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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第二章 アルデリア共和国編
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第五十四話 オムレツ


アッシュが放った回転斬りは……。

まず回転できてない。空振りした野球選手みたいな動きになってしまっている。

恐らく魔力が腕だけに集中したのだろう。

最初に脚、次に腰、最後に腕の順番に解放しなければならないところを、力を込めるあまりに腕だけに意識を持っていかれたようだ。


でも最初はこんなものだろう。

正直やっていることは魔法の発動よりも一段階難しい部類に入るからだ。

魔法の適性がある人間であれば魔力を溜めて放つ、これだけで良い。しかし身体能力の強化に魔力を応用する場合はそこから更に体の動きを合わせなければならない。動きが複雑であればあるほど、それだけ魔力コントロールの工程が増えていくのだ。


ただ、習得さえしてしまえば任意のタイミングで発動できる上に詠唱もいらない。一対一の戦いにおいては無類の強さを発揮するだろう。


「はぁ~。だめかぁ」


座り込んでがっくりと肩を落とすアッシュ。


「いえいえ、決してだめではありませんよ」


私は手を差し伸べアッシュの身体を起こす。


「先にも言いましたが簡単に諦めてはいけません。できるまで根気強く続けましょう」


アッシュは笑みを浮かべて再度魔力を練り始めた。

感覚を掴めてきて嬉しいのかもしれない。

みんな前向きに取り組んでくれるのは良いことだ。


しかし野宿はキツイ……。

盗賊の一件以降、宿に泊まっている時でさえ不意に誰かに襲われそうな気がして目を覚ますことがある。


野宿なら尚更それが表れてくるので困る。

心を落ち着かせるように魔力探知を展開して再度眠りにつく。

感覚にして一時間か二時間に一回くらいだろうか……。

別に見張りを信用していないとかそういうことは無いのだが、やらないと気が済まなくなっている。

もしドミネーターのような輩に遭遇した際、今の私達では太刀打ちできないからだ。

せめてこの三人だけでも逃さねばなるまい……。


そんなことを考えているうちに、魔力探知を辞められなくなってしまったのだ。


レパルまではまだ二日以上かかる……。

大丈夫か私……。


あぁ……お風呂入りたい……。



今回の移動中は本当に魔力コントロールの特訓しかしていない。というか頑張っているのは三人だけで、私は睡眠不足のせいで馬車内でずっとウトウトしている。私が自分で皆に言い出したのに、これでは示しがつかない。

彼らが『出来た』、『出来ない』と試行錯誤する掛け合いを聞いて、ハッとなって立ち上がろうとするのだが、まぶたに重りがついているかの如く睡魔が襲ってくる。


情けない……。そうこうしている間にもう日が傾き始めている。

あ……。今日の料理当番は私だった。

準備をしないと……。


基本的に巡礼中は宿を渡って移動するので、野宿を前提としていない。

今回レパルに直行することはイレジアを出てから決まったことなので、食材等もしっかりと準備できなかった。

緊急時を想定して三日分の食料をいつも乗せているのだが、今回の工程は四日間。

途中に買出しできそうなところもなかったため、食材は考えて使わなくてはいけないのだ……。


ふふん。でもそこは元主婦ですから。お任せあれ。

食材は干し肉に卵、根菜が数種に大きな豆パン……と。

あと一日分残さなければいけないから……。よし!


まずは手洗い!基本だぞ!


