第八十話 聖都リヒトブルグ
出力制限ってなんでそんなこと……。
「制限と言っても、今までの状態から半分に出力を抑えた『第一段階』を設けたんだ。第二段階までブーストすれば今までと同じ出力を得られる」
な、なんだ。そういうことか。
私が魔力切れになったのを見て、上限出力を下げられたのかと思った。
「この前の支援魔法なんかは明らかに魔力の供給過多だ。今のままだと細かな調整が効かないと思ってな」
あの一瞬で魔法の効果を見抜いただけじゃなくて魔力の供給率も見計らっていたのか……!!
す、凄すぎる……!!
魔力には魔力効果率の他に『供給率』というものがある。
例えば私の回復魔法、魔力を使用すれば使用するだけ効果が上がり続けるのかというと、実はそうではない。
私のイメージを超える速度では回復しないのだ。
つまりそれ以上はどれだけ魔力を込めても無駄になってしまう。
これが供給率というもので、魔法に求める効果に対して、適正な魔力の量というものがあるのだ。
魔力効率を上げれば、当然それは少なくなってくるものなのだが、それでも適正な魔力量というものは存在するので、常に供給率を100%で使用できるよう訓練が必要になる。
私の場合、今までは回復魔法をブーストして使用したいときに、2で済む魔力を4とか5で使用されてしまうため、魔力が大きく無駄になっていたのだ。
ウェルクのおかげで細かな出力の調整がきくようになったので、これでかなり魔力の消費を抑えられるようになるはずだ。
これは地味だがかなり嬉しい。
「それと……この前みたいに限界を超えて魔力を使用することはもうやめろ」
ウェルクの顔が少し険しくなった。
「一度その力を使ってしまうと、これから先ずっとそれに依存するようになる……。その先は当然……わかるよな?」
わかっている。でもそれはウェルクたちも同じじゃないか。だから私も……。
「それに……アンタがそんなことしてるって知ったら、悲しむ奴がいるんだよ……自分が死んでも守りたい人なんだとさ。わかってやってくれ」
ずるいよそんなの……。
私は少しでいいから代わりたいんだ……。
みんなの痛みを知りたいんだ……。
わかっていても納得出来ない、
考えても答えが出ないことならせめて……!!
同じでいたいんだ……。
私だって……。私だって……。
拳を握る私を見て、ウェルクはさらに続けた。
「勘違いしないでくれよ?前にも言った思うけど……。別に俺達は後悔してねえ。みんな自分の意思で生まれた理由を掴んでるんだ。クソみたいな生まれ方でも……ちゃんと手に入れたもんがあるからな。アイツにとっちゃ、アンタもその一つってことだ」
そう言って作業に戻るウェルク。
私はその後姿にお辞儀をした。
長い長いお辞儀。
私は恐らく彼の倍は生きているだろうが、彼はきっと私には掴めなかった何かをもう手にしている。
大切なのは生きた長さでは無い……。
彼の槌を振るう後ろ姿が、そう語っていた……。
自分も大事にしなきゃダメだ……。
レクスが言っていた言葉には、もっと別の意味が込められていたのかもしれない……。
大勢の人達に見送られ、私達はローディセンを後にした。次に目指すのはアルデリアの王宮がある聖都リヒトブルグ。アルデリアにも王様がいるのだ。
しかしまだ十歳と幼く、アルデリアの政始は執政官と元老院の指揮の下で行われるため、王族は関与しない。
先代の王は若くして病に倒れ、代わりにその弟である人物が代理を務めていたのだが、十歳を迎えた現王の即位によって退任し現在に至るというわけだ。
リヒトブルグは他の街とは異なり貴族しか入ることを許されていない。
王都エルビオンで言う貴族街のようなものだと思ってもらって構わない。
つまり私の敵しかいないことになる。
そもそも巡礼自体を受け入れるのかどうかも怪しい。
まぁ要らないと言われればこちらもすぐ引き下がるつもりだ。すでにメアリーを信仰しているならそれで何の問題も無いのだから。
ローディセンを出発し、立ち寄る村々に加護を与えること五日間。
巨大な城壁に囲まれた古城が姿を現す。
石造りの貫禄あるその姿は、アルデリアの長い歴史を物語っているようだ。
大きな門の前には何人もの兵士が控えており、その中には見覚えのある顔もあった。
「シルヴィア様!!ようこそいらっしゃいました!!」
ん……?この男の人は確か、以前私に法印を求めて来た男性だ。
ということは近くに……。
私はバッ!と後ろを振り返った。
良かった。いないようだ……。
ホッと胸を撫で下ろした瞬間。
「誰かお探しですかな?」
うわっ!!びっくりした!!
