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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第二章 アルデリア共和国編
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第九十一話 約束


軽快な音楽に合わせて大道芸人達のパフォーマンスが繰り広げられる。火を噴いたり、手品をしたりと、様々な催しに三人は手を叩いて喜んでいる。


気分が上がったアッシュは双剣を取り出して一瞬で果物の皮を剥いて見せる。

会場からは大きな歓声と拍手が巻き起こった。


アッシュは見違えるほど逞しくなった。出会った頃の剣捌きとはまるで別のものだ。

心の弱さを乗り越え、ウェルクに貰った双剣と共に、これからの冒険者としての運命も切り開いて行けるだろう。


テーブルに並んだ色とりどりの料理を見つめて悲しげな表情を浮かべるレナ。


わかるよレナ。食べたいよね。

でも食べれないんだよね。苦しいもん。

私も同じだ。

思いっきりウエストを締め付けられているので胃が物を受け付けないのだ。

ここだけの話パーティの後はいつも牛丼とか食べたくなる。

それぐらいドレスを身に着けている者はパーティ中に食べることができないのだ。

せっかくこんな美味しそうな料理が並んでいるのに。

そんな私達の気持ちなど露程も知らないであろう大食漢のアッシュは、モリモリと料理を平らげていく……。

そして案の定喉に詰まらせている。

普段はここで私が水を差し出すのだが、今日は珍しくレナがサッと用意をしてくれたのだ。


もともと三人の中で一番しっかり者だったレナ。

サキに憧れ馴れない炎魔法を使用していたが、自分の適性を見つめ直してからは、憧れを捨てて一人のメイジとして風魔法の修得に励んでいた。

誰よりも魔力トレーニングを欠かさず、ガイオンにも一番懐かれている。

エクピスとの戦いでは独自のイメージで斬撃魔法を繰り出し、皆を助けてくれた。

冒険者としても、女性としても成長したレナ。

もう一人前の冒険者と比較しても、何ら遜色無く活躍してくれるだろう。


レナを見つめる私の横でずっと本を読んでいるシモン。まさかここでも……。

せめてパーティーの時くらい楽しめば良いのに……。

と言っても彼には見えているのだ。

周りの空間のことが手に取る様に。

その時偶然シモンの隣を通っているメイドさんの足がもつれ、バランスを崩した瞬間……!

