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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第二章 アルデリア共和国編
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第七十三話 港街ローディセン


大聖女ローザはもういない。

マギーもグレイゴルも、二度と彼女から加護を受け取ることはできない。


でもローザから受け取ったであろう手の温もりは、後の世に残すことができると。


少なくとも私はそう信じている。



「却下だ」


「そ、そんな……!!」


マギーはお金を数える手を止め、タバコを取り出して火をつける。


「休日の名前は『大聖女の日』にしな」


その言葉に思わずハッとなり、口を両手で抑える。

目の奥から熱い物が押し出されるようにして溢れた。


「でも……!」


マギーは目を瞑って微笑んだ。


「ローザならそうするだろうね。あの子は昔からそういうのが苦手だったから……」


「でもそれではいつかローザのことが……」


「バカだねぇ。そんなことしなくたってローザはちゃんとあたしらの中に生きてるよ……。ただ、あんたの言う通りたまにゃみんなで思い出してやんないとね……」


見たこと無いマギーの笑顔に私の涙は止まらなくなった。


「それに、この名前にしときゃ数年後にはみんなあんたのことを思い出すようになるだろ?」


その意味を理解するまで少し時間がかかったが、

慌ててそれを否定する。


「私は大聖女になんて……!!」


「いーや!なるんだ!死ぬ気で目指しな。それが信仰受ける者の務めってもんさ。あのメアリーとかいういけ好かない女なんかに負けんじゃないよっ!!」


大聖女を目指すことは考えていなかった。

正直メアリーをはじめ他の聖女と争うくらいなら、いっそのこと譲ろうかとも考えていたのだ。

しかし今まで加護を与えた人々の心に、私のことが少しでも残っているのなら、頑張ってみようかとも思う。

信仰してくれている人間の前で、駄目です、無理ですとは言えない……。

私は涙を拭って答えた。


「はい。頑張ります」


「あと、これは言い忘れていたんだけど……。シュラグの件はすまなかったね……。あいつらみたいなバカがたまにいるんだよ。」


そういえば私も忘れていた。マギーは盗賊ギルドの頭目だと言っていた。

マギーの話では、もともと盗賊ギルドという名前ではなかったらしい。難民に溢れた時代、住む家も食べる物も無く倒れていくものが多い中、国やギルドを通さず食料や薬を裏で流通させていたことが始まりらしい。

違法といえば違法なのだが、その時はそれしか生きていく術がなかったということだった。

それが何時しかビッグマーケットという大きな市場となり、そのうち盗品や出処の怪しい物まで売り出す者が出てきたのだ。

それからマギーの率いる組織が盗賊ギルドなどと呼ばれ始めたわけだ。

マギーの息のかかった者は実際に盗賊行為をしたことは無いのだが、盗賊ギルドという看板だけが独り歩きし大陸中に広がったため、もはやマギーだけでは収まりがつかない事態になっているのだ。


正直シュラグのことはもう終わったことだ。

私も取り合ってもらう為に名前を出しただけで、マギーに恨みは一切無い。




マギーとニック、ウォード、レパルのみんなに別れの挨拶を済ませ、私達はレパルを後にした。

ローディセンを目指す。


ローディセンの後は中継点を一つ残すのみで、いよいよ最終地点のラキアに到着することになる。

十日以上レパルに滞在していたにもかかわらず、メアリーのことを一切聞かなかった。

まだイレジアにいるのだろうか……?いや、いくら何でもそれは無いような気がするのだが……。


ローディセンに着いたら、まずはアッシュの剣を治してもらわなければ。

今の剣はとても使いにくいようで、なかなか練習がうまくいかないようなのだ。

またいつ魔物と戦うかわからない。早めに直してあげたい。


ローディセン向かう道中、馬車の中に見慣れぬ荷物が置いてあることに気付いた。

三人に聞いても心当りがないという。

一瞬、私の頭の中にジノの顔がよぎった。奴は去り際にまた会おうと言っていたのだ……。


まさか……爆弾!?