絶対わざとやってるだろこの爺さん!!
「グレイゴルさん……居たのですか……。急に出てきて驚かせるのはやめて頂きたいのですが……」
グレイゴルは腰に手を当てて満足そうに笑っている。
「はっはっはっ!私を探知できるようになりませんとな」
本当に子供みたいな爺さんだ。
「どこかへ向かわれるのですか?」
「いえいえ、帰ってきたところです。たまには家にも顔を出さねばならんですから」
自宅!?そうか。
そういえばグレイゴルは騎士団長だった。
リヒトブルグに家があるのも当然の話だ。
周りの人間100パーセント敵というわけでは無くなったのは少し心強い。
「王宮に向かわれるおつもりで?」
まずは謁見せねばなるまい。
アルデリアで最も位の高い人なのだ。一番に挨拶しなければ失礼にあたる。
当然メアリー派閥だと思われるので、何か嫌味の一つでも仕込まれているのだろうか心配ではあるが……。
まぁ私より年下の王様なのだ。形だけ早いとこ終わらせてしまおう。
「であるならばご案内いたします我が主」
ちょ……!!やめろっての!!
ここでやったらシャレにならないんだよ!!
何考えてるんだこの爺さん……。
外側は随分と年季が入っていたのだが、中は白を基調とした美しい内装が施されていた。
確かに年代は感じさせるものの、手入れが行き届いておりホコリ一つ無い。
さすが歴史あるアルデリア王宮……。品格が違う……。
私達は来賓用の控え室へと案内され、謁見を待つことになった。
本来はいきなり訪れて謁見なんてことはできないのだが、グレイゴルはいとも容易く了承をもらってきた。
まぁ今更驚きはしないのだが……。
アッシュ達にはここで待っていて貰おう。
彼らは謁見の作法を知らないはずだ。
ここで礼を欠くとすみませんじゃ済まないのだ。
下手したら三人の首が飛ぶ。
王様に会えると楽しみにしていた彼らには悪いのだが、ここで大人しく待っててくれ。
大きな扉が開き、広い謁見の間へと足をすすめる。
装飾された赤い絨毯の両脇には、黄金の鎧を纏った兵士たちが姿勢良く並んでいる。
やはりこの感じはいつになっても緊張する……。
玉座には金色の髪の少年が座っている。
なんとも賢そうな顔をしており、口を真一文字に結んで私を見下ろす姿はまさに王者のそれだ。
私は玉座の前でお辞儀をし、跪いて頭を下げる。
「表を上げよ。名を申せ」
まだ幼さが残るその声に、私は顔を上げて挨拶の言葉を述べる。
「お目にかかれて光栄にございます陛下……」
レオングラット=リュゼ=アルデリア19世
彼の正式な名前である。
私をじっと見つめながら挨拶を聞いている……。
少しでも粗を見つけてそこを突くつもりかもしれないな……。
だがその手には乗らない。
私は挨拶を終えると、最後にレオンの目を見てニコッと微笑んだ。
本来であれば王様にこちらから笑いかけたりするのは不敬なのだが、これは先制攻撃だ。
さぁ、どう来る?
レオンは私から視線を外すことなく、そこからしばらくの沈黙が流れた。




