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9 魔王、スマホデビュー!

 魔王は、ついに念願のスマホを手に入れた。

「おお、これが現代文明の結晶か……!」


 その手にはピカピカの最新機種が握られている。


 師匠に買ってもらったものの、操作はまだよく分からない。

「まずはアカウントを作るところからか……」


 魔王はスマホの画面を見つめながら、師匠に相談する。

「むむ……この『アカウント名』とは何だ?」

「君の名前だよ。ネット上での。なんでもいいけど、本名はやめといたほうがいいね」


 確かに、「ヴァルナクス」では日本では浮く。魔王自身も、それは分かっていた。

「ふむ……この世界での名を決めるべきか……」


 師匠が笑いながら言う。

「ちょうどいい機会じゃない?せっかくだから、日本風の名前を考えたらどうかな。例えばアニメのキャラとか参考にして組み合わせてみたら?」


 魔王は腕を組み、しばし熟考した。

「そうだな……ならば、この国の人物の名を拝借するか」


「なになに?」


「よし、決めた!『か⚪︎どたんじろう』、一択だ」

 魔王はいつも真っ直ぐな男だった……見た目は190センチを超える大男だが、まだまだ500歳の男の子。やっぱりジ○ンプ漫画のバトルモノが大好物。因みに恋愛モノは、本人曰く「余には、まだ早い」らしい。


「はぁ?何言ってんの。そのまんますぎるでしょ!」


「何故だ?長男だから…次男ならこうはいかん。」


「いやいやいや!それ絶対まずいでしょ!ストレートすぎるよ。」


「ならば、『たんじろう三世』若しくは、『シン・たんじろう』ではどうだ?」


「それ変えたうちに入らないから!っていうか、何と組み合わせてんのよ!!」


「まったく、権利関係ってのはややこしいなぁ……」

 仕方なく、別の案を考えることになった。


「……ならば、余の故郷の地名を参考にしよう。余の故郷は『魔の谷』と呼ばれていた。それに倣い、『真野谷治郎まのや・じろう』はどうだ?」


「おお、意外とまともじゃん……」


「む。では、それに決定だ!」


 こうして、魔王は「真野谷治郎」として、この世界に新たな名を得た。


……


 その後、師匠の指導のもと、魔王はついにスマホを操作し始めた。


「おお……タップするだけで画面が動く……これは魔術ではないのか?」


「ただのタッチパネルだよ」


 初めてのスマホの操作に感動しつつ、師匠の指導のもと、お目当てのソシャゲをインストールすることになった。


「ふむ……『聖女の私が転生したらサキュバスだった件〜ラブラブ協奏曲〜』……これだ。我らの最推しアニメである『転サキュ』のスマホゲーム。このゲームをやる為に、余はスマホを買ったと言っても過言ではない!」


「そうだよね、僕ら元々ロジータちゃん繋がりだからね…これなら僕もやってるから、教えられるよ!」


「ほう……さすが我が師だけないな。素晴らしい!常に余の先を進み、道標となってくれておる。」

 魔王は、改めて師匠の先見の明に感嘆し、天を仰いだ。


「はは…」

(…いつまで師匠設定、続くんだろう……)


「…と、とりあえず。設定終わったから、最初は無料分のガチャを結構回せるから、とりあえず引いてみな」


「フッ、今なら100連無料、というヤツだな…」

 すると、魔王の顔が真剣になった。


「余にとっては、勇者アルデンと対峙した時以来の戦闘だ。いやが上にも高ぶるわ…いざ参るっ!!」

 魔王は、まさにぶん回すと言うことが相応しいほどの勢いで、画面をタップし、ガチャを回した!画面が光り、最初のキャラクターが出てきた。


「おおっ、これは!」

 そこには、いかにも強そうなキャラ……ではなく、凡庸な★1キャラが表示されていた。


「……こ、これは……弱いでしょ?」

 魔王は、困惑しながら師匠に尋ねた。


「うん、ハズレだね」

 ため息をつきながら師匠は答えた。


「ならば、もう一度だ!」


 ガチャを回す。結果、また★1キャラ。


「む……」


 結局、お目当てのロジータちゃんは出ず、意気消沈する魔王。

「ま、負けた…余は、この500年間……一度たりとも敗北したことなどなかった…こんな馬鹿な…」



「まぁ、★5キャラは、中々でないからね…まぁ、こんなもんだよ。無料で100連も出来るんだから、きっと何とかなるよ!」

 落ち込む勇者を励ます師匠。


「そ、そうだな!余の戦いはこれからだ!!」


 ……


「う、ううっ……」

 魔王は、泣いていた……つまり爆死だ。


「……ピ、ピックアップされたSSRの確率でさえ2%くらいだからね。それにソシャゲをスタートする時の基本は、リセマラだから。気を取り直して、頑張ろう!」

 あまりに激しく落ち込む魔王を気の毒に思った師匠は、その後の魔王の運命を左右する一言を口走ってしまった。


「り、リセマラ…?」


「そう、リセットマラソンの略だよ。良いのが出るまで、インストールとアンインストールを繰り返すことだよ。長く険しい道のりだから、マラソンってつけられているんだ。」


「マラソン…長く険しい…つまり修行ということだな!」


 魔王の表情が急に凛々しくなり、師匠に頭を下げて、高々とこう宣言した。


「さすが我が師匠。余の貧弱な精神を叩き直してくれている。余は誠に幸せ者だ!この修行が終わった時、余は、かの勇者アルデンすら足下にも及ばないほどの強さを手に入れているであろう!はっはっはっはっ!!」


