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フォーチュン・ライト  作者: おじさま
第一章 叫び猛れ、獅子の咆哮 〜心実の想い〜
11/30

あぁ、無常

 晴れやかな空、照り付ける太陽の下でいつも通りの賑わいを見せる街道に建つ大きなギルド『不滅の物語ペルペトゥス・ファーブラ』の入り口近くに馬車が停まっている。

 フードを目深に被る兎の少年と蒼い毛並みに立派な尻尾を持つ狼の獣人の男性は、馬車に乗り込む為に小規模な荷物を持って立っていた。

 体を揺らす少年に、狼獣人の男性は肩を両手で掴んで止めながら不思議そうに話しかける。


「サイト、なんだってそんなに落ち着きがねぇんだ? 馬車に乗った事ぐらいあんだろ、ここまで来たぐらいなんだから」

アストラ(ここ)には徒歩で来てるから、馬車は初めてなんだ。ソウジ、馬車の乗り心地ってどうなの?」

「あぁ、なるほどな。その気持ち、よく分かるぜ」


 ソウジは馬車について、軽く説明をする。


「あー、馬車の乗り心地だったな。……結論を言えば、いい思い出はねぇ。色々理由はあるが、一番は揺れて酔っちまうんだよ! あの感覚は味わうとつれぇぞぉ?」

「そ、そうなんだね。いやでも、それはソウジが酔いやすい体質だっただけかもよ? 僕はいいと思うけど、ね!」

「お前なぁ。まっ、いっか。そんじゃ御者さん、よろしく頼む」


 御者である男性に挨拶を済ませると、ソウジは馬車に乗り込む。

 続きサイトも飛び乗ると、馬車はボーデンに向けて歩き出した。


 そして、そんな二人をギルドの中から見送るのは、短い白髪の先が水色に薄く染まった、濃い水色の瞳を持つアリス。

 彼女は心配そうに馬車を窓から目で追っていたが、やがて見えなくなると小さくため息を零して机に突っ伏す。

 

 ――――追いつけるのかなぁ、私。


 悩みを抱えたまま、アリスは一人悶々と考え込む。

 考えて、考えて、考えて。

 その内に、彼女は考えるのを止めた。

 パシンと頬を両手で打ち、気合を入れなおすと。

 彼女は訓練場へと足を運んでいった。


「二人が頑張るんだもん。私が弱気になってちゃ駄目だよね、頑張らなきゃ! ソウジに教わった特訓メニューもこなすぞー!」


 そうして、彼女は一人奮起していく。

 サイトの隣に並び立ち、そんな彼や色んな人々を守れる自分に、なる為に――――。



 ――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 出発から二日、ボーデンに向かう道中の舗装されていない土が目立つガタガタ道を馬車は進んでいる。

 天気は青空と太陽が一緒に見えて良好、馬車のキャビンに掛けられている布をめくると見える風景は自然が目立ち穏やかである。

 森を抜け、野原が広がる緑の絨毯が一面にどこまでも広がるその景色は平和そのものに感じる。

 外から鳥の鳴き声が聞こえ、風が草むらをさらう音は聞いていて耳心地も良い。


 そんな素晴らしい景色を、ソウジは耳を立てて尻尾を少し揺らめかせながら眺めていた。

 隣でフードの中にある顔を俯かせて、一言も喋らず静かにキャビン内部の椅子に座っているサイトの背中を優しく擦りながら。

 あぁ無情、ソウジは同情の眼差しをサイトへ向けながら様子を訊ねていく。


「サイト、気分どうだ。昨日よりマシか?」

「……マシ。でも、駄目」

「そうか。吐きたくなったらすぐに言えよ?」


 その言葉に小さくこくりと頷きながらサイトはまた沈黙した。

 このような状態になったのは、馬車が街から出てすぐの事である。

 舗装されたあまり高低差や揺れも感じない道から、急にグワングワンと揺れを感じてしまえば誰だってこうなってしまうもの。

 体が揺れて脳が揺れ、三半規管が滅茶苦茶になり酔いが来てしまった。

 耐性がなく初めてだったこともあり、サイトはものの数分で駄目になり吐瀉物を外へまき散らした。

 それ以降、サイトは俯いてなるべく揺れないようにしているのだ。

 野営をする為に馬車から降りる機会があったとはいえ、やはり耐性がすぐにつくはずもなく。

 彼はグロッキー状態になってしまっていた。


 そうしてしばらく馬車に揺られていると、御者から声がかかる。


「お客さん、ボーデンまでの中継地点になってる村へもうじき着くぞ! そこで医者か誰かに見てもらいな!」

「おぉ、そうか助かる! サイト、耐えられるか?」

「…………なん、とか」


 そんな会話の末、中継地点である村に辿り着いたサイト達。

 馬車からどうにか降り、ソウジに支えられながらフラフラとした足取りで医者がいる家屋へと進むサイト。

 そんな二人の様子を村人の何人かが遠巻きに眺めていたが、ある一人の人族(ヒューマノス)の女性がにこやかな笑みを浮かべながら彼らに話しかけてきた。


「君たち、ちょっといいかな?」

「あん? すまん、今は急いでるんでな。後にしてくれ」

「そこの怪しい少年、乗り物酔いなんじゃないかい? 丁度、薬を持っているんだ。助けになれると思うよ」


 薄い金色の長い髪を掻きあげながら、カプセルが入った小瓶を細身な身体の腰に下げたポーチから取り出してそう話す彼女に、ソウジは訝し気に視線を向ける。

 

