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フォーチュン・ライト  作者: おじさま
第一章 叫び猛れ、獅子の咆哮 〜心実の想い〜
17/30

不穏

 翌日、サイト達はギルド内部のロビー付近に集合していた。

 昨日に、マナが説明した作戦を行動に移す為の最終確認として、厄者が封じられていたという洞窟に向かうメンバーの状態確認をする為だ。


 メンバーは、サイトを含めた四人。

 サイトが改めて軽い自己紹介をした際に、それぞれが特徴的であったからか、すぐに覚えられた。


 昨日の作戦説明の会議の場で、サイトに対して作戦説明時に手を振っていた人物。

 しなやかな身体に蝶々を連想させるヒラヒラとした服を着ている、見る者によってはドギマギしてしまいそうな見目麗しい顔に長く美しい茶髪と泡褐色の瞳。

 そして、長い耳を備えたエルフ族の女性である『アゲハ』

 

 珍しい龍族(ドラコノス)の中でも特に数が少ない獣龍種(ドラコティアノス)であり、龍の頭を持ち立派な二つの角を生やしている。

 顔や腕から見える白の毛並みはサイトのような獣のそれであり、服の上からでも分かる鍛えられた胸筋とふくらはぎが見える脚に逞しい尻尾。

 切れ長な緑色の目と端正な顔つきをしているクールな印象を与えてくる男性『ランス』


 そして、顔以外は全て使い込まれた白の鎧を着込んでいる、短く整えられた深く青い髪と瞳を持った、これまた整った顔つきをしているクールな雰囲気を持つ人族の『サーペン』

 

 それぞれ着用している衣服から装備、体調に至るまでの全てを隅々まで確認されている。

 

 その中でサイトは……近くにいるサーペンの様子を気にしていた。

 昨晩の出来事が起因している。

 レオンが話していたサーペンとの悩み。

 それを考えながら、サイトは青い髪を持つ彼を横目でチラリと見る。

 

 そこで、兎の少年は気づく。

 サーペンの装着した鎧が僅かながら震えているのを。

 

 視線に気づいたのか、サーペンは不思議がるようにしてサイトへと顔を向けて声をかけた。


「俺の顔に何かついているか?」

「えっ。いや、その。色々、大丈夫ですか?」

「……安心してほしい。厄者討伐に際して、君達勇者に手間をかけさせるような事はしない」


 そのサーペンの返答に、サイトは違和感を覚える。

 既に覚悟を決めている様な。

 そんな様子にサイトは不安が湧き上がる中、全員の確認が完了した。

 全員、異常は特に見られないとされていたが、マナは念の為にある物をサイト達に手渡す。

 それは、ミサンガ。

 四人それぞれに色の違うソレを身に着ける様にとマナは言う。

 

「ミサンガは、色の種類と付ける位置それぞれで意味が変わるんです。今回の作戦は、貴方達が要ですから、無事に終えられるようにと思いまして」


 そう話す彼女に、アゲハは喜びを表す様に勢いよく抱き着いていった。

 他の面々もお礼を言いつつ、それぞれがミサンガを付けていく。

 サイトは『オレンジ』、アゲハは『緑』

 ランスは『黒』のミサンガで、単色であったが。

 サーペンだけは、少し違っていた。

 本人もそれに気づいて、思わずマナに質問をする。


「……俺のだけ、二色あるが」


 そう困惑するように訊ねた彼に、マナは微笑みながら答えていく。


「本当は、『白』だけだったんだけど。頼まれて、『紫』も追加したの。急なお願いでビックリしたなー。ね、()()()?」


 彼女が視線を向けた先には、名を呼ばれた赤茶髪の少年。

 レオンは、真剣な面持ちでサーペンを見ていた。

 サーペンは彼に近づくと、どういう事だと声をかける。

 