シモンはスッと立ち上がり、メイドさんが持っている食器を支える。


「大丈夫……ですか?」


メガネをクイッとあげるシモン。

メイドさんは恥ずかしそうに何度もシモンに頭を下げていた。

そして何事もなかったかのように席に着き、また本を読み出すシモン。

相変わらずといったところだ。


最初、彼と度をするのは不可能だろうと考えていた。

圧倒的に戦闘に向いていなかったのだ。

それが今では敵を見なくとも攻撃を躱すことが出来る上に、近くであれば透視出来る能力もある。

それに彼は頭がよく知識も豊富だ。

ロブロットからもらった手記を肌見放さず持ち歩き、魔物に関する研究にも余念がない。

剣も魔法も得意ではないが、いざという時の行動力と察知能力で二人を助けてくれるはずだろう。


みんなよく頑張った。

こんな私の護衛についてくれて、本当にありがとう。

私はこの国に来れて……。みんなと出会えて本当に良かった。

みんなならきっと……。

様々な困難を乗り越えていけるだろう……。

将来、覇王竜の翼はアルデリアになくてはならない冒険者になっていると私は信じている。


あれ……?なんでだろう……。

嬉しいはずなのに涙が出てくる……。おかしいな。


アルデリアに入ってから私は泣き虫になったみたいだ。


「聖女様……」


「ごめんなさいレナ。大丈夫ですよ……。ありがとう……。本当に……本当に……」


レナも涙を目にいっぱい浮かべながら、私に抱きついた。


「私聖女様と一緒に旅したこと、絶対に忘れません!!絶対絶対絶対……!!」


化粧が崩れることなどお構い無しに、私達は泣いた。

アッシュもシモンも抑えていたものが溢れ出し、みんなで涙を流しながら抱き合った。


彼らとの最後の思い出。ここラキアでの巡礼は最高のものにしよう。

一生忘れることができないほどに。



パーティが終わると、私達は宿に戻りレクスと合流した。三人は慣れない貴族体験をしたせいか、宿に戻るなりすぐに眠ってしまった。


「そういえば今日は……」


レクスは深く考えた後、何かを思い出すように私の顔を見た。


「シルヴィア。君に見せたいものがあるんだ」


突然のレクスの言葉に私は呆気に取られていた。

私達は街をこっそりと抜け出し、アルバに乗って夜道を駆ける。

相変わらず早い……が、前回の様な怖さはない。


ラキアとリヒトブルグが一望できる高台に私を降ろすと、そこは街の明かりが美しく広がり、空を見上げれば満天の星が彩る場所であった。


思わず溜め息が出てしまうほどに美しい夜空。

これを私に見せたかったのだろうか。


「もうすぐだと思う」


レクスはそう言って空を見上げた。

その瞬間……。



「わぁ……!!」



幾つもの流れ星が、夜空から降り注ぐ様に駆ける。

向こうの世界で流星群を観たことがあるが、そんなものは比べ物にならなかった。

無意識のうちに両手を組み合わせ、祈るようにしながら空を見つめる。


「間に合ったみたいだね」


そう言って私の目を見つめるレクス。


「今日は年に一度の光雨の日なんだ。僕達が約束を交わしたのもちょうどこの空の下だった。たとえ離れ離れになっても、この世界のどこかでみんなが同じ星を見上げてるって思えば……寂しくないだろ?」


それはもうすぐ離れ離れになるんだというレクスからのメッセージのような気がして……。

私の心は締め付けられるように切なくなってしまう。


彼は冒険者だ。

彼はジルエールだ。


聖女であり、貴族である私の人生の延長線上では、どうやったって交わることの無い離れた星なのだ。

今はそれを見ないことにしているけれど、一度遠くへ離れたらもう二度と出会えなくなるような気がして……。怖いんだ。


流れ星が消えるまでに願いごとをすれば、その願いが叶うと昔からよく言われるが、今日であれば絶対に失敗することは無いだろう。

だから私は願いを込めた。


サキが無事でありますように。


そしてもう一つは…………。

レクスと……。


レクスの外套の中で感じた手の温もりを、

私は生涯忘れることは無いだろう。


彼と、あと何度この空を見ることができるのだろうか。

短い人生を、少しでも私の中に残してほしい。

私の心に刻んで欲しい。


彼が生きていることを、彼という人間がいることを。

今、私の真ん中に残しておきたい。



レクス……大好きだよ……。



降り止まない星の下で、私達は約束を交わした。

それがあればきっと……。

私はこの先どんな困難でも乗り越えられる気がする。




翌日


本日からラキアでの巡礼が始まる。


ドォーーーーン!!ドォーーーーン!!


