第五十話 聖女戦争
フランディア王国は王都エルビオンが設立される以前、北側のアーメルデン王国と南側のルフォリア王国という二つの国に別れていた。
ローザが産まれたのは南側のルフォリア王国。
彼女は貴族の家に産まれ、聖女としての才にも恵まれていた。
その頃はまだ今のような聖女教会という組織は無かったため、一人一人の聖女を保護するといったことはしていないし、巡礼のルート化なども行われていない。
ローザは貴族にもかかわらず、十二歳を迎えるとベルガンド大陸中の国や街を巡り加護を与えて回ったそうだ。
ある日ローザがアーメルデン王国を訪れた際に、第二王子であったアレンと出会い、二人はお互いに思いを寄せてしまう。
しかし、ローザにはすでに婚約がいたのだ。
お互いに叶わぬ恋だということはわかったいたものの、その障害はますます二人の熱を上げ、胸を焦がし続けた。
巡礼により人々から信仰を集めたローザは、二十二歳の時大陸を代表して大聖女へと任命された。
聖女教会のない時代に大聖女を任命をしたのはそれぞれの国である。国同士の協議により、大聖女は誕生していた。
ローザは大陸中がその存在を認める聖女になっていたのだ。
ところがローザは大聖女になったことにより、自身の発言の偉大さに気付き、再びアレンへの想いを燃え上がらせてしまう。今であればアレンを自分のものに出来ると考えたのだ……。
ローザはもともとあった婚約を破棄し、とうとうアレンと婚姻を結んでしまったのだ。
その選択が悲劇の始まりだった。
ローザと婚約を交わしていたルフォリアの貴族は怒り狂い、アーメルデンの領地へ侵攻を開始してしまった。これが聖女戦争の発端である。
ローザを取り戻したいルフォリア。
ローザを守りたいアーメルデン。
両国は南北に別れ、アルデリアや現リグルト連邦までをも巻き込んだ大戦へと発展していったのだ。
最終的に、ローザは戦争への責任を感じ、アレンと共に自ら命を絶った……。
それがちょうど現在のエルビオンにあたる土地である。
ローザの死を持って戦争は終結したが、大陸全土、多くの人間がローザの死を悼み嘆いた。
ローザとアレン、二人の想いを汲んでルフォリアとアーメルデンが二度と分かつことの無いよう、二つの国は一つとなったのだ。
その平和の象徴として設立されたのが王都エルビオンである。
彼女は取り返しのつかない間違いを犯してしまった。
しかし、当時の人々の心には、幸福の象徴として深く刻まれている。その功績は消えることはない。
そういう理由でローザの像は顔だけが無いということなのだ。
存在を消すのではなくしっかりと過ちを後世に語り継ぎ、二度と悲劇を起こさせないようにという意味を込めて。
悲しい話だ……。
どんな思いで最後を迎えたのだろうか……。
彼女が生きていたら、話をしてみたかったな。
同じように間違えた女として……。
神官のおじいさんと巡礼の打ち合わせを行い、私達は教会を後にした。
ギルドの買取所にガイオンを預けると、そこに一番近い宿をとった。
今日は嫌なことがあったからすぐにでも寝てしまいたいのだが、その前に三人に話しておかなければならないことがある。
「揃いましたね。では明日からの特訓の内容を説明します」
そう。当初の予定通り巡礼期間中は私も含め特訓を行う。
まず朝は体力をつけるためにランニング。
ただ走るだけではない。魔力をコントロールしながら走るのだ。そうすることによってスタミナも飛躍的に上がり、魔力による身体の強化もしやすくなる。
その次は瞑想。これは魔力のコントロールに重きをおいている。
やはり魔力コントロールには集中力が不可欠なのだ。
集中力を高めいつでも魔力の流れをコントロールできるように反復する。
そして最後は各々の得意技の練習だ。
レナは風魔法、アッシュは必殺技、シモンは薬品の調合と投擲の練習。
よし。巡礼中の隙間時間は全て特訓に充てよう。
