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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第一章 フランディア王国編
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第六話 守護魔法


屋敷に帰る途中広場ある大通りを通った。

広場は何やら賑わっている様子で、私は馬車の中から窓を開けて覗いて見回した。

広場の中央、大きな荷台を引いた馬車が止まっている。

荷台の上には白い布が被せてあるのだが、その被せてある布の隙間から、動物の毛皮?のようなものが見えている……。

馬車の周りには人だかりができており、その人だかりの中央で何やら大声で叫んでいる人物がいた。


「我々は冒険者ギルド、希望の剣だ!!

 今回、南西の森に巣食う魔物の主を討伐することに成功した!!」


オオオーーーー!!と周りから歓声が巻き起こる。

それと同じくして、隣にいる取り巻きたちが自身らの団旗を掲げ、風にはためかせる……。


「我々は今、共に戦ってくれる同志を探している!!

 我こそはと思うものは申し出てくれっ!!」


どうやら冒険者ギルドの新規勧誘のようだ。

冒険者ギルドとは、魔物の討伐を生業としている集団である。

魔物の爪や毛皮などは魔力を帯びており、アイテムや武具、その他様々な生活用品にまで幅広く使用されている。

大型の魔物などは内帯する魔力も多く、その素材は高値で取引されているらしい。

ただ、魔物の討伐は常に死と隣合せの危険な仕事なので、それによる恒久的な人手不足に悩まされているという訳だ。


孤児や身分の低い者は、幼いうちから冒険者になり、命を落とすといったことも珍しくない……。


私が窓から顔を離し下を向いた瞬間、先程の歓声が悲鳴に変わった。

再び窓を覗くと、なんと先程の大きな荷台から、今まさに魔物が起き上がろうとしているのだ。

魔物はがんじがらめに身体を縛っているロープをブチブチと引きちぎっていく……。

太く大きな腕を振り回すと、絡まったロープが近くの人や物を巻き込んで跳ね回る。


ゴリラのような身体、カメレオンのように左右にギョロっと飛び出た目、鷺の用に細く長いクチバシ…………。

手には鋭い鉤爪が付いている。


高さ3メートルはあると思われる大きな身体で、雄叫びを上げながら目に入ったものを次々になぎ倒していく……。


御者さんは馬を走らせ、魔物から私を遠ざける。

私は必死に馬車にしがみついて身をかがめた。

が、次の瞬間、大きく車体が縦に揺れたと思ったら、


ベリベリッ!!


と幌を突き破り、魔物の腕が私のすぐ横をかすめた……!

馬車は真っ二つに裂け、私はそのまま外に投げ出されてしまった。

地面に叩き付けられる衝撃、すかさず魔物の腕が私に向かって振り下ろされる。

寸前のところで身をよじったが、爪の先が私の足を引き裂く……。

見たこと無い量の血が吹き出し、激痛が走る。

止まっている暇は無い。すぐさま回復魔法をかけ傷を塞ぐと、飛び込む様にしての建物の隙間に隠れた。

私は手で頭を押さえ、祈る様に魔物が通り過ぎるのを待つ……。


私を見失ったのか、魔物は暴れながら周囲を威嚇している……。


「ひっ…………!!」


魔物の前方に1人の女の子が座り込んでいる………。

その子は恐怖で腰が抜け、座ったままガタガタと震えていた。

魔物はピタッと動きを止め、目玉だけをギョロっと少女に向ける。


まずい……!このままじゃ…………!!


自分の子供と重なって写ったのかもしれない。

気づいた時には、私は飛び出していた。



私の方が一瞬早く少女をつきとばす。

魔物の爪が私の背中を引っ掻く…………が、幸いローブが破けただけで、背中には当たっていなかった。


「逃げて……!!」


少女は這うようにして必死にその場から離れようとするが、とてもじゃないが動けそうにない。

魔物はまた大きく腕を振り上げた。


また腕が来る………!!

どうすれば………!?

そうだ………魔法………!!

きっと防御に使う魔法だってあるだろう…………!!


私は少女の前に立ち塞がり、両腕を前に伸ばす。


「大いなる精霊よ、我らに鉄壁の守護を………!」


掌に意識を集中させる……。イメージは……

そう……盾…………!!


私の前に、緑色に光る盾が現れる…………。


バリィィィン!!


魔物の腕は盾を粉々に砕いてしまった。

私はその衝撃で後ろへ吹き飛び、小女にぶつかってしまう。


だめだ………。もう一度……!


「古の神々よ、我に大いなる守護の力を…………」


再び両手を突き出すが、盾は出ると同時に砕かれてしまった。


左肩から右足にかけて一直線。真っ白なローブが真っ赤に染まっていく。

あまりの痛みに、私は一瞬気を失いそうになる……。


あぁ…………。もう無理だ……。

私ではどうすることも出来ない…………。

聖女とはこんなにも無力なのか…………。


結局私は………自分の子供を見つけることも出来ず、

旦那にも裏切られ、聖女としてだって誰一人守れない。

本当にどうしようもない……………………。


ハルト………。

サキ…………。

ごめんね…………。




また泣き声が聞こえる…………。

サキ………?いや、ちがう……………。

私の後ろから………。


私の後ろで女の子が泣いている。

破けたローブを握りしめ、必死に私にしがみついて。


どうせ死ぬなら……この子だけでも守ってやる……。

絶対に…………!!


神様はいじわるだった。

精霊も力を貸してはくれなかった。


私がこの子を守るんだ…………!!

神でも精霊でもない!!

私が誓うのは……………………



聖女わたしだっ!!!



「我は聖女シルヴィア!!今、小さく力無きものに…………不壊の安息を与えんっ!!!」


守護魔法プロテクション!!


半球状の光が私たち包み込む。


バチィィィ!!


魔物は腕を大きく弾かれ、後ろにのけぞった。

体制を立て直してもう一発…………!

二発…………!

三発…………!

続けざまに繰り出される攻撃を全て弾き返す。


聖女が信仰するものは聖女。自分自身だ。

誰かに必要とされ、愛され、祈られ、そしてその気持ちに応えようとする時、はじめて聖女の魔法は真価を発揮する。

私は聖女としての自分を信じることができなかった。

求められた期待に応えようとしなかった。

だからうまく魔法が発動しなかったのだ。


使ったことのない盾なんかじゃダメだ。

硬い、硬い、亀の甲羅。

首を縮め、手足を引っ込め、たとえ踏みつけられようと、絶対に壊れない亀の甲羅。

魔力を思いっきり内側に凝縮させるイメージで!


魔物の鉤爪がバキン!と折れ、宙を回転して地面に突き刺さる。

怒り狂った魔物は力任せに何度も腕を振り回す。


今の私に炎や雷を出すことは出来ない……!

だったら……この魔力が無くなるまで耐えてやる!!


1分………。2分……………。

もう何発耐えたかわからない、私の魔力も徐々に限界を迎えてきている……。


助けはまだ来ないのか!?

このままじゃ………。


ジワジワと力が抜けていく感覚………。

半球状の防護壁がピシッ、ピシッと音を立ててひび割れていく……。


ダメだ………破られる…………!!


バリィィィン!


とうとう壁が壊されてしまった。

もうほとんど魔力も残っていない…………。

ここまでか…………。


魔物の腕が振り下ろされた瞬間…………。

私の頬に血しぶきが飛んだ……。


放心状態の私の隣に、ドサッと魔物の腕が落ちてくる。何が起こったのか分からない……。

私の目の前には、見たことの無い少年が立っていた……。

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