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6 魔王、師を得る

 坂田時男は、宙に浮いていた。


「おおおおお!?すげぇえええ!!」


 足をバタバタさせながら無邪気に空中を漂う坂田殿。彼を浮かせているのは魔王の魔法だった。


「ふむ、そなたの喜ぶ顔を見ていると、余も気分がよくなるな。」

 魔王は腕を組み、満足げに頷く。異世界では魔王として、恐れられる存在だったが、この世界では誰も自分を恐れない。それどころか、アニメの話で意気投合した坂田殿とはすっかり仲良くなってしまった。


「ところで魔法って、どういう原理で動いてるの?」

 ふと、坂田殿が興味津々な顔で尋ねた。


「む?魔法か。ほう、知りたいか!ならばこの魔王にして、大魔法使いでもある余が直々に教えて進ぜよう!!」

 この世界に来てやらかしてしかいないが、実はかなり凄いやつらしい。


「えーっと……その……まずな身体の中心にあるマナをだなぁ……えーっと、確かマナリアクターにある魔力をだなぁ……そのー、なんだ?そう、術式で循環させ、精神エネルギーをだなぁ……」


 マウント取られっぱなしの魔王は、ここぞとばかりに長々と説明し始めるが、魔法の天才と言われた魔王は、説明力はさらに天才的であり、話し始めて数秒で本人すら何を言っているか分からなくなっていた……。しかし、それでも坂田殿は真剣な眼差しで聞いてくれている。


「へぇー、つまり異世界の魔法は、根源的なエネルギー・マナというのを個々の魔術回路で最適化して…」


「そ、そなた……今の説明で分かるのか!?」

 自分で説明しておいて、その説明で坂田殿が魔法を理解していることに驚く魔王。


「いや、話があまりに冗長的で分かりにくかったから、聞いた話を自分なりに整理してるだけだけど…」


「さすが坂田殿じゃ!」


 そして坂田殿の勤勉な態度に、魔王の胸がときめく。実際は、暗に説明が下手だと言われているだけなのだが、この時の魔王はまだ気付いていない……

(な、なんと真摯な態度...!余の話をこれほど熱心に聞いてくれるとは…!あっちの世界ではみんな寝てたのに……)


「ぐぬぬ…!」


 人に話を聞いて貰えたことへの喜びで感情が高ぶり、心の底から湧き上がるある感情により魔王の顔が赤くなり、発汗し、震えだす。


(ちょっと待て…この感情はまさか…!)


 ゴクリ、と息を呑む。


(この余が…き、キュンキュンしている…だと…?で、でも、これは恋とかそう言うのじゃないぞ!その人のことを立派に思う気持ち、そう!これは尊敬心から来るものだからね!!)


 魔王は、思いも寄らない胸キュンに狼狽しながらも、必死に冷静さを保とうとするため、心の中で自分自身に言い訳をする。


 一通り坂田殿に魔法の説明をしてもらった後、魔王は本題に入る。


「して坂田殿。そなた、アニメ制作について詳しいか?」

 神妙な面持ちで話し出す魔王。


「まぁ、それなりには…」


「そうか、それはありがたい。実は余は杉並区の民に余を題材にしたアニメを作らせてやろうと思っているのだが、如何せん、勝手が分からん。一つ相談に乗ってはくれぬか?」

 あくまでも上から目線を堅持する魔王。


「ああ、まあ…別にいいよ。一応、昔アニメの制作会社に少し勤めてたしね。大して役には立たないかも知れないけど……」


「なにっ!?では、まさに適任ではないか!是非ご教授頂きたい!!」


 魔王は目を輝かせた。


 ……


 坂田殿はアニメ制作の基礎を説明し始めた。作画、原画、動画、コンテ、色彩設計、撮影、編集——。専門用語が次々に飛び出すが、魔王にはほとんど意味が分からない。


「……よし、わかった!言っていることはさっぱり分からぬが、坂田殿がとてつもない知識を持っていることは理解した!!そして、これまで全ての事象が今一つの結論に集約された。つまりだ……」


 魔王は覚悟を決めた。


「坂田殿!いや、師匠!!余を弟子にしてくれ!!」


「えっ!?」


 いきなり膝をつく魔王。尊敬の眼差しを向けられ、坂田殿は困惑する。


「いやいや、そんな大袈裟な……知ってることは教えるけど、師匠とかやめてよ。」


「なんという日だ...!今日余は、人生最良の師を手に入れることが出来た…!!」


 魔王は感極まり、涙を流す。基本的に魔王なので人の話は聞けない。


 「いや、だからやめてってば!師匠なんてやりません!!」


 坂田殿が必死に止めるが、魔王は膝をついたまま微動だにしない。


「…えっ…?…こ、断られた……!?この余が…そんな馬鹿な……」


 その事実に衝撃を受け、パニックになる魔王。


「なっ…えっ、えぇっ!?はぁー、そうかそうか…あー、わかった!この世界では、オファーを一回断るのが礼儀なんだよな!まさか平民風情がこの魔王である余のオファーを断るわけないよな!」

 いままで拒否された経験がほとんどない魔王は、文化の違いを言い訳に、拒否された事を拒否する。


「いや、マジでむr……」

 再び、坂田殿が師匠になることを拒否しようとすると、言い終わる前に魔王が、目が全く笑っていない笑顔で、話を被せてきた。

「いや、社交辞令とか要らないから……というか師匠に拒否権とかないから……そういうのウチやってないんで…」

 無茶苦茶なことを言い出す魔王。さすが魔界クオリティ。


「ええー……」

 あまりの強引さにドン引きする坂田殿。


「…っていうか、そういうのマジ無理だから……つーか、拒否とか出来ない仕様になってるから…もういいから早く『ハイ』って言って。そうすれば楽になれるから、ねっ!」

 実は繊細な魔王は、ドン引きされたことに敏感に反応して、さらに強引さを増していく。


「因みに、もしそれでも拒否したら……?」

 もし拒否したら「杉並を消滅させる」とか言い出しかねないが、面倒くさそうなので、とりあえず断ったらどうなるかだけ聞いてみる坂田殿。


「……聞かない方がいいと思う……多分……ううっ……」

 どうやら拒否すると魔王が泣くらしい……


 魔王と自称するイケメンな大男は、捨て犬のような目で坂田殿をじっと見つめている…。


 …沈黙のまま、3分経過……


「わ、分かったよ……師匠でも何でも良いよ、もう……」

 坂田殿は、魔王のしつこさに根負けして、師匠になることを了承する。


「うおおおおお!」

 すぐに元気になって大はしゃぎしている魔王に激しい苛つきを覚える師匠。


 魔王、ついに師を得る。


 続く…。


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