「皆さん!!今すぐ馬車から離れて下さい!!早く」


私達は急いで馬車から飛び出して距離を取る。

何処かから監視されているかもしれない……!!

私は魔力探知を展開して周囲を警戒する。

集中して敵を探すが、それらしい反応は見当たらない。

そんな中、シモンは落ち着いた様子で、


「僕、中を見てきます」


と言って一人で馬車の方へすたすたと歩いていく。

あ、そういえばシモンは開けなくても中が見えるんだった……。

しかし万が一ということもあるので、プロテクションを展開しながらシモンと一緒に馬車へ向かう。


何の変哲もない木製の木箱。大きさは私の頭一つ分くらいで、そこまで大きくない物だ。

シモンはその箱に手をかざし意識を集中させる。


「何か……金属のようですが……」


金属……?全く心当りが無い。

誰か馬車を間違えて投げ込んだのか?

いや、それは無い。確かに宿を出るまでは無かった物なのだ……。


私は恐る恐る木箱に手をかけて蓋を開けた……。

その瞬間、箱の中身が日の光を跳ね返してキラッと輝いた。それは眩しい黄金色の光だった……。


「金帯……しかもこんなにたくさん……!!一体誰が……!?」


木箱の蓋には一通の手紙が貼り付けてあった。

中には綺麗な字でこう書かれてある。


──教会にくれてやるのは(しゃく)だからね。これはあんたにだ。しっかりおやり──


金帯の差出人はマギーだった。


木箱にびっしりと入った金帯はぱっと見ただけでも三十本以上はあるだろう。

マギーは口調が乱暴でも、しっかり私のことを応援してくれている。

またいつか、必ずお礼を言いに行こう。


「聖女様、これは何ですか?」


あんなに物知りなシモンが私に尋ねてくるのだから驚いた。

そうか……三人は見たこと無いのか……。

私はこれが通貨だということを三人に説明した。

一本が金貨百枚に相当すると話をした途端、三人は口を開けたまま震えていた。

それもそうだ。今まで見たことのない大金なのだから。私だって巡礼中の所持金の最高額を更新してしまった……。

金帯は予想を大きく上回り、全部で五十本。日本円にしたらなんと、一億五千万円相当になる。


ヤバい……!!本当にヤバい……!!

ここにいる全員が恐怖を覚える。

ビッグマーケットに使用した金額の比ではない……。


マギーの手紙には私へと書いてあったが、寄付金だとは一言も書いていない。これがちょっとマズイのだ。


村と違って教会へ直接寄付する場合は、意思確認の為に本人のサインが必要になってくる。

つまり教会は本人のサインが無い寄付金を受取ることができないのだ。

当然事の経緯と金額は報告するのだが、どうしよう……。このままずっと持ち歩く訳にもいかないしな……。

かと言って教会に入れるとそれはそれでマギーの意思を無視することになってしまう。


取り敢えずローディセンについてから考えよう。

三人には寄付金ということにしておいた。

ただでさえ最近無駄遣いが多いので、こんな大金手に入れたと知ったら怖いのだ……。


数日後。


ローディセンは港街だ。他国との窓口として交易や漁業も盛んだ。そして何より……。


「おおお!!すげぇぇぇ!!」


停泊している大きな船と、その向こうに広がる水平線。思い返してみると、この世界に生まれてから海をみるのは初めてだ。

吹き抜ける潮風が海の香りを運んでくる……。

三人も海を見るのが初めてらしく、興奮している様子だった。


レクスに聞いたウェルクという人物を尋ねて、私達は街の中を歩いて回る。

ウェルクはこの街で有名な人物らしく、すぐに場所を知る事ができた。街の奥にある大きな鍛冶工房。

看板には剣と槌を交えた紋章が掲げられている。

そしてその下には、


─ディクロン─


と書かれていた。



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