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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第二章 アルデリア共和国編
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第六十九話 マーケットの支配者


「奥様はお体が悪いので?」


男は妻の横へ腰かけ、手を取り背中をさする。


「ええ、原因不明の病気でしてね……医者も匙を投げました。ここに来れば何か良くなる薬の一つでも見つかると思ったのですが……」


どうやら話を聞くに、この家族はビッグマーケットに来てまだ二年くらいの新参らしい。

もともとイレジアに住んでいたらしいのだが、奥さんの病を機にこのビッグマーケットに移り住んだということだ。

男はここで妻に合う薬を探しながら、医者と薬の金を稼いでいるということだったのだ。


「それで……話とはどのような?」


私は奥さんの傍に寄ると、手をとって意識を集中させた。

緑色の光が体を包み込み、真っ白だった顔に赤みが戻っていく。


「そんな……!!治ってる……!!」


「なんと……信じられない……!!」


「あなた……!!」


二人は泣きながら抱き合い喜びあった。


「ありがとうございます!!なんとお礼をしてよいのやら……!!」


男は両手を地面に付いて私に言った。

私は二人の手を取り立ち上がらせる。


「私はこのビッグマーケットの人達に加護を与えたいのです。協力していただける方を探していて……」


男は奥さんと互いに顔を見ながら恐る恐る私に言った。


「どうでしょうか……。妻を治していただいた聖女様にこのような事を申し上げるのは心苦しいのですが……。それは難しいと思います……。」


男は子供達を抱き寄せ、下を向いた。


「今ビッグマーケットは、盗賊ギルドの手によって管理されているのです」


私はその言葉に驚愕した。

盗賊ギルド……。私を誘拐し隣の大陸に連れて行こうとした連中。

そしてドミネーターとのつながりもある危ない集団だ。


この男が言うには、まずビッグマーケットで店を出すのは必ず盗賊ギルドにお伺いを立てないといけない。

そして彼らに毎月の使用料を納めることで、ビッグマーケットでの商売が可能となる。

国や街自体にそのような法律は無いのだが、ここの貴族も見て見ぬふりを決め込んでいるようだ。

随分と昔からそうなのだろう。今更取り締ることなどするわけがない。


「ビッグマーケットを取り仕切る盗賊ギルドの頭目はマギーと呼ばれる人物です。」


「その人物のところへ案内していただけないでしょうか?」


男は驚いた表情で首を横に振る。


「いけません聖女様!!それはあまりにも危険です!マギーはこの辺では有名な聖女嫌いなのです!貴族ですらマギーには口出しできないというのに!そんなところへ行ったら何をされるかわかりませんよ!!」



男は奥さんと一緒になって必死で私を止めようとしている。

なるほど。グレイゴルが訴えていたのはこのことだったのか。

当然、彼らの言う通り危険はついて来るだろう。

しかし、ただ話をしにいくだけなのだ。

もともと加護を与える予定はなかったのだから。

別に彼らの行いを法の下に正そうとかそういう事を考えているわけでは無い。

この奥さんのように、中には加護が必要な人間もいる筈だ。

求める人間に与えることができればそれで良い。


という事情を説明し、なんとかマギーのいる場所まで案内してもらう取り持って貰った。


ねぐらの中で一際大きいテントへ案内されると、入口には大柄の男が二人立って見張っている。

その腕の太さが彼らの強さを物語っている。


案内してくれた男には帰って貰って、私は見張りの二人にマギーと話がしたいと言うことを伝えた。


男達は、私を相手にする様子は全く無くシッ!シッ!と手を払ってあくびをしている。


「少しだけでも良いのです。お話を聞いてもらえないでしょうか?」


しつこいぞと言わんばかりにこちらをキッと睨みつける男達。

織部かおりであれば尻尾を巻いて逃げ帰るところだが、私は聖女シルヴィアだ。

少し腕っぷしが良いくらいでは簡単に動かせないぞ?