「何の為に、そんな事を」

「そりゃあ、親友が危険な所に出向くんだ。こんくらいの事はな。まぁ、実際に作ってくれたのはマナだけど」


 黙る彼に対し、レオンは話を続ける。


「単刀直入に聞くぜ。サーペン、俺の事をどう思ってる?」

「……はっ?」

「聞きたいんだ。今、この瞬間に」


 何故、今そんな事を聞くのかと聞き返そうとしたが。

 サーペンの瞳の中に映るレオンの顔は、ふざけているようには見えなかった。

 ――――ただただひたすら、全力で頑張る時に見せる顔。

 そう思ってしまった彼は。

 心の中で、密かに安堵すると。

 レオンへと、その仏頂面だった顔を微笑ませて。


「お前の事は、それこそ昔から……最高の相棒だと思ってるよ」


 そう、言った。

 言葉を淀ませることなく、その青い双眸で相棒(レオン)を見つめて。

 そして、当の聞き出した本人は。

 満面の笑顔を見せていた。

 

 ――――しかし、それもすぐに消えることになる。

 

 何故なら。


「だから、そんな相棒(お前)の悩みの種を……今日で全部片付けるつもりだ」


 そんな言葉を、サーペンが。

 あくまで、微笑みを崩す事無く。

 静かな声色で口にしたから――――。

 

 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 ギルドから出て、数分。

 サイトは、他の同行メンバーである三人と共に洞窟へと向かっていた。

 厄者が封じられていたとされる、洞窟に。

 サーペンがランタンを手に持って先導し、仄かな灯りを霧の中に照らしながら。

 そんな道中のメンバーの空気は――――重苦しいだろう。

 その原因は、先ほどのサーペンの件にある。

 あの言葉の真意を、考えてしまう。


「悩みの種を片付けるって言ってたけど」


 最初は、厄者を意味していると思っていた。

 この村を襲う脅威ではあるし、レオンは勇者。

 当てはまりはするだろう、だが。

 レオンと会話をして、彼の悩みを知っているサイトはこう思い至っていた。


 サーペンはレオンの悩みに、勘付いていたのではないかと。


 どこまで勘付いているかは分からないが、少なくともレオンが何かに悩んでいる事は把握している。

 そして、先の発言。

 そこからサイトは更に、昨晩にハヤテと話していた厄者の事についても思い出していた。

 

【実体を持たないのであれば、誰かに取り憑いている可能性がある】


 もし、この考察の通りに厄者アンチが村の誰かに取り憑いていたとしたら。

 その候補は……絞られる。

 レオンが言った、サーペンの覚醒石(デザイアギット)が発現した時期と村に発生した霧と幻覚の時期の一致。

 あまりにも、出来すぎている。


 であれば、サーペンの言う悩みの種というのも――――もしかして?


 しかし、それも所詮ただの考察に過ぎないとサイトは頭を振って気持ちを何とか切り替えた。

 そんな彼に、話しかける人物が一人。


「サイト君、大丈夫? 顔は見えないけど、深刻そうなのは伝わるよ?」


 心配そうにそう訊ねるアゲハに対し、サイトは取り繕うように返答する。


「は、はいダイジョブデス!」

「本当? なら良いんだけど、気を付けてね。厄者の前で下手に弱みを見せると、そこに付け入られちゃうから」

「分かって、ます」


 真剣な声色での忠告に、サイトはより顔を引き締める。

 そんな会話の中に、サーペンも後ろを振り向かずに声だけを交えて参加する。


「アゲハの言う通りだ。注意しておくといいだろう」

「おぉ、サーペン君やっさしいねぇ」

「必要な事を伝えただけだ。優しくもなんともない」


 からかうようなアゲハに素っ気なく対応するサーペン。

 彼らの軽口を叩き合うようなその会話に、サイトは気になった事を質問する。


「そういえば、サーペンさんとアゲハさんって知り合いなんですか? やけに親し気ですけど」

「うん、そうだよ! 私が百歳になって少しした頃にサーペン君が生まれてね、その時からの仲なんだー」

「へぇー。なんだろう、あまり意識してなかったけど。アゲハさんってやっぱりエルフ族なんだね。その見た目で百歳超えてるんだ」


 その話題に、それまで沈黙を守っていたランスも加わっていく。


「エルフ族は(みな)、長命だからな。見た目の変化は、人族や獣族に比べて緩やかだ。ただ、性格に関してはかなり明るすぎると思うがな。何をどうしたらそこまで明るい性格になるんだ」