「あ、あのー…そろそろバイトのシフトの時間だから、僕行くけど…あんまり無理しすぎないでね…」


「そうか!余の勇姿を見せられぬのは残念だが、せいぜい労働に励むが良い!師匠が帰ってきた時、生まれ変わった余をご覧に入れよう!乞う御期待!!!」


 師匠は、一抹の不安を感じながら、部屋を後にした……。


 ……



夜も更け、師匠がバイトから帰ってきた。


「ただいまー。魔王、ゲームどうなった………はっ!?」


そこには、暗がりの中、スマホの画面の明かりに照らされてうなだれている魔王の姿があった…


「り、リセマラ怖い…リセマラ怖い…ソシャゲ怖い……」

完全に生気を失った魔王が、よだれを垂らしながら呪文のようにつぶやいていた…


「ロジータちゃん、出なかったんだね…」


「ロジータって誰?……あれ、どうしてお外が真っ暗なのかな?余は何をしているのかな…あれ、あれれ??そうだ、試しに世界でも破壊してみようかなぁ~」


「お、落ち着いて、魔王!夜になっただけだよ。それに君はまだ生きている。大丈夫だよ。ただ、ちょっと大外れ…そう爆死しただけだよ…」

 肩を揺すって、正気に戻させようとする師匠。


「爆死…?この余が...爆死?ば、馬鹿な…そんなはず無い…余が爆死するなど…お、おおぉぉぉぉぉぉ!!!!」

 狼狽し、現実を受け入れられない魔王が慟哭している。


「しっかりしろ!君は爆死したんだ。だが、まだリセマラ段階だ。課金した訳じゃない。君が失ったのは時間だけだ……まだ君は戦える……」


「か、課金…?」


「そう、課金だ。確かに課金すれば、リセマラの無料ガチャの回数では達しない天井に到達することができる。そうすれば、ロジータちゃんは必ず手に入る。」


「課金すれば、ロジータちゃんが手に入るの?」

 魔王は色を失った目で、師匠に目を向けた。


「そうだ。だけど、それは地獄の釜の底をぶち破るようなものだ。今の君の精神状態では絶対にやってはいけない!かつて僕もそれで酷い目に……はっ!!」


 師匠は、自身の失敗談を騙ることによって、精神が不安定な状態で行う課金の危険性を説こうとした。しかし感傷に浸るあまり、一瞬、魔王から目を離してしまった。その一瞬のミスが決定的となった……気付いたときには、時既に遅し……虚ろな目をした魔王は、震える手で課金ボタンを押していた……。


「し、しまった……ついに禁断の扉を開いてしまったか……」


「ノンノン…それは違うよ、師匠。これは禁断の扉でも地獄の釜の底なんかでもないよ……天国への階段。精神の解放だよ。そうリセマラという地獄からの解放だよ…あはははっ…」


 そのままガチャを回し続ける魔王。


……数分後。


 魔王は、聖人のように透き通った瞳で師匠に語りかけた。

「師匠、ついに余は宿願を果たした……かのロジータ嬢をついに手に入れた。これでやっと始められるな……ん?」


 師匠は頭を抱えながら、魔王に言った。

 「このゲーム、キャラのガチャだけでなく、サポートカードのガチャも重要なんだよ…」


「Noooooooooooo!!!!」

 魔王は、絶叫と共に意識を失った…



 ー 数日後 ー


 何日かは、生気を失っていた魔王だったが、最近はご機嫌にソシャゲライフを楽しんでいるようだ。そう思った師匠は、スマホの画面をのぞき込みながら、魔王にゲームの進捗を訊いてみた。


 その瞬間、師匠は戦慄した…


「魔王、まさか。課金してんの?」


 魔王は全く表情を変えず、穏やかに答えた。


「ああ、もちろんだよ。ソシャゲの基本は、課金だぞ。師匠♪」

 そう言いながら、魔王は、悠然とガチャを回している。

「ま、魔王さぁ……合計いくら課金したの?」


「む?500万ほどだが?」


「はぁぁぁぁ!?!?!?」


 

 魔王、スマホデビューと同時に廃課金者になる──。



 続く…。


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