ。それよりも、サーペン。おい、返事しろ。意識、あんだろ?」


 息も絶え絶えになりながら、そう確認するレオンに対し。

 サーペンは目を開けずに、口だけを動かしていく。

 

「レ、オン。すま、なかっ、た。俺は、お前の、重荷に、なって、て……迷惑を、かけ、てしまっ、て……!」


 声は、震えている。

 閉じられた目の間からは、雫が垂れて。

 ごちゃごちゃとした感情が、漏れ出していく。

 そんな彼に対し、レオンも。


「……っ、そんな事、ねぇよ! 寧ろ俺が、何も力になってやれなくて、ごめん! もう、大丈夫だから! 絶対に……お前の事を、放さねぇから!」


 力強く、手を握って応えた。

 二人の間にあったわだかまりは、確実に溶けていく。

 これで丸く収まったと、サイトは心の中で一息を――――


「■ぁ■ぁだぁ■ぁだぁ■あ■■ぁ」


 つこうとした、その時。

 聴き取れない言語、不可思議なしゃがれた声に、不気味で不愉快な気配。

 サイト達が宙を見ると、そこにいたのは。

 霧のようにモヤモヤとした謎の物体。

 けれど、サイト達はすぐその正体に気付いた。

 先程まで感じていた醜悪な気配、アンチそのものであると。

 アンチはゆらゆらと浮かびながら、尚も聴き取れない言葉を用いてサイト達に敵意を浴びせる。


「こ■中■ダ■か■■イ■取■ツ■ば、■だぼ■■カ■■。■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!?!!!??!!?!????????!??」


 発した言葉の勢いのまま、アンチはサイト達目掛けて接近する。

 標的はサイト。

 その一点に絞って、不気味極まりない言語を発しながら迫る。

 レオン達を庇うように身構えるサイト。

 その距離は後少しで触れ合う。


 五


 四


 三


 二


 一


「…………あ、れ?」


 寸でのところ、最早これまでといった状況で。

 アンチは凍らされていた。

 三角錐形の氷が、霧ごと閉じ込めるようにして。

 更に蝶が舞いながら、その氷を覆っていく。

 この氷を、蝶の温かさを、彼らは知っている。


「……よく頑張ったな、お前達」

「はー、良かったぁ! 二人とも凄いよ!」


 ランスとアゲハ、その人だ。

 彼らは笑みを浮かべてそう言った。

 思わず、サイトとレオンは安堵して座り込む。

 そうして辺りをサイトが見回してみると、霧はその姿を完全に無くし、元の洞窟へと変貌していた。

 壁に掲げられた松明の仄かな光が、今は非常に頼りになる。

 次いで、横のレオン達を見てみると、レオンはサイトを見返してニカッと笑い言う。


「ありがとな、サイト」


 その言葉を聞いたサイトは、ニヒッと笑い返したが。

 次の瞬間、レオンは気が抜けたように倒れ込み。

 やがて、意識を失った――――。

 

 ―――――――――――――――――――――――――――― 


 こうして、ボーデンにて起こった幻霧の一幕は終わりを告げた――――。

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