第九十七話 霊剣フランベルジュ
クローディアの体内からは数千とも思われる魔力の反応がある。
その一つ一つがクローディアの中でうごめいていたのだ。
背筋が凍り、吐き気を催すほどの不快感に襲われる。
「ぐっ……!」
何なのだこれは……。
これが発していた異様な魔力の正体なのか…!?
「これは霊剣フランベルジュと申します」
クローディアは持っていた短剣にそっと手を添える。
そこから青白い光を放ちながら、波上の刃になって刀身を覆った。
「フランベルジュは世界に数あるマジックアイテムの中でも最も強力な『十宝』と呼ばれる聖遺物の一つにございます……」
ヒュン!と短剣を払いこちらを見つめるクローディ
ア。
まるで獲物を睨みつけるヘビの様に、じっとりと絡みつく視線……。
口元には我慢しきれないような笑みが溢れている。
「十宝……?女性達をどうしたのですか……!!」
クローディアは何かを隠す様子もなく語る。
「このフランベルジュは人間の身体から魂を切り離す魔剣……女達がどうなったかなんて、あなたならもう気付いているのでは?」
クローディアの瞳の奥が青白く光り、それに呼応するかのように彼女の魔力が蠢きだす……。
「魂を……取り込んでいるの……!?」
睨みつける私を嘲笑うかのように、妖しげな笑みを浮かべるクローディア。
「私は時間というものが許せない……。どれほど美しく産まれようとも、どれほどの富や名声を築こうとも……。やがて人は老い、虚しく死んでいく……」
剣に指を這わせ、切先まで滑らせるように運ぶ。
それをなぞる様にして青白い光が輝きを増した。
「しかし私は時の流れを超越した。二百年……。このフランベルジュと共に数々の魂を喰らって来たのだけれど……」
ピッと払われた短剣の切先がこちらを向く。
「我々の悲願である世界樹の呪いからの解放……まさか貴女の方からこちらにやってくるなんて……。真の聖女シルヴィア……。この前のような脆弱な紛い物では無い、清く美しき魂っ……!!」
息を荒げ興奮が最高潮に達するクローディア。
真の聖女……?世界樹の呪い……?
何の話だかさっぱりわからない。
それに先程から身体の震えが止まらないでいる……。
「おや……?まさか怯えているのですか……?あぁ素晴らしいっ!!もっと!!もっとその顔を私に見せてください!!」
怯えているだと……?
私は……。
私は怒っているんだッッ!!!
両手を前に突き出して瞬時に魔法を放つ。
聖女の裁き!!
「……!?」
バシューーーーーン!!
眩い光がクローディアの前で四散する。
「そんなっ……!なんで……!?」
彼女の中には無数の魂が無理矢理縛り付けられている。言わば不死者と同じ状態のはずだ。
いや……。ネメシスが効かないのではない。
そうであればそもそも魔法自体が発動しないだろう。
クローディアの前に広がる黒い霧のようなもの……。
それが私のネメシスを掻き消したのだ。
「フフ……。私は魂を取り込むことで、その持ち主が使用していた魔法を使うことができるのです。これは歪曲魔法。ある国の王宮魔導士が己の全てを注ぎ生み出した上級魔法なのですが……」
そう言って微笑むクローディアの手に、黒い霧が集まっていく。
「フランベルジュがあれば一瞬で手に入れることができる……!」
クローディアの手に集まった魔力が圧縮していく。
次の瞬間、黒い閃光となって突き出された手の平から放射状に放たれる。
空間を歪めながらビシッ!ビシッ!と音を立て迫る閃光。触れたものを空間ごと瞬時に破壊していく。
守護魔法!!
私は咄嗟にプロテクションを展開する。
バシューーーン!!と防護壁に衝突し、掻き消されるディストーション。
次々に放たれる黒い閃光を全て無効化し、私はクローディアを睨みつける。
「素晴らしい……。これが真なる聖女の魔法。少々早いですが仕方がありません。その魂……頂くとしましょう!!!」
クローディアの言葉に呼応するかのように、フランベルジュが光を増した。
クローディアが腰を落として剣を構えた瞬間、足元に白い魔法陣が浮かび上がる。
それに気付き後ろへ跳躍するのだが……。
それは囮だ!!