という爆発音と共に、アルデリア教会本部の上空を色とりどりの花火が咲き乱れる。

巡礼開始の合図だ。


ラキアでの巡礼は、今まで私が行ってきた巡礼の集大成である。

広場に人を集めて行う通常の方法の他にも、荷車に乗ったり、炊き出しをしたり、エクピス焼き……は無理だけど、毎日お祭りの様な盛り上がりになるだろう。


一日、一日と忙しくも楽しい時間が過ぎていく。

面倒なことでも愛おしく感じるのだ。

街のみんなの喜ぶ顔を、みんなと一緒に見ることが出来る。


間違ったはずの道の先で、私が出会った一つの幸せ。

もういい加減振り返るのはやめよう。

子供たちのことも、ドミネーターのことも、この先の人生についても。

向き合うのは織部かおりではない。


私はシルヴィア=イスタリス。

フランディア王国の聖女。


これは私の物語なのだから──。






二週間後の夜……。


私はリグルト連邦国に向かう船に揺られていた。

リグルト南部の港街から陸路で魔法都市ノースターレーンを目指す。

覇王竜の翼は私の護衛を終え、正式に冒険者ギルドの討伐団として活動することになる。

今頃はきっと、アルデリアのどこかで魔物討伐をしているはずだ。


レクスは……。

予想していた通り私と一緒に来ることは出来なかった。彼はジルエールとして今の場所を離れることはできないのだ。


でも、私にはレクスと交わした約束がある。


それが胸の中にあり続ける限り、私はこれから先も頑張って行ける。

それと……。それによって新たな目標もできたのだ。

次にレクスに会う時までには、しっかり成長した私を見せたい。


予定であれば、明後日にはリグルト連邦国に入る。

気合を入れなくては。


「聖女様、少しよろしいでしょうか?」


船室のドアがノックされ、船長さんが私を呼んだ。

私はドアを開けて船長さんに返事をする。


「はい。どうかなされましたか?」


船長さんはニッコリ笑うと、何かとても嬉しそうに話し出した。


「おお!今ちょうど海幻灯がご覧になられますぞ!」


海幻灯とは発光性の海洋生物が大量に集まることで起こる現象で、海が緑色に光輝く現象だ。

デッキに出ると、そこにはこの世のものとは思えない幻想的な景色が広がっていた。


何も無い夜の海が、緑の蛍光色に輝き私達の船を照らしている。

あたりは真昼の様に明るく、はるか向こうまで見渡すことができる。

海面をよく見ると、キラキラと輝く小さな何かが無数に浮いたり沈んだりを繰り返していた。


「おや!聖女様!あそこをご覧ください!」


船長さんが指す方向に目をやったその時だった。




ドンッ!!



後ろからの衝撃に、私の身体は海へと投げ出された。

冷たい海水に全身が浸かり、私はパニックに陥った。

何が起こったのかわからないまま、私は光る海をもがき続ける。


「悪く思わねぇでくださいよ!あんたに生きてもらってちゃあ困るんでさぁ!聖女なんかに生まれたことを恨んでくだせぇ!!」


どんどん離れていく船。


落ち着け私!何か捕まるものはないか……!?

何でもいい!!何かっ!!


視界の隅の方に、小さな流木が目に入る。私を全て支えるほどの大きさはないが、浮きぐらいにはなるだろう。

蛍光色の波を掻き分けてなんとかその流木を掴む。

冷たい海の水が私の体温を奪っていく。

このままではダメだ……。

どこかに陸地はないのか……!?


私は自分の身体に回復魔法をかけ、少しでも血流をあげることにより体温の低下を防ぐ。

すると、私の回復魔法に反応するかのように、海幻灯の光が強まっていく。


「これは……!!」


光が強くなっていく海幻灯の下に、大きな影がゆらめいでいたのだ……。


大きな魔力の反応がある。


この前ローディセンに現れたエクピスと同等かそれ以上の大きさだろうか……。

マズい。こんなところを魔物に襲われたら一巻の終わりだろう。

そう思った途端、大きな影は急浮上を始め、私の身体を持ち上げたのだ。


そして私を乗せたまま、ゆっくりと泳ぎ出した……。


私は成す術なく魔物の背にしがみつきながら周囲を警戒する。

夜が明けるまで魔物は泳ぎ続け、ある地点でまた海の底へと潜っていった。


そして私の目に映ったのは、一つの島だった。

体力の続く限り泳ぎ続け、死に物狂いで島の砂浜に倒れる。


ここがどこかもわからない。

あるのは海と砂、向こうに見える木々。

人がいるような気配ではない。


極度の疲労と睡魔。そして魔力の現象によってはっきりしない意識。


私はそこで力尽きるように眠ってしまった──





異世界の果てに旦那と子供置いてきた




第二章 アルデリア共和国編




第二章完結です!

ご愛読ありがとうございました!!


第三章の連載に関しましては、活動報告にてご連絡させていただきます!

たまに連載の時間が遅れる時があったこと、皆様にお詫び申し上げます。申し訳ありませんでした(泣)


また、ブクマ、高評価頂いた方、本当に励みになりました。この場を借りてお礼申し上げます。


続きが気になる方、面白かったと思っていただける方はブックマークと、現段階で構いません。評価をいただけると非常に励みになります。


ではまた第三章でお会いしましょう。


ジェイ子


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