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フォーチュン・ライト  作者: おじさま
第一章 叫び猛れ、獅子の咆哮 〜心実の想い〜
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第二十三話 反撃の狼煙に、獅子は拳を貫く

〈ぶっ飛ばす……だと? この、僕を?〉


 レオンの宣言に、アンチは霧からそう発言する。

 親友(サーペン)の声でそう問い返す。

 その声色は如何にも不機嫌だと言いたげな調子であり、明らかに空気が一変している。


〈君が、君が僕をこの僕を僕にこの僕をはははははははははははははははははははは〉

 

 壊れた玩具の様に狂い出したアンチは、散々笑い尽くした後。

 周囲の霧からこれまでよりも一層悍ましい気配を漂わせながら――――


  

 

     【図     必

         ず      に

       乗      お

          前 る 

    な   達     

           を     よ】


 

    【人   殺   す   類】

  



        純然たる、殺意

 

 身の毛もよだつ、場にいる者全てを震え上がらせていく程の殺意を湧き上がらせていた。

 それは、得体の知れない化け物と相対した時でさえ感じなかった未知の恐怖。

 言葉に表すことが出来ない程の『ナニカ』であり、恐怖を超えた『感覚』そのもの。

 厄を齎す存在、厄者。

 その片鱗を味わった事のあるサイトは喉を鳴らす。

 あの悍ましい(プレッシャー)に、怯えかける。


 だが。


「ビビってんなよ、サイト」


 レオンの勇ましさを含んだ声がサイトへとかかる。

 恐怖に震えていない、竦んでもいない。

 そのまま彼は、場にいる他の者を鼓舞する様に堂々とした面持ちで霧の中にいるサーペン(アンチ)へと言葉を掛けていく。


「アンチ、お前にかける言葉を改めて言うぜ。ぜってぇその顔面をぶん殴ってやる」

〈……はぁぁぁぁぁ。僕さ、君みたいな直情型のバカなヤツって嫌いなんだよね。無駄に足掻く奴等の中でも特段無駄に足掻くからさぁ〉

「好きに言ってろ。俺はもう迷わずに突き進むって決めてんだ」


 瞳は鋭く、意志は固く、そして想いは一直線に。

 それまでサーペンの中から観察していた時の様な、弱々しくウジウジしていた彼の姿はそこにはない。

 それは、アンチが散々見てきた勇者達の姿と重なり、混じる。

 沸々とアンチの心に渦巻くのは。


〈あぁ、鬱陶しいね君。ぶっ殺してやるよ〉


 殺意のみだ。

 先程よりも一回り大きな怪物達をけしかけていく。

 そのスピードは常人のそれではなく、視認することさえ困難なもの。

 しかし、レオンはその姿をしっかりと捉え――――迫りくる怪物達へ、逆に反撃を喰らわせた。

 掌底、フック、回し蹴り。

 ありとあらゆる体術を駆使して、怪物達を全て消し飛ばしてみせたのだ。


 レオンが行った反撃に、サイトは。


「凄い……」


 そう零した。

 レオンがこれ程までに体術が強かった事にしてもそうだが、何よりは。

 自身の心に恐怖を抱かせた、底知れない圧を受けても尚立ち向かえるその精神力に。

 これが本来の彼なのだろうと、サイトは理解する。

 しかし、感心したのと同時に。


「っ!」


 先程放たれていた圧が、前方から出てきたのをサイト達は感じ取る。

 思わずそちらに視線を送る彼ら。

 すると。

 霧の中から無数の蛇が出現しそれらは全てレオンへと襲いかかった。

 見ればレオンの様子がおかしい。

 明らかに息が上がり、肩が上下に揺れ動いている。

 そんな状態では捌ききるどころか、殺されてしまう。

 

 『このまま黙って、見ているのか?』


 自分の中で、ハヤテが問う。

 無論、答えは決まってる!

 

 サイトは瞬時に足裏へと纏わせた風を利用して素早くレオンの前へと移動し、剣で風を起こして襲い来る蛇を全て斬り裂いた。

 そんな彼の姿を見たレオンは、ニッと笑いながら。


「信じてたぜ、サイト」

 

 屈託なくそう言った。

 そんな彼に何か言葉を返そうとするも、目前の殺気は鋭さを増しながらこちらを睨めつけている。

 サイトは前を向き、口の端から垂れた血を拭いながら一言発する。


「絶対に、救おう」

「っ、応!」


 そんな彼らのやり取りに、アゲハは微笑み見つめる。


(ありがとう、レオン君。貴方のお陰で……反撃の一手が起こせるよ!)