「それはもう、努力の賜物です!」

「……少なくとも、俺の物心がついていた時には既に村にいたな。よく遊んでもらったのを覚えている」


 そう話すサーペンの言葉に、小さな笑い声を起こすアゲハ。

 先ほどまでの重苦しい空気が、和やかになっていく。

 そんな空気と共にしばらく歩いて……やがて洞窟の前まで辿り着いた。

 先行してサーペンが入り、次いでアゲハも続き、更にその勢いによって内部に突入しようと意気込んでいたサイトを、ランスが引き留めた。


「サイト、少し話がある」

「えっ、何ですかランスさん?」

「お前も気付いているかもしれない事についてだ」


 その一言で、サイトの顔が真剣になり。

 彼に向き直って話を聞くことにした。

 そして、ランスが口を開いていく。


「話す事はサーペンについてだ。ギルドに出る前のあの発言に、違和感を覚えていただろう?」

「はい。レオンの……勇者の悩みの種は。普通に考えれば厄者だと思える。勿論、そこは間違いじゃないんだろうけど、何か引っかかってて」

「そこまで分かっているのなら、話は早い。結論から言えば――――アイツには、厄者アンチが憑いている。この件はアゲハにも既に、マナから伝えられてある」


 ――――考えたくなかった、もしかしたらの可能性。

 合ってはならない事。

 だが、こうして判明したとしても。

 自分は受け入れられるものだと思っていた。

 受け入れて、ちゃんと切り替えて。

 為すべきことを為せるだろうと。

 しかし、それが現実だと実際に知らされると。

 勝手通りにはいかないらしいと、サイトはこの時を持って実感した。


 その証拠に彼の表情は。

 到底、受け入れたとは思えない程に悲しんでしまっていたから。


 そんなサイトに、ランスは予めその反応を予想していたのか。

 ある事を、話し始める。


「この作戦、確かにアンチを討伐するという目的で動いている。そこは変わらない。だが真の目的は……サーペンを救い出す事にある」


 救い出す。

 その単語を聞いた時、サイトの蒲公英色の両目は見開かれた。

 驚きと共に、ランスへと聞き返す。


「救い出すって、どうやって?」

「五十年ほど前に起きた事例。その際、アンチは他者に取り憑いていたという。その時に行った解決方法をやるそうだ」

「そう、なんですね」


 頷くサイトを見たランスは、話を続けていく。


「彼女が言うには、この洞窟に設置している結界石(ゲニウス)を利用するそうだ。結界石から放出させたエネルギーをぶつけて、厄者を引き剥がすと。そして、俺達がその為にすべき事はサーペンの動きを封じる事」

「……そのエネルギーを避けられたら元も子もないから、動きを封じる。それは分かるんですけど、どうやって動きを止めるかは考えてるんですか?」

「あぁ、ちゃんと考えている。俺の覚醒石の力を使えば、問題は無い筈だ。マナがこのミサンガでこちらの状況を確認し、動きを封じた時にその結界石を遠隔で発動させる。そしてサーペンをアンチから解放し、そのまま封印を施せば作戦は完了だ」

 

 なんて事の無いように答えるランスに、サイトは心の中で安心感を覚えた。

 初めて彼を見た時に、自身を鍛えていたゼーエンと同程度の実力を備えていると感じていたのも、追い風だろうか。

 

 だが、そんな彼が最後に付け加えた言葉に。

 自然と、身を引き締める事になる。

 普段のモノよりも一層、低く。

 魂を震え上がらせる程の低音で。


「だが、気をつけておけ。厄者は得てして外道(クズ)だからな」


 心底、嫌悪するように。

 彼はそう吐き捨てて。

 脅威(厄者)が待ち受ける洞窟(空間)へと、足を踏み入れた。


 その姿を目で追い、出遅れたサイトの心にハヤテが叱咤する。


『彼に続け、サイト。それと……迷うなよ』


 ハヤテの言葉に、サイトは。


「――――うん。分かってるさ」


 自身の胸に手を置きながら、大きく深呼吸をしてそう返事をし。

 洞窟へと、足を踏み入れた。

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