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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第二章 アルデリア共和国編
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第五十七話 魔法石


私がこのレパルのビッグマーケットで欲しいもの、

それは『冷蔵庫』である。


当然向こうの世界と同じ様な物というのは難しいだろう。ただ、他の物を組み合わせて同じ様な物を作る事は可能ではないかと考えているのだ。


アルデリアは王都よりも若干涼しい環境ではあるものの、常温でのミルクはすぐに傷んでしまう。

馬車内におけるような小型の冷蔵庫が欲しいと思っているのだ。


マーケットに入る前から漂うなんとも食欲をそそる香り……。

何かの大きな肉が吊るされ、表面にはたっぷりのスパイスが塗られている。お!こっちは魚介類か!

見たことのない揚げ物、フルーツ等も数え切れない種類が並べられている。

お祭りでもないのにこの活気。

スタンレーの市場もすごかったが、こちらのほうが庶民的というか凝縮されている。建物ではなくテントを張ってその場で商品を広げて売っているのだ。


アッシュは何かの食べ物が刺さった串をかぶりつきながら、次の獲物を探している。

レナはやはり女の子だ。貴金属類と衣類に夢中になっている。

シモンは今のところ何かに興味を示すような様子は無い。手に持った本を読みながら行き交う人とぶつからない様に器用に歩いていく。


これって……。もしかして……。


私の想像なのだが、シモンは前から来る人間が気配でわかるのではないか……?

魔力コントロールの副次効果かもしれない。

人から発せられる微量な魔力を読み取って、それを躱すように歩いているのだ。

試しに魔力を掌にギュッと集めてシモンの前に出してみる。

その瞬間、シモンはメガネがズレるほど飛び跳ね、辺りを見回し始めた。

全員がシモンの方を見て不思議そうな顔をしている。


「どうしたのシモン?」


レナがシモンに尋ねる。

状況が呑み込めないシモンはキョロキョロしながらメガネを直す。


「いえ、さっき目の前に何かがいたような気がして……」


ごめんねシモン。でも予想通り無意識に魔力を感じていたのだと確信した。

意識してやるのと、意識せずともできるのでは大きく異なる。

シモンのこれは簡単にできることではないのだ。

私だって無意識に魔力探知はできないのだから。



「はいはーーい!!皆様ご注目くださーーーい!!」


おや、何かの実演販売のようだ。


「ここにありますのはただの魔法石では御座いません!!なんとあのドラゴンが眠るという伝説がある北部サンストレッド山脈で採れた貴重な魔法石にございます!!」


ドラゴンが眠る山脈……。胡散臭いなぁ……。


「まじかよ……!」


そういえばアッシュはドラゴン大好きだったな。

でもこういうのは大体偽物が多い。そういった希少な鉱石がギルドを通さず市場に出回るとは考えにくい。

ねぇレクス?


「すごいな……!」


えぇ……!?信じてるし……。

男の子ってなんでそんなにドラゴン好きなの?

羽が生えたトカゲだよ?


「この魔法石、そんじょそこらの魔法石とは訳が違います!!通常の魔法石は付与できる魔法の相性というものがございますが、なんとこの魔法石にはそれがございません!!地水火風、変雷重氷に光闇となんでもござれ!!」


ますます胡散臭い!!本当にそんな素材があるのか……?