 

 小さな希望。

 彼らが紡ぎ出すその僅かな輝きが。

 勇気を伝播させてゆく。

 そして、遂に。


「我が舞は、心を救う為のもの。傷つけるのではなく、ただひたすらに」


 踊りは完遂される。

 最高の終幕(フィナーレ)を、飾っていくのだ。


「救いの手を差し伸べ、かの者達への勇気とならん! 『幻破舞踊 心新げんはまいようこころあらたに』!」


 光が、溢れ。

 霧はその濃度を薄まらせていき、サイト達の視界は晴れ渡っていく。

 それと同時に、アンチの姿も視認出来るようになっていた。

 サーペンの姿が、目の前に現れたのだ。


「あぁ“ぁあ“ぁああ“あ“ぁぁあ“ぁぁぁ“あ“ああ“あぁぁぁぁ“ぁぁ!!“!!“!“!!“!“!」


 怒号、怒号、怒号。

 姿を現したアンチから、黒き瘴気が勢いよく溢れて周囲に蔓延していく。

 しかし彼らは、厄者を見据えて立ち向かう。


「ムカつくなぁ……あぁほんっっとうにムカつくよぉ……何だその力は? 何だその目はその態度は!? あぁ疎ましい腹立たしい妬ましい鬱陶しい! 少し優位に立てたぐらいで、すぐにそうやって希望を見出す! これだから勇者は! 心底! 嫌いなんだよぉ!!!!!!!!!!!」


 頭を掻き毟りながら叫ぶアンチに呼応する様に、周囲の霧から怪物が次々に現れ。

 景色も揺れ動いて変化する。


 その光景は、正に。


 ――――地獄。


「我が異能(エゴ)を超えた力、本能(イド)の真髄を受ける時だ! さぁ、幻に抱かれて死にゆくがいい! 『我が霧に惑え、(エンヴィ・)愚かなる人類よ(アビズマル)』!“!“!“!“!“」


 叫びだされた言葉共にサイト達へと襲い来るのは、それまでの白と黒の霧とは一転した赤黒く濁りきった霧。

 直感で感じる。

 この霧は、触れればそれだけで終わる。

 そう感じたサイトは前に出て風を起こそうとするが。

 そんな彼よりも先に……レオンが前に出る。


「レオン!?」

「任せとけよ、サイト。俺はもう逃げねぇ……ぜってぇに目を逸らさずに、サーペン(お前)を、見るんだ!」


 レオンは構える、その拳を。

 そこに集中していくのは、聖なる闘気。

 渦を巻き、力が集まっていくのをサイトは感じ取っていた。


「芯技解放! ただ一点、そこに俺の全てを込める!」

 

 そして、その闘気はすぐさま解放されることとなる。

 レオンはその集まった闘気を、ただ一心に――――突き放った!


「絶拳! 獅子の咆哮(ライオネル・ロア)!」


 それは魔を滅する正義の拳。

 拳から放たれる、獅子の顔を象った衝撃波は。

 咆哮をあげながら、迫りくる赤黒い霧を押し退け祓っていく。

 やがて、赤黒い霧はその全てが晴れていき……獅子の衝撃波はそのままアンチへと向かった。

 

「な、にぃ!?」


 アンチは衝撃波を受け、吹き飛ぶ。

 地面へと打ち付けられていき、やがて止まり動かなくなった。

 レオンの荒い息遣いだけが、場に染み渡っていく。

 これで終わったと誰もが思った……が、しかし。


「ざ“ぁ“っ“け“ん“じ“ゃ“あ“ね“ぇ“ぞ“こ“の“ク“ソ“虫“共“が“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“あ“あ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“ぁ“あ“あ“!“!“!“!“!“!“!“!“!“!“!“!“」


 アンチのけたたましい怒号が響き渡る。

 彼は大量の怪物達を生み出し、サイト達へとけしかけた。

 怪物は凄まじい速度で迫る。

 気味の悪い怨嗟入り混じる鳴き声と共に、鋭い爪をたてながら襲い来るそれらに対し、サイトは自身の覚醒石の力を最大限に解放した。


「芯技解放! 猛き風よ。果敢に進み、命を繋ぎ、我が行く道を切り開け!」


 剣の切っ先を下方へと構え、詠唱が進むと共にその剣を頭の上まで上げていく。

 

 そして――――


「威風永劫、鳥嵐アウィス・テンペスタス!!!!!」

 

