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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第二章 アルデリア共和国編
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第七十九話 出力制限


気付いた時にはエクピスの巨大な二本足は細切れになっていた。

アッシュの回転は目で追えなかった。あっという間に距離を詰め、気付いた時にはもうバラバラになっていたのだ。

レナの魔法でもビクともしなかったあの巨大な足を、いとも容易く切り裂いてしまった……。


アッシュはそのまま本体へと落下し、その勢いでエクピスの目と目の間に剣を突き立てる。

アッシュにかかったホーリーナイトの効果が切れるのとほぼ同時に、アッシュは刺さった剣を握りそのまま左右に切り裂いた。


その瞬間、エクピスの動きがピタリと止まり、全身がどす黒い色から透明に近い乳白色へと変わっていく。

ぐったりとその巨大を海面に晒し、力なくプカプカと浮かぶ。


どうやらアッシュが攻撃したところはエクピスの急所だったようだ。


「ウェルク……俺……」


呆然とするアッシュに少し笑いながら親指を立てるウェルク。


「やった……!!すげえ……!!俺、倒したよ!!」


浮かぶエクピスの上で喜びに震えるアッシュ。


「やったぁぁぁぁぁぁ!!」


雄叫びを上げるアッシュだったが、次の瞬間アッシュの鼻からブシュ!と血液が噴き出す。


「あ……あれ……おかしいな……」


そのまま倒れてしまうアッシュ。

すぐさまアッシュのもとへ駆け寄ろうとするのだが、足に全く力が入らない。

そして襲い来る凄まじい倦怠感。まるで重力が何倍にもなったかのように地面に引っ張られる。

抵抗も虚しく、そこで意識は途絶えてしまった。






暗い……。ここはどこ……?

もしかして私……死んでしまったのだろうか……?


限界突破(オーバードライブ)でリミッターを外し、魂を代償に魔力を捻り出したのだ。

これがその報いというわけか……。


向こうに誰かいる……。

あれは……レクス……!!

私はレクスのもとに駆け寄り抱きついた。

隣にはハルトも、ウェルクも、ソフィアも立っていた。

みんなは優しい笑顔を浮かべ、私に背中を向けると、ゆっくりと闇の向こうへと歩いていく。


ねぇ……待って!!置いていかないでよ!!


前にも横にも動く事が出来ない。

みんなの後姿はどんどん小さくなっていった。


待って!!お願い!!いかないでみんな!!

ハルト!!ソフィア!!ウェルク!!



「レクスっ!!」



がばっ!と飛び起きたところは宿のベッドの上だった。


夢……か……。


最悪な夢だった。

いや……。まだ夢だとは言い切れないのだ……。

みんなが私を置いて消えていく……。

ウェルクの話を聞いて、それはあながち現実にもなり得る話だということを認識させられた。


頭が割れるように痛い。

恐らくオーバードライブの反動なのだろう。

通常、私に頭痛なんてものは無い。聖女なのだから。

恐らくこの痛みは回復魔法では治せないものだろう……。


窓の外は真っ暗だった。

どれくらい寝ていたかもわからない……。


みんなはどうしているだろうか、きっと心配しているに違いない……。


アッシュ……!そうだアッシュは!?