私が率先してやれば彼らだってついてくるはずだ。
そして翌日。
ゼェゼェ……。ハァハァ……。
「おーーーい!!置いてくぞシルヴィア!!」
ずっと先の方からアッシュが私を呼ぶ。
「は、はい……!!申し訳ありません……!」
「聖女様、あまり無理しないで」
レナは心配そうに私を気遣いながら背中に手を充てる。
「だ、大丈夫ですよ……ハァハァ……」
嘘だろ私……。なんでこんなに体力無いんだ……。
レナはおろかシモンにすら余裕で負ける。
「先行ってるぞーー!」
アッシュの姿はすでに見えなくなってしまった。
か、回復魔法使っちゃおうかな……。
いやダメだ!そんなインチキ通用するわけないだろう。
今までどれほど魔法に頼っていたのかがよくわかる。
それじゃダメなんだ。
魔法が使えない状況だと何もできなくなってしまう。
せめて相手の攻撃を避けたり捌いたりするぐらいはできないと……。
プロテクションでは限界がある。
それに走るときの腕の振り、呼吸の頻度、身体を巡る血流などを私が細かくイメージすることによって、支援魔法の効果に影響を及ぼすはずだ。
私がイメージする以上の支援効果はつかない。
強い人を見るだけではだめだ。私自身が身のこなしを覚え、それをイメージに繋げる
死にそうになりながらランニングを終える。
息も絶え絶えになり、私はしばらく仰向けに倒れて動けなかった。
初日からこんな様子で大丈夫なのだろうか……。
ランニングが終われば瞑想だ。魔力コントロールを訓練する。
これのやり方は以前アッシュがやっていた訓練と同じだ。両手、両足の印に魔力を集める。
私は三人に魔力探知をかけて魔力の流れを見ながら指示を送る。
レナはやはりメイジだけあって魔力のコントロールが上手い。正確に、そして無駄なく魔力を集めている。
もう少し一度にコントロールする魔力量を上げても大丈夫だろう。
レナにはまだまだ及ばないが、シモンも少しずつ魔力を集め始めている。
そしてアッシュ……。
やはり力が入る過ぎているな……。
実際に力を込めるのではなくイメージなのだ。
私は再びアッシュの手をとり印を指で押す。
「力が入りすぎていますよ。特に剣士の場合は手足への魔力移動は必須課題です。ゆっくりで構いません。血液の流れを感じるようにイメージして」
そして最後にそれぞれの得意技の練習だ。
レナの場合は風魔法。吹き飛ばす、切り裂く、爆発させる。この三種の風魔法を使いこなせるようになってもらう。最終的には現象詠唱の魔法も覚えてみても良いだろう。
次にシモン。シモンにはデッドボトルの他にいくつか薬剤を調合してもらった。
例えば今後遺跡や洞窟の探索に役立つマッピングボトル。
これはガイオンのマーキングにヒントを得た。
その場に魔力が滞留する様になっており、私の魔力探知と合わせて道に迷わないようにようにするためだ。
他にもトリモチ状にまとわりついて相手の自由を奪うスライムボトル、単純に火薬を詰めたフレアボムなど様々だ。
アッシュはずっとどんな必殺技にするのかを悩んでいるようで、腕を汲んで座りながら、難しい顔をしている。
「アッシュ、決まりましたか?」
アッシュは何かを決断したかのように、自身の太ももをピシャリと叩いた。
「よし!!決めたっ!!」
アッシュは自慢げに笑みを浮かべて私に言った。
「大竜回転斬だ!!」
すごい名前だな……。
「そ、それはどのような技なのでしょうか……?」
「いんや、それはまだ考えてねぇよ?」
名前だけかよ!!
え、何!?ずっと悩んでたのは技の名前ってこと?
すごく悩んでたからてっきり詳細まで考えていたのだと思っていたが……。
それにどんな名前をつけようが勝手なのだが、今のアッシュの魔力コントロールでは技として発動もできない状態なのだ。
可哀想ではあるが、一回却下してもっと簡単なやつにしてもらおう……。
こうしてとりあえずアッシュの必殺技は回転斬りに決まったのだった。




