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別れ、そして出会い

「……で、誰だよ、オジサンたちは」


「君たちのお父さんと、……お母さんの、知り合いなんだ、ぼくたち」


「知らない人怖いよぅ……」


「フェリ、後ろに隠れてな」



 森と家とを繋ぐ細道は街道に続く一本だけである。

 彼らはそこを避けて、森の中を進んで、進みまくって、細道とは違う側に出た。そこには馬車が止めてあって、馬を撫でている白髪の男性は二人の男性に親しげに手を小さくあげて合流を祝った。



「……母さんは、どうなったん、ですか」



 バルドが尋ねた。



「……助けられなかった。ごめん」



 『沈黙』と言った声と同じ声の黒髪の男性が深く頭を下げて謝った。

 じわ、と顔を下げたバルドの目に涙が溜まって、地面に落ちた。



「え、……え、死んじゃったって、こと?」



 フェリクスは状況が飲み込めてないのか、〝その言葉〟を口にする。


 白髪の男性が、ディルクと共にフェリクスを抱きしめ、優しくその背中をさすった。

 その動作で母の死を理解してしまったフェリクスは、わあっと声をあげて泣き始めた。



「……で、その知り合いの人たちが、なんでこんなタイミングよく出てきたんですか。あの黒服の人たちの仲間? それとも人攫い?」



 フェリクスと共に抱きしめられているディルクが冷たい声で言うと、黒髪の男性がすぐさま答える。



「君のお母さんの固有魔法だよ。『予知能力』。それで自分の死を察知したお母さんが、手紙をそれぞれに送ってきた」



 固有魔法。10歳ごろに発現する者には発現すると言われている、この世界の理の一つ。

 主に詠唱によって効果を発揮する魔術とは異なり、詠唱などを必要とせずとも発揮することのできる力の事だ。



「……母さん……死ぬの、知ってて…………」



 バルドがふらりと倒れそうになる。



「ああ。そして、それぞれのところにそれぞれが大人になるまで預けるように、とも書かれてあった」


「そんな事、俺たちは何も知らなかった! 何も! 母さんが言わなかったことなんて信じない! 嘘だ! どうせあんたたちは人攫いなんだ!! 騙されない!!」


 ディルクが叫ぶ。母を失った悲痛を誤魔化すように。フェリクスを守りながら。


「ごめん、今は聞き分けてもらわないと。追っ手が来るかもしれない」


 白髪の男性はディルクの口を塞ぐ。


「追っ手……?」


「黒いローブの連中。君たちも狙ってるかもしれない」


「ね、狙いは、俺たちの末っ子だけじゃなかったんですかっ」


「とにかく、馬車に乗って。下手に交戦するのもまずい。逃げないと」



 赤茶けた灰髪の男性が、少年たちをぽいぽいと馬車に放り、馬車に乗り込む。黒髪の男性も赤茶けた灰髪の男性に手を引かれて馬車に乗り込む。

 ヒヒン、と馬の声が聞こえた。そして、馬車が揺れ始めた。



— — — — — — — — — — — —



「いやぁだー!! お別れやぁだぁー!! にぃちゃーん!!!! たすけてー!!!!」


「10年ぐらい! 10年ぐらい預かるだけだから!!」


 普段大人しいフェリクスが、白髪の男性に手を引かれるのを全身で拒否していた。が、足元がよく使い込まれた石畳なのでその抵抗は失敗していた。


 ここはミディッツィン。


 街道沿いに進んだ先の、兄弟たちが住んでいた森から一番近い町。


 ここで白髪の男性と待ち合わせている旅の薬師一家がいるという。



「フェリクスいじめるのやめてください!!」


「そ、そーだそーだ!!」


「美人なお姉ちゃんいるよ? ね?」


「え? 美人なお姉ちゃん?」



 その一言であっさり抵抗を諦めて手を引かれていくフェリクスに、ディルクとバルドはがっくりと膝をつきそうになった。



「……本当かどうか確かめたいので、一緒に行ってもいいですか?」


「あ、来て来て。お別れ言う時間欲しいものね」


 あくまで警戒の姿勢を解かないディルクに、白髪の男性はあっさりと答える。



「ルシェルお兄さんお帰りなさーい! その子が新しくうちに加わる男の子?」


「美人のお姉ちゃん! 美人のお姉ちゃんだ!」


「なによ〜、どんな紹介の仕方してんのよ!」



 手を引かれて道なりに進んで、馬車に薬草を運んでいる親子が目的の人物達であるらしかった。


 あくまで無邪気なフェリクスは先ほどまでの悲しみをころっと忘れたかのようにその家族の娘に対してきゃっきゃと喜びの声を上げていた。ここまでフェリクスが楽天家とは知らなかった二人であった。

 あとこの子、絶対フェリクスのこと尻に敷くタイプの娘さんだ。ディルクはそう直感した。



「……えー、でも、兄ちゃんたちと一緒じゃダメなの?」



 あ、存在を忘れられてなかった。少し安心したディルクであった。



「ごめんよ、ぼっちゃん。おれらが預かれるのは一人だけでなぁ、あとの二人もそれぞれに向いたいいところに連れて行ってくれるって聞いたぞ」


「……おれらは大丈夫。お別れのお祈り、覚えてるか?」


「……? うん」


「お、おれもやるぞ」


「「「女神様が、また我々を撚り合わせてくださいますように」」」


「……よし! お祈りもしたし大丈夫だ! 俺らまたきっと会えるさ!」


「……うん、きっとそうだ! 10年で会えるってさっきルシェルさんも言ってたし、な!」


「うん、約束するよ。10年後、この町か近くでまた会おうね!」


「早速だけど荷物運びは……ちいこいなあ、出来そうにねえな! じゃ整頓しといてくれ! 詳しいことは馬車の中のカミさんに聞いてくれ!」


「えと、えと、はーい」


 フェリクスは小さい体で馬車に乗り込もうとして、『あらまあ、おチビちゃん! オバちゃんに任しときな!』という声と共に幌の中に吸い込まれて行った。



「ディルク君とバルド君は……それぞれ別方向の街に行くからここでお別れだ。お祈りをしといたほうがいいんじゃないか?」


「あ、は、はい」


「「……女神様が、また我々を撚り合わせてくださいますように」」


「……またな、バルド。剣の腕上げとけよ!」


「兄さんこそ!」


 そしてバルドはルシェルの残して行った馬車に、ディルク達は乗合馬車を待って、それぞれ街道を別の方向に進んでいくのだった。


三人の知り合いのおじさんたちの情報は別に重要でないので省略させていただきます。


— — — — — — — — — — — —


ゆっくりのペースですが書いていこうと思っています。よろしくお願いします。

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