基本的にこの世界には、生き物をはじめとして物や大気中にも魔力が存在している。

ただ、魔力は万能なエネルギー源としてではなく、何かの属性に依存した形で存在しているのだ。


最も有名なのは地水火風の四大属性。この世界の大半がこの四大属性に分けられ存在している。魔法使いもこの四大属性の魔法を使用する者が殆どだ。


次に挙げらるのが複合属性。変化、雷鳴、重力、氷冷の四種で、それぞれが先の四大属性同士が合わさってできる二次属性である。


最後が光と闇。光の属性は主に聖女が使用する。ヒーリングやネメシス、オーブライト等がこれにあたる。

闇の属性魔法に至っては私も見たことが無い。

それくらい使用できる人間が少ないのだ。


少し話が逸れたが、人や物にもそれぞれ自分に合う属性の魔力というものが存在する。

これが魔力の適性となって現れるのだ。よって自分と合わない属性の魔法は発動すらしない。

適応していない属性の魔力は体内で生成されないからだ。

自分の属性と異なる魔力を流し込まれた場合、人体は拒絶反応を起こして、自分の持つ魔力でその魔力を排除しようとする。以前のサラのように。


物にも同じことが言える。魔石などでも適応する属性が決まっているのだ。


どんな属性でも受付けるなんて、そんな素材あるわけが無い。


「更に魔力効率も段違い!それでは実際にご覧いただきましょう!」


見るからに怪しい商人の男が取り出したのは更に二つの魔法石。


「こちらは通常の魔法石にございますが、当店で扱う魔法石と比較してみましょう。まずは炎から」


そう言って両方の魔法石をかざすと、通常の魔法石はライター程度。ここの商品は火炎放射器のような圧倒的な出力差で現れる。


うん。やってるなこれ……。


しかし周りからはオオオオォ!!と驚きの歓声が上がる。

レクスもアッシュ達も真剣な眼差しで見ているのだ。


おーーーい。多分騙されてますよぉ?


「次は水です!」


と今度は滴り落ちる水に対して、噴水のような水が出る始末。


完全にやってるなこれ!!


「いかがですか皆様!!なんとこのドラゴンの魔力を宿した魔法石!今なら金貨二十枚!!」


たっっか!!日本円にしたら一個が役60万円だぞ!?

しかもいつからドラゴンの魔力を宿した魔法石になったんだ!?

ドラゴンの伝説がある山から採っただけだろう!?


その場の観客たちはざわめき出した。やはりいくら何でも金貨二十枚は高すぎる。さ、行こう行こう。


「と、言いたいところですが!なんと、本日聖女様の巡礼間近ということでの特別価格!金貨二枚でお譲りしましょう!!」


ウオォォォォォ!!


前から後ろから大きな拍手と歓声が上がる。

商品の前には客が押し寄せ、私達はその波に飲み込まれてぐわんぐわんと振り回される。


ちょ……!!


「きゃあっ!!」


押し潰されそうになる私の悲鳴を聞いて、そこにレクスが割って入り私を守る。


「あ、ありがとうございます」


私とレクスの距離はゼロと言っていい。少しの隙間も空いていないほど密着している。

今日はイレジアで買った街服で来ており、髪も纏めて上げている。

私が聖女だということは誰も分からないだろう。

アッシュ達と違和感が出ないよう、冒険者風の服にしてみたのだ。


昨日のことがあるのだ。否応なしに意識してしまう。

自分でも顔が赤くなっているのがわかった。


レクスの顔を直視できず、目を背けてしまう。


服の事は何も言ってくれなかったな。

可愛くなかったのだろうか。

そもそもレクスは私の事をどう思っているのだろうか……。

彼の態度を信じて良いのだろうか……。

でも好きでもない女に命をかけるか?

ジルエールだから?


あーーーーーーーーーーーーもうっ!!


どうしちゃったんだ私!!乙女かっ!!

いや……。シルヴィアは乙女だ……。


「大丈夫かい?少休んだほうがいいんじゃ?」


「いえ……」


大丈夫です……。

ただ一人で舞い上がってただけなので……。


まずいなぁ……耳が熱い。

本当にどうかしちゃってるな私。


あぁ。そんな風に笑うのやめてよ……。


本気で


好きになっちゃうじゃないか──





人だかりが去り、上機嫌な商人に声を掛けた。


「商売がお上手なのですね」


冒険者風の娘にそんな言葉遣いで話しかけられたものだから、商人は少し警戒しながら答えた。


「それほどでも。良いものを仕入れているだけですよ」


「商品をもっとよく見せていただきたいのですが?」


男は何かを察したのか、そそくさと立ち去ろうとしている。


「申し訳ありませんが今日はもう売り切れでして」


やはり何かを隠している。ただ、声をかけた本当の目的はそれを暴くことではないのだ……。


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