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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第一章 フランディア王国編
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第九話 冒険者の仕事


茂みの揺れが大きくなった。

ロブロットはすでに気づいてるようだ。

私は息を飲んでじっと茂みの先を見つめる……。


「プヒ……?」


そこに現れたのは、ブタのぬいぐるみのようななんとも可愛らしい魔物だった。

大人の膝くらいまでの大きさで、鼻をクンクンさせながらこちらに近づいて来る。


カ、カワイイ……!!


「これは野生のプインですな。ここらじゃ畑の作物を勝手に食べちまうんで害獣なんですが、非常に臆病で人間に攻撃はしてきません」


私がおいでおいでをすると、すぐ側まで近づいてきた。撫でてみると、なんともプニプニしていて気持ちがいい。


「食べてみますかな?」


はい?今何と……?


「おや、ご存知無いのですか?プインは食肉として最も有名な魔物ですぞ?」


こんなにカワイイのに……。なんだか複雑な気持ちになってしまった……。


「魔物と言っても様々です。全部の魔物が人間に危害を加えるわけではないですからの」


私が立ち上がると魔物はビクッ!と驚いて走り去ってしまった。


「さて、この先に村があります。今日はそこで泊まりますので……。」


ロブロットはそう言うと手綱をピシッと叩いて馬車を進めた。

王都を出て半日、耕作地帯の外れに小さな村があった。

地平線に真っ赤な夕陽が沈んでいく……。

中心を横切るように小川が流れ、のどかで美しい良い村だ。

今日はこの村に、泊まるらしい。

私は明日、この村の人に加護を与えて回ろうと考えていた。しかし、ロブロットがみんなに話があるということなので、夕食は宿の食堂で集まって食べることにした。


「いやーすまん、すまん。実はな、この村の近く遺跡に魔物が巣を作っておっての。明日様子をみたいんじゃが……」


「ふん。行くわけが無かろう!なぜそのようなところに……。」


リグナーは相変わらずだ。


「別にお前さんはここに居てもらって構わんが、

 聖女様は我々に同行せんといけん決まりになっとるからの」


「リグナー殿。同行中は冒険者の指示に従う様にと団長より命があったはずです」


クレアは正面を向いたまま、目を瞑って彼を戒める。


「あの田舎者が……。」


その言葉を聞いた瞬間、目を瞑っていたクレアが

キッ!とリグナーを睨みつける。

騎士団長様を田舎者呼ばわりとは……。

やはりウワサは本当だったみたいだ。

フランディアの騎士団長は貴族の生まれでないらしいのだが、その腕と功績を買われ、騎士団長にまで上り詰めた言わば叩き上げなのだ。

リグナーはそれが気に食わないのだろう。

何かにつけてマウントをとりたい、言ってしまえば彼は自尊心の塊なのだ。


「すまないロブロット殿。後学のために我々もついて行って構わないだろうか?魔物との戦いは何度か経験があるのだが……」


「ああ構わんよ」


「それに……魔物との戦闘は私とロブロットが引き受けるから心配無いわ」


シャロンはクレアににっこりと微笑んだ。


「あら……?リグナーさんの剣、もしかしてディクロンの工房製ですか?」


シャロンはリグナーの剣をみて気付いた様に問いかけた。リグナーは待ってましたとばかりに喋り出す。


「ほほう!メイジでもこの剣がわかるのか!!

いかにも、ディクロンのオーダーメイドだ!」


明らかに機嫌が良くなった……。


「ディクロンといえば一流の剣士のみにふさわしい武器ですわ。さぞお強いのでしょうね」


シャロン姉さん勉強になります……。

こういう場合は褒めるんですね。メモメモ。


「お待ちどう様でーす!」


私の前に運ばれてきた一皿の料理。

木製の深皿に入った、シチューのような見た目をしたその料理には、大きな野菜とお肉が入っていた。

嗅いだことのない香辛料だが、なんとも食欲をそそるいい香りがする……。


「これはなんという料理なのですか?」


私はロブロットに尋ねる。


「これはプインの煮込みですな!美味いですぞぉ」


はい?今何と……?


このお肉は今日お昼に見たカワイイ魔物だというのだ。あの可愛らしい姿をみたらなんだかとても申し訳無い気持ちになってしまう……。

なんということだ……これが冒険者流の食育か……。

しかし、その罪悪感とは裏腹に、漂ってくる良い香りが私の空腹を刺激していた。


一口大のお肉をスプーンですくい、恐る恐る口に運ぶ……。


!!