男達はそれでも退かない私にいよいよ、武器へと手をかける。それを見て飛びかかろうとするアッシュを、私は手を前に出して制止する。


「フランディアの聖女シルヴィアです。シュラグの件では世話になったとお伝え下さい」


あんなことがあったのにわざわざ出向いてきたのだ。

話の一つぐらい聞いてくれたっていいだろう?


私の異常なまでの圧力に押された男達は、一度奥へ入りしばらくして戻ってきた。


「入れ」


不機嫌そうに一言だけ放つ男に、私はニッコリと微笑んで返した。


部屋の中には様々な装飾品や骨董品、マジックアイテムであろうと思われる品までもが所狭しと並んでいる。

その中央のテーブルを四人で囲み、何やら賭け事をしているようだ。

その一番奥、正面の入口に向かい合うように座る女性。

白い髪をまとめ上げ、口にはタバコのような煙を吐く細長い筒状のものを加えている。

刻まれたシワから見て取れるがかなりの年齢だ。

グレイゴルよりも年上だと思う。

一瞬だけ私と目を合わせると、他の三人に目で合図を送った。

奥の女性一人を残して、後は部屋を出ていってしまう。


「あ〜ぁ……。今日は久しぶりにツイてたっていうのに……どうオトシマエつけてくれんだい小娘?」


口を斜めに尖らせて、白い煙をフゥーーーーッと吹き出す女。恐らくこの女がマギーだろう。


「突然申し訳ありません。フランディア王国の聖女シルヴィアと申します。今日はマギーさんにお話があって参りました」


まるで品定めをするかのように頭からつま先まで私をジロジロと見るマギー。


「ふ~ん。話ねぇ。聖女様があたしに一体何の用だい?寄付金なら銀貨一枚くれてやるつもりは無いよ?」


鼻で笑いながら私にそう言うマギー。


「いえ、寄付金はいりません。ビッグマーケットの人達に加護を与えたいのです」


加えていたタバコをコンコンと台に当て、灰を払うマギー。


「あんたの事は知ってるよ。何でも貴族だけじゃなく平民全てに加護を与えてるんだって?変わった聖女もいるもんだ。そんなことやって一体何になるっていうんだい?」


私を怒らせたいのか、まるで挑発するかのように話すマギー。

何になるのかなんてわからない。

ただそれを待ち、喜んでくれる人達がいる。

明日終わってしまうかもしれない命が、そうでは無くなる。それは充分に価値のあることだろう。

それと……。


「そういう生き方をしている人間に出会いました。そして私もそう生きたいと思ったのです」


一番の理由はそれだろう。

一人でも多くの人間を助けたい。そう誓ったから。


「ジルエールか……。奴らも不憫だね……。自分で自分を守れないような奴は放っておけば良いものを……。

聞いてると思うがあたしはあんたみたいな聖女が大嫌いなのさ。ちゃんと挨拶に来たことだけは認めてやるが、ここの人間は加護なんか必要としちゃいない。帰りな」


「大聖女ローザであればどうすると思いますか?」


マギーのタバコを持つ手がピクッと動く。

それと同時に、今までとは違う殺気に満ちた気配を放ち始めた。


「ローザであればどうするかだと?なんだいお前、ローザの真似ごとでもしてるつもりかい?」


次の瞬間。

ビュン!!と老人とは思えない腕の振りで、持っていたタバコを投げつけるマギー。

タバコは私の頬をかすめ、後ろの柱へダン!と突き刺さった。


「その名はお前みたいな小娘が軽々しく口にしていいモンじゃないんだ。わかったらさっさと消えな……」


そう言ってマギーは奥へと入っていった。


「なんだよあの婆さん!シルヴィアがせっかく加護を与えてやるって言ってんのに!!」


「良いのですよアッシュ。ここの人間にはここの人間の事情があるのです」


ローザの名前を出した瞬間に一気に雰囲気が変わった。グレイゴルの言う通り、ここの人間のローザに対する想いは、私なんかでは測ることができないものなのかも知れない……。




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