第八十一話 謁見
…………。
ん?なんだ?どうした?
な、何か反応してくれよ……!!
作法的にもあなたが返事をする番ですよ!!
…………。
お、おーーーい!!レオン様ーー!!
「美しい……」
そう一言だけポロっとこぼすレオン。
「フランディアにはかくも美しい聖女がいるのか……。く、く、苦しゅうない!!楽に致せ!!」
あれぇ?何か思ってたのと違うんですけど……。
「僭越ながら、このグレイゴルより聖女シルヴィア様のご紹介をさせて頂いてもよろしいでしょうか?」
私の後ろに控えていたグレイゴルが、跪いたままレオンに伺いを立てる。
「おおグレイゴル!良いぞ!許可するっ!話せっ!」
「ありがたき幸せ。こちら聖女シルヴィア=イスタリス様はフランディアは王都エルビオンの生まれにございます……」
グレイゴルはまるで見てきたかのように私のことをレオンに話し出した。
両親のこと、ローグのことやレニオンでのことまで、なぜ知っているのか不思議なくらい細かく把握しているのだ。
「というわけで、このベルガンドにおいて今最も大聖女に近い聖女としてご活躍なされております。あのマーガレット様にお墨付きもいただいておられるほどにございます」
だ、誰……?そんな人知らないんだけど……。
勢いに任せて口からデタラメ言わないでくれよ……。
終始レオンは目を輝かせながらグレイゴルの話を鵜呑みにしている。
ただ、ローグを一人で倒しただの、ドラゴンを近海で使役しているだの、話に大分尾ヒレが付いている……。
王の御前なのでいちいち突っ込んだりできないのだが、あまり事実と異なる事を言われると後で困るんだよな……。
「なんと……それはまことか……!?我々でも相手にされなかったアーメルデン王妃に……。ローザ以外の聖女を認めるとは……!!」
ええっ!?もしかして……!!
マーガレットって……マギーのことなのか!?
しかもアーメルデン王妃って……!!?
ローザのお義姉さんにあたる人じゃないか……。
だからあれほどまでにローザに対して思い入れがあったのか……!!
しかも王族だったとは……。
それならあの完璧なまでの所作も頷ける……。
レオンは鼻息を荒げてグレイゴルの話夢中だ。
最初は普通に話していたのだが、途中から身振り手振りを交えだし完全に王様の前だということを忘れているのでは無いだろうか。
もうこの前のドミネーターのくだりなんかは周りの兵士達も加わって、グレイゴル劇場と言わんばかりの大盛り上がりだ。
完全に置いて行かれちゃってるんだけど私……。
「はぁ~……。なんと素晴らしい。その美しさのみならず強さまでも兼ね備えているとは……。シルヴィアよ、余はもっとそなたのことが知りたい!そなたの話、もっと余に話してはくれぬか!?」
ええええっ!?
そんなこと言われても私は巡礼の途中ここに寄っただけで……。
「シルヴィア様は巡礼のためしばらくリヒトブルグに滞在のご予定にございます。良かったですな陛下!!」
爺さん余計な事言うんじゃない!!
「よし!聖女シルヴィアよ!そなたに優越権を与える!遠慮は要らぬ、欲しいものがあれば何なりと申せ!」
ええええ…………。嘘でしょ……。
なんかとんでも無いことになっちゃったんだけど。
私がグレイゴルの方に目をやると、彼はニヤリと笑って見せた。
まただ……。この爺さんわざとやってる。
一体何を企んでいるんだ……?