口に入れた途端プルっとした油が弾けて、旨味が口全体に広がる……。歯がいらないくらいに煮込まれたお肉はホロホロと口の中で解けて溶けていくようだ。


「なにこれ美味しい……!!」


クレアが目を輝かせる。

貴族料理の上品で複雑な味付けとは異なり、しっかりと濃くシンプルな付けが一層後を引く……。


「そうでしょう!そうでしょう!おい!酒を持ってきてく……」


「ダメでしょロブロット。明日早いんだから」


シャロンに止められ、照れ笑いしながらポリポリと頭をかくロブロット。

なんだかこういう賑やかな食卓は久しぶりだ。



翌早朝、私達は村から少し南側にある遺跡に向かった。距離はそこまで無いのだが、馬車で進めないため遺跡へは馬と徒歩で向かう。

草原を抜けた小高い丘の上に、石造りの遺跡が見えた。苔や草に覆われ、随分と古いものだということがわかる。

いつ誰が何のために作った物かわからないらしく、こういった遺跡が大陸の至る所にあるというのだ。

こういう人が足を踏み込みにくい場所には、特定の魔物が巣を作る事が多い。巣を作った獲物はあっという間に数を増やし、近隣の街や村にとって脅威になってしまう。それをギルドによって調査、管理を行い、未然に防いでいるという訳だ。


遺跡の入口でロブロットが足を止める。


「さて、聖女様はここで待たれますかな?」


正直少し怖いのだが、ここの残るとクレアとリグナーがまた揉めるかもしれない……。


「いえ、私も一緒に参ります」


それに、私は巡礼の旅に出るにあたって、当然魔物との戦闘も想定して魔法もかなり練習したのだ。

自分がどれほど通用するのか、試してみたいと思ったのが本当の理由だ。


丘だと思っていたところはすべて遺跡だったらしく、

遺跡は入口から下に広くなっている造りになっていた。湿った土とカビの匂いが混じり合い、年季を感じさせる遺跡内はひっそりと暗く静まり返っていた。


「清廉なる光の精霊よ、その輝きで闇を照らせ」


照光魔法(オーブライト)


シャロンの手の平から野球ボールくらいの光球が現れ、フワフワと頭上に浮かぶ。徐々に電球色の灯りが広がり、辺りが明るくなった。


「松明でもいいんですが、これのほうが両手が使えますからな」


ロブロットはそう言って先頭を歩く。

これは便利な魔法だ。後で教えてもらおう。


建物の高さでいうと三階分くらい降りたところだろうか、広く大きな部屋へと出た。どうやらここが中心部らしい。天井の隙間から日の光が差し込み、辺りを照らしている。

その時、先を歩くロブロットが急に足を止めた。


「しっ……!」


人差し指を口元に立てて、私達に手のひらを向ける。

私は息を飲んで、持っている杖をギュッと強く握り

しめた。


「シャロン、来るぞ」


「ええ」


ロブロットが合図をした瞬間、前方の至る所から何かが飛び出してきた。


「キキィィーーーー!!」


それはまるでサルのような姿をした、額に一本の角がある魔物だった。魔物はロブロットに次々と飛びかかって行くが、ロブロットはそれを盾で防ぎ、鉄棍で弾き飛ばす。

とても高齢とは思えない身のこなしで、飛びかかる魔物を捌いていく。


「生命の根源たる水よ、刃となりて敵を切り裂け」


飛沫水刃(スプラッシュカッター)


シャロンが放った水しぶきが、幾つもの刃になって魔物たちに襲いかかる。

刃が当たった魔物はそのまま吹き飛ばされ、壁に叩き付けられる。


「一匹そっちに行きましたぞ!」


一匹の魔物がロブロットとシャロンの間をくぐり抜けて、私目掛けて走ってきた……!


私が詠唱を唱えるより先に、タン!タン!タン!

と乾いた踏み込みの音が響いた……。


三連刺突(トライピアース)


クレアは鋭い細剣で、向かってくる魔物に高速の三連撃を撃ち込んだのだ。


「おお!一瞬で正確に急所を……。あのお嬢さんなかなかやりおるわい」


十数匹の魔物を一瞬で片付けてしまった……。

私の出番はなかったようだ。


「ふん!くだらん!こんなところさっさと引き上げるぞ」


リグナーが振り返った瞬間、彼の足下から一斉に無数のツタが伸び、それらが身体の至る所に巻き付いて、一瞬で天井まで吊るし上げてしまう。


「な、なんだこれはぁぁぁぁ!?」



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