「なんでわざわざ俺らを助けるんだ? メリットがねぇだろ」

「確かにそうだね。私にはさしてメリットはないよ。けど、私のお友達がそこの少年と知り合いらしくてね。助けてあげてくれ、だそうなんだ」

「はぁ? 訳わかんねぇ。とにかく、断らせて――――」


 疑念が勝り、謎の女性へ断りを入れようとしたソウジだったが。

 隣から、少年の苦しみ切羽詰まった声が彼の尖った耳に届く。


「ソウジぃ、吐く……吐くぅ!!」

「ばっ!? 待てここで吐くな俺にかかるし他の奴にも迷惑になるぅ!」


 サイトの切羽詰まった声色にソウジは顔を引き攣らせながら慌てだし、おろおろと辺りを見回す。

 そんな時、小瓶を揺らしながら濃い茶色の瞳でソウジ達を見つめる女性の姿が目に入る。

 悩みまくり、顔をキュッと萎ませたような表情をしてグルルと小さく唸る声を出した後、ソウジは意を決して女性に声をかけた。


「あーっと、すまん。助けてください」

「ふふっ、もちろんいいよ。そして、急ごうか。思っていた以上に酷そうだからね」

「あっ? ってサイトぉ!?」


 そのまま彼らは急いで、しかしサイトを刺激しすぎないように家屋へと足を早めた――――――。


  ――――――――――――――――――――――――


 薬を飲み落ち着いたのか、ベッドの上でフードを脱いで寝息を立てているサイト。

 あの後、無事に吐くこともなく家屋に着き、どうにか部屋を借りて(くだん)の女性に診てもらい現在へ至る。

 ソウジは長い溜息を吐いた後、耳と尻尾をぐったり垂れさせながらも女性に礼を言う。


「本当に助かったぜ。えーっと」

「ライア・クリオシタスだよ。ライアと呼んでくれればいい」

「ライアだな。俺はソウジ・カンナギだ、改めて感謝する。お前がいなかったら、今頃は大惨事だったろうからな」


 口の端を引くつかせながらそう話すソウジにライアはひらひらと手を振って答える。


「気にしなくてもいいよ。礼は私の友に言ってくれ。しかし、君たちはどんな巡りあわせで旅を共にしているんだい? フードを被って行動するのはかなりその、大変そうな気がしてね」

「あー、俺とこいつは同じギルドのメンバーなんだよ。フードを被ってたのはまぁ、事情が事情でな。後は本人の口から聞いてやってくれ」

「ふむ、そうなんだね。……先ほど彼の顔を見た時に驚いていたのも、その事情が原因なのかい?」


 ライアの質問に、ソウジは軽い調子で返答する。


「いや、事情はあんまり関係ねぇな。単純に顔を見たのが初めてだったからよ。獣族だとは匂いで分かってたが、兎種なのは今知ったぜ」


 彼のその言葉にライアは感心したのか、口を小さく開きながら息を吐いた。


「ほほぉ。君、色々と義理堅いんだね。私、そういう人は好みだよ。信頼を寄せやすいからね」

「褒められてんのかイマイチ掴めねぇが、まぁありがとうよ」

「いやいや、お礼なんて。それにしても、君達の行き先はボーデンなのかな?」


 その話題にソウジは耳をピクリと反応させてライアに顔を向ける。


「そうだが、あんたはどうなんだ?」

「実のところ、私もボーデンに用があってね。アヴァルのギルド『光の守護者(ルクス・ガーディアン)』のメンバーとして、ボーデンの異変を探りに来ているんだ」

「ふーむなるほどな……んじゃあさ、明日から俺らと同行してくれないか? サイトの酔いの対策もしときたいし」


 その提案にライアは考えるように顎に手を置いて考える。

 しばしの沈黙……しかしそれはすぐに破られた。

 何故なら、外から人の悲鳴がけたたましく聞こえてきたからだ。

 ソウジはその悲鳴を聞いて即座に反応し立ち上がるとすぐに部屋を出ようとする。

 と、そのタイミングでサイトもばっと起き上がった。

 辺りをきょろきょろ見回して困惑するサイトにソウジが近づくと頭を撫でて寝かせる。


「ちょっ、ソウジやめろよ。っていうかさっきの悲鳴は――――」


 サイトがそう抗議しながら起き上がろうとする前に、ソウジはライアへと声をかけた。


「ライア、サイトを任せる」

「うん、見ておくよ。ソウジ君も気をつけて」

「おう」


 短いやり取りを済ませ、ソウジは外へ出ていった。


「待って、僕も行く……うぅ」


 追いかけようとするも、頭を抑えながら枕に倒れこんでしまったサイト。

 ライアはそんな彼らの様子を、ジッと見つめていた――――。

第一章の開幕です!

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