 詠唱を終えると同時に振り下ろした剣から放たれる豪風により消し飛ぶ怪物達。

 一瞬にして消し飛ばされた怪物達を見て憎々しげに舌打ちをうつアンチは、忌々しくサイトを睨みつけ。


「さっきから……邪魔してんじゃねぇぞクソガキがぁ! お前みたいな弱い奴が、偉そうに歯向かってんじゃねぇよ!」


 怒り挑発する。

 しかしサイトは、その言葉を受けても臆せずに。


「うるさい! 僕がたとえ弱くても……それがお前に立ち向かわない理由にはならない! 絶対に、サーペンさんを助けるんだ!」


 その挑発を受け流した。

 声高らかに言い返した彼の顔は、勇猛果敢であり。

 アンチの心中は、より荒々しくなっていく。


「あぁ、そうかい……ならっ、とことん痛めつけられるといいさ!」


 アンチは後方へと異空間を作り出してそこに逃げ出す。

 同時に、彼のいた場所へと無数の霧が集まり出した。

 形作られていくのは、先に現れた怪物達よりも一段と大きな異形の存在。

 赤黒い靄が脈動するかのように動き、洞窟の天井まで届かんとするその巨体の顔と思われる付近には一つ目がギョロリと蠢いてサイト達を睨めつける。

 それに対し、サイトは再度力を解放しようとするが。


「待て、サイト。ここは俺が引き受ける。その間に、お前とレオンはアンチの元に向かえ」

「そうだよ! ここは私達に任せて、アンチを追って!」


 そう言って、ランスとアゲハが引き止めた。

 見れば、ランスは先程よりも更に冷気の鋭さは増し、ピリピリと毛が逆立つほどの迫力が彼から溢れ出ているのをサイトは感じ取った。

 で、あれば。


「分かった。ランスさん、アゲハさん、頼んだよ。レオン、行こう!」

「おう!」


 信じるのみ。

 サイトはレオンと共に、勢いよく駆け出した。

 そんな彼らを、巨大な怪物は阻んでいく。

 その巨大な手を使って、握りつぶさんと迫る。

 勢いよく、鬱陶しい虫を潰すかの様に振るわれた手だが。


 ランスはそれを阻止するように、自身の力を込めた槍を怪物の右胸部へと勢いよく投げつける。

 その速さに、怪物は反応できない。

 抵抗する間もなく、その槍は宙に氷霜を撒き散らしながら怪物の右胸部へと即座に到達し、突き刺さった。

 そして、それと同時に。

 怪物の動きが、止まった。

 まるで世界から切り離されたかの様に。

 シンッ……と。


『……ッ!? ッ! ッッッッッ!!!!!』


 怪物は困惑する。

 一切の自由が利かない、利かない、利かない。

 そんな怪物が殊更に抱える違和感は、何より自身の核であるモノにあった。


 それは、意志を宿らせる概念。

 全ての生物がその身に持ち合わせる。

 いわば、魂。


 それに、多大なる違和感が生まれている。

 まるでそれは、凍りついて固まってしまっている様な。

 そんな感覚を、怪物は味わっていた。


「芯技、解放」


 口吻(こうふん)から白い息を吐き出しつつ、ランスは一人、祈る様に言葉を零す。

 ただ一点、目の前の巨大な怪物へと意識を向けながら。

 腕を怪物に突き出して、その力を解放していく。


()が姓、レゾナントの名において。汝の御霊、我が魂に共鳴せん。凍え、凍え、凍え、凍えよ。(われ)が凍てつくせし魂は邪悪なる昏冥、ただそれのみと知れ。霊魂極凍――――」


 ランスを中心として、雪の結晶が渦を巻いていく。

 清らかなる雪白は彼に力として宿り、やがて極光となりて怪物へと収束していく。

 そして。


「『極夜の光よ、(カーモスヴァロ、)吹雪け(ルミミルスキー)』」


 ランスが放った冷気が、怪物を覆っていく。

 その巨体を全て凍てつかせんと、纏わり浸透し、やがて。

 巨体は大きな氷像(オブジェクト)となった。

 動く気配はもうない。

 圧倒的なまでの冷気によって、その全ては浄化され、穢れなき物としてそこに鎮座している。

 そして、少しの刻が経つと。

 その氷像は上から塵と化していき、煌びやかな粒を撒きながら消えていった。


「……俺も追いかけるとするか。もう人踏ん張り、だ。アゲハ、お前は……」

「大丈夫、心配しないで! ちょっと疲れちゃっただけ……私もすぐに追いかけるからさ」

「あぁ、分かった」


 そう言って、ランスは異空間へと続く歪みに駆けていく。

 

 アンチとの決着は、すぐそこだ。

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