封鎖魔法!!
跳躍したクローディアの背後に魔法陣が浮かび上がり、光の鎖がクローディアを縛り付ける。
「拘束魔法ですか……」
余裕の表情を見せるクローディアに対して私は問いかけた。
「女性達の身体はどこへやったの……?」
「さぁ?私は魂にしか興味はありませんから……ただ……欲しがる輩は幾らでもいるんじゃないかしら?とても良い玩具だと思いません?」
クローディアの首にも鎖を巻き付け、より一層力を込める。
「ふざけるな……っ!!盗賊ギルドを使ってリグルト連邦国の聖女を誘拐したのもあなたなの……!?」
「あれは奴らが勝手に連れてきただけです。それにあの聖女は真なる聖女では無かった……。価値などありません」
わざと私を逆情させるような言葉を吐くクローディア。私はギリギリとチェーンバインドの拘束を強めていく。
「シルヴィア様……何故私が女ばかりを集めているとお考えで?」
「……」
私はクローディアを睨みつけたまま答えることが出来なかった。
「男に比べ女の身体は魔力の影響を受けやすいのです。シルヴィア様もお食べになったあの果実。あれは『始覚の実』といい、人間の持つ隠れた魔力を目覚めさせるもの……。ただの人間の魂をどれほど喰らっても意味が無い。私は女達にあの果実の汁を与え、己の魔力に目覚めた者を喰らうのです。覚醒した人間の膨大な魔力は、たまらなく美味ですから……。」
そんなことのために……。
そんなことのために女性達の自由を奪い、魂を搾取してきたというのか……!!
許せない……!!絶対に……!!
チェーンバインドの拘束を更に強めようとした途端、グンッ!と物凄い力で引っ張られる様な感覚が襲う。
クローディアの全身から溢れ出る黒い霧が、チェーンバインドを内側から押し戻しているのだ。
「くっ……!!」
ギリギリと鎖の拘束が弱まっていく。
ほんの一瞬でも気を抜いたら弾き飛ばされてしまいそうだ。
「そうして私はこの魔力を手に入れた……。その程度の力では私を留めることなどできません……!!」
更にクローディアの力が強まっていく。
ダ、ダメだ……!!魔法が……解ける……っ!!
バキィィィィン!!
クローディアを縛っていた光の鎖が音を立てて弾け飛んだ。その勢いで後ろへ倒れた私は大きく尻もちをついてしまう。
「さて……。戯れはここまでとしましょう。あなたの魂はどんな味がするのかしら……!フフッ!!」
剣を構えこちらに向かって来るクローディア。
こうなったらあの武器を破壊するほか無い。
ギリギリまで引きつけてプロテクションを……。
「そうはさせません!」
クローディアから黒い触手のようなものが伸び、私の身体に巻き付いて自由を奪う。
「拘束魔法を使えるのはあなただけではないのよ?」
それでも必死に手をかざし、渾身の力を込めてクローディアに向ける。
守護魔法!!
……。
……なんで……!?
プロテクションが……魔法が使えない……!!
瞬時に距離を詰めて私のすぐそばにまで近付くクローディア。
「さぁ。これで終わりです……聖女シルヴィア……!!」
クローディアは青白く輝くフランベルジュを振り上げて私に向かって振り下ろした。その光が尾を引き、まるでスローモーションの様に景色がゆっくりと流れていく。
私の脳裏には、今までの出来事が走馬灯となって駆け巡っていく……。
そんな……こんなところで……。
あぁ……レクス……ごめんなさい……。
約束……守れなかった。
ハルト……。
サキ……。
私はギュッと目を閉じた。
グサッ!!!
み、皆様あけましておめでとうございます(ヽ´ω`)
死にそうになりながらもなんとかやっております!
更新が遅くて申し訳ありません!!。゜(゜´Д`゜)゜。
何卒ご容赦下さいませ……(_ _;)