私は鍋に水を入れ火にかける。

日持ちする干し肉といくつかの根菜は明日へ回そう。

卵と他の根菜でスパニッシュオムレツを作って、あとはスープと豆パンを少しだな。

それと食べれそうな草なんて生えていないだろうか。

ロブロットの手記を見ながら食べれそうな草やキノコを探し摘み取り、その際に少しだけ口に入れて食べれるかを確かめる。

貴重な食材を無駄にするわけにはいかない。


まず根菜は細かく切り、スープの鍋で一度全て煮る。

こうして一度火を通すことにより、オムレツのような短い加熱時間でも柔らかく食べられる。

スープの方にも出汁が出るので一石二鳥だ。


卵液とキノコ、野菜を混ぜて塩、スパイスを加える。

あとはフライパンでこんがり焼くだけ。簡単で美味しい。

スープは先ほど摘んだ葉類やキノコも放り込んで塩とスパイスで味付けする。コンソメや鶏ガラスープの素なんかあれば最高なのだが……。

贅沢は言えないな。でも匂いからしてこれだけでもきっと美味しいはずだ。


匂いにつられて三人が火の周りに集まってきた。


「ん〜うまそうな匂い!」


ではいただくとしよう。

内心もうドキドキハラハラなのだ。

この前のようなことがあれば私はきっとショックで立ち直れないだろう。


私はみんなが口に入れるのをキョロキョロと怯えながら見守った。


「……!!」


「おいしい!!」


やったぁぁぁぁぁ!!良かったぁぁぁぁ!!

三人ともパクパク食べてくれている!

昼間何の役にも立てなかったから、せめて夕食ぐらいはと思っていたのだ。

あぁこれで一安心。私も食べよう。


うん!これは美味しい!

オムレツは野菜の柔らかさが完璧だ!!

根菜の甘みと卵の甘みが口いっぱいに広がっていく。

そしてこのいっぱい入ったキノコがお腹を満たしてくれるのだ。焼いた豆パンとの相性も良い。

スープはやはり動物系の旨味が欲しかったが、これはこれであっさりしていて美味しい。


お腹も心も満たされた。


三人とも私が料理ができることに驚いていた。

まぁそうだよな。貴族のお嬢様は普通自分で料理を作ったりなんてしないだろうから。


そしてふと、子供たち二人のことを思い出した。

サキは無事だろうか……。

お腹空かせてないかな……。


「聖女様……?どこか具合が良くないのですか?」


そんな顔に見えてしまったのか。

溢れかかった涙を拭うと、必死に笑顔を取り繕う。


「申し訳ありませんでした皆さん。明日の訓練は私もも参加しますので……」


「ううん!聖女様全然寝てないから!!」


やはりレナは気づいていたのか。


「ずっと私達のために周りを警戒してくれてるの……」


アッシュとシモンはそれを聞いて驚く。

私も観念して魔力探知の事実を白状した。

見張りをお願いしている二人には申し訳ない気持ちでいっぱだった。彼らのことが信用できないとか、本当にそういう訳ではないのだ。


実は盗賊に襲われたことがあると言った方が良かったのだろうか。

いや、かえって不安を煽るだけだろう。レパルに到着するまで彼らには訓練に集中してほしい。

あと一日だ……。気合で乗り切ろう!!



しかし、問題は翌日に発生した。

時刻は夕暮れ時。皆で夕食の準備を始めようかと思っていた矢先、レナが慌てた表情で私を呼びにきた。


「聖女様!大変です!!」


レナに連れられて馬車を覗くと、ガイオン達のミルクが全く減っていない。

なぜだ……昨日まであんなに元気にミルクを飲んでいたのに……。


まさか……!!


私はガイオンの前のミルクを顔の前に近付けて匂いを嗅いだ。

ツンと鼻を刺す刺激臭と腐敗臭。

ミルクが腐敗してしまっている。そうか……。

ガイオン達が飲んでいるのは生乳だ。いくら涼しい環境とはいえ殺菌されていない生乳はすぐ悪くなってしう。なぜこんなことに気付かなかったんだ……!!


どうしよう……。近くにミルクを手に入れられるところなんてないぞ……。

レパルまではまだ半日はかかる。


このまま馬車を進めれば深夜には到着できるのではないか?

ギルドは夜間任務の冒険者のために、常に対応してくれるようになっているはずだ。


しかし明かりはなんとかなるにしても、みんなの体力は大丈夫だろうか?もうずっと移動、訓練、野宿の繰り返しだ。正直みんな限界に近いだろう。


アッシュとシモンにも現状を説明すると、彼らもレパルへ進むことを選んだ。

そうして私達は暗がりの中、レパルに向けて馬車を走らせたのだった。


日は沈み、僅かに赤く色付いた空の下。

蹄の音とが車輪が跳ねる音だけが響いていた。


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