私は急いで身支度を整えみんなのもとへ向かう。

宿の食堂ではレナとシモンが食事をしていた。

二人とも私の姿を見るなり涙を浮かべて駆け寄ってくる。


「聖女様ぁぁぁ!!良かったぁぁ!!」


「もう起きないかと思ったじゃないですかぁ!!」


そんなに心配を掛けていたのか……。

なんだろう、なんか前も聞いたなこの言葉……。

でもアッシュの姿がない……。


「アッシュはどうしたのですか!?確か血を流して倒れはず……!!回復をっ!!」


焦る私を横に、二人は顔を見合わせて笑った。


「アッシュは元気ですよ!今ウェルクさんのところへ行っています」


そうか……良かった……。

無事だったんだ……。


ウワサをすれば、アッシュがウェルクと共に食堂へと入ってきた。


「シルヴィア!!気がついたのか!?」


アッシュは私を見つけるなり、ものすごい速さで駆け寄り、肩を揺さぶりながら私の無事を確かめる。

ただでさえ痛い頭が、そんなに揺らされたら本当に割れてしまう。


「ア、アッシュ!痛いですよ!」


「わ、わりぃ……」


ウェルクも私を見て安定したかのように微笑んだ。


「体はもう大丈夫なのですかアッシュ?」


アッシュの代わりにウェルクが応える。


「アンタの支援魔法で体が回転について行けなかったんだ。今はもう大丈夫だ」


そう言われてアッシュは恥ずかしそうに頭を掻いた。


「それにしても、一瞬とはいえ自分以外の人間をブーストさせるなんて魔法、聞いたことがねえ。それに魔力切れに近い状態から無理矢理魔力を与えるなんて……。アンタ一体何者なんだ?」


た、ただの聖女のはずなんですが……。


「それよりみんな無事で何よりでした!」


レナは涙を拭って微笑んだ。

彼女も相当頑張ってくれた。あそこまでの成長をしているとは思わなかったのだ。

それはそうと……。


「ところで二人はなぜ一緒に?」


私はアッシュとウェルクが一緒にいることが気になったので、率直に尋ねてみた。


「ああ、アッシュに剣の使い方を教えていたんだ」


二人は顔を見合わせて笑う。


「ウェルクすげぇんだぜ!!教えるのめちゃくちゃ上手いんだ!!」


アッシュは嬉しそうに私に教えてくれた。


みんなに聞いたところ、私は五日間も眠っていたらしい。

魔力切れでそこまで目を覚まさなかったのは初めてだ……。

無理が祟ったのだろう。


その間にアッシュはウェルクから剣術を基礎から学んでいたのだ。

兼ねてからアッシュにはちゃんとした剣の先生が必要だと思っていた。

それから剣の手入の仕方も。

父親から剣を貰ったときに、アッシュは父親といくつか約束をしていたらしいのだ。

剣の手入を欠かさない。無駄遣いをしない。とかそういうものだ。

アッシュ自身守れていない自覚があったらしく、それが自分への不信に繋がっていたのかもしれない。


ウェルクに作り直してもらった剣はアッシュにとって宝物らしく、自分の子供にそれを託せるよう大事にすると言っていた。

なんとも微笑ましい願いだ。


「聖女様、しばらく杖を貸してもらえないか?」


ウェルクは突然私にそう問いかけた。

別に巡礼中は使う予定はないので手渡したが、私の杖も新しく生まれ変わったりするのだろうか……。

であるならばなんだか申し訳ない気持ちになるのだが、期待してしまっているのも事実だ。




ローディセンの巡礼は順調そのものだった。

私達が助けた旅客船には他国の要人が乗っていたらしく、ここの領主は魔物を討伐したことでアルデリア国内にも他国にも大きな顔ができるというわけだ。

加護自体はメアリーの面目上受けれないが、広場や港は好きに使ってくれということだった。


それともう一つ、今ローディセンの街は非常に香ばしい匂いで溢れている。

向こうの世界で言うお祭りの匂いと言ったらわかりやすいだろうか。

それはもはやローディセンの新たな名物と化しているのだ。

最初はまさかと思っていたのだが、これが意外とイケる。


そう、エクピスは食べれるのだ。


大量にあるエクピスの肉を、街の人間はそこら中で焼いて食べている。

しかもこれがまたなんとも美味なのだ。

それがウワサを呼んで近隣の村などから人も集まり、今ローディセンの街は連日お祭りの様に賑わっている。

やはり私の巡礼はこうでないと。

もはや開き直っているまである。



そして巡礼も終わりウェルクのもとを訪れると、そこには綺麗に磨かれた私の杖が置いてあった。

何か見た目が変わっているような感じはない……。

ウェルクは杖を私に手渡すと、


解錠(ブースト)してみてくれないか」


と唐突に言い放った。

私は言われる通り杖に魔力を込め、魔力をブーストさせる。


「何か変わった感じはするか?」


「なんだか、杖に流れる魔力がいつもより少ない気がします……」


私はブースト状態を解除して杖を再度見つめるが、別に変わったところはない。


「出力を制限させてもらった」


ウェルクのその言葉に一瞬耳を疑った……。













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