優越権とは簡単にいうと、王様と同じ権力を持つということだ。
つまりたった今さっきより、この国で私に逆らえるのはレオン以外にいなくなったということだ。
しかしこれは私にとっては最悪な状況だ。
良くも悪くも王様と同じ扱いということは、当然リヒトブルグに滞在中は王宮に寝泊まりすることになる。
それに、巡礼中毎晩開催されるパーティにも参加しなければならない。勿論ドレスで。
あのコルセットの地獄の苦しみに毎日耐えることを考えると気が滅入りそうだ……。
クレア達の婚姻の際に、レニオンで同じような状況があったのだが、一日ドレスを着ただけでもう沢山だった。
アッシュ達とも数日会えないかもしれないな……。
ああ……もう最悪だ……。
私は三人に事情を告げる。みんなは羨ましそうにしているが、冗談抜きで変わってほしいと思っている。
応接を後にする三人の後姿が名残り惜しい……。
夕暮れ時……。
私は深く息を吸い込み、そして全て吐き出す。
「はい。そのままでお願いいたします」
熟練のメイドさんが思い切りコルセットを締め上げる。
「くっ……!んぁ……!」
ぎゃぁぁぁぁぁぁぁ!!というのが本当の声だ。
やたら胸に詰め物が入ってるせいもあって、肋骨が粉砕されるのではないかと思ってしまう。
それにこの下着の気合いの入れようもどうかと……。
透け透けレースのタイツとショーツ。おまけにガーターベルトまでついてる……。年齢的に不相応だろう……。誰の趣味だよ……。
私の姿を見て若いメイドさんは顔を赤らめてるくらいだ。
死ぬほど恥ずかしいんだが……。
聖女のイメージカラーは白なので、ドレスの色は必然的に白になる。
まるでウェディングドレスだな……。まぁこちらのウェディングドレスは白ではないから別にいいけど。
髪型も化粧もバッチリ決めてもらい鏡を見ると、そこにはまるで人形のような美少女が座っているではないか。
自分で言うのもなんだが、綺麗だな……私。
自惚れに聞こえるだろうが、これは織部かおりの感想だ。許してほしい。
私はシルヴィアとして自分を観ることができない。
王子様に手を引かれるお姫様なんて、女性であれば誰でも一度は憧れるであろうシチュエーションなのだが……。なかなかどうして……。
後でグレイゴルに話を聞いたのだが、私はどのみちパーティへ招待される予定だったらしい。
逃げる道は無かったということで諦めよう……。
嫌がらせされなかっただけマシなのかもしれない。
あまり公の場で暗い顔ばかりしているのもレオンに失礼だ。ここは一つ営業スマイルで乗り切ろう……。
はぁ……。
レオンのエスコートのもと、私は会場へと入る。
沸き起こる拍手とどよめく会場。
私に向けられた羨望もあるのだが、それとは違う視線を感じる……。
なんだろう、会場の多くの人間がまるで何かを心配しているかのような雰囲気なのだ。
レオンは壇上に立ち、集まった貴族に対して声をかけ
る。
「皆の者、今宵はよく集まってくれた!今リヒトブルグには、フランディアより聖女シルヴィアが巡礼に訪れている!」
会場中の視線が私に集まる。
しかしみんな顔が笑っていないのだ。
やはり貴族達の様子がおかしい。なぜだ……?
何をそんなに心配しているんだ……?
「シルヴィアには優越権を与えている。無礼な行いはせぬよう肝に命じよ!それと巡礼は王宮で行う。明日より呼ばれた者は王宮に来るように!良いな!」
良いなって私そんなこと聞いてないんですけど……。
これで私は王宮から出れなくなってしまった。
これもグレイゴルの策略だろうか……?
なんだかいろんなことが仕組まれたもののような気がしてきて落ち着かない……。
色とりどりの料理も、音楽隊の奏でる演奏も、何一つ楽しむなんてことは出来なかった。
翌日、私はレオンに呼ばれ城の中を案内して貰うことになった。
レオンは王と言ってもやはり十歳だ。楽しそうに私の手を引き走り回る。
しかしドレスは走れる用に作られていない。手を繋いだ状態では裾もつまみ上げれないため、何度も転びそうになる。
ドレスのキツさと心労とで、表情は次第に硬くなっていった。
「すまない……。そなたには退屈であったか」
さすがに作り笑顔ばかりなのを見抜かれてしまった。
退屈なのではなくてしんどいんだ。
ただでさえキツい服に、王様の機嫌を損ねないような気遣い、言動、立ち振舞。
別に私は結婚したいわけじゃないんだけど……。
その時、私の頭の中にある仮説が浮び上がった。
貴族の様子がおかしかったのはきっとそのせいだ……!
私はグレイゴルの真の目的に気付いてしまったのかもしれない。




