第四十九話 聖女メアリー
アルデリア聖女教会イレジア支部。
あまり気が進まないな。
なんだかあまり歓迎されている気がしないのだ。
アルデリアに入国してからというもの、護衛の件や寄付金を断ったこともあり正直顔を出し辛い状況なのだ。
それでもしっかり言うことは言わないとな……。
ここでの巡礼の打ち合わせもこともあるし……。
「聖女様、教会の中ってどうなってるんですか?」
おや?そうか……。みんなは入ったことがないのか。
ちょうど一人で入るのも心細いと思っていたので、この機会に教会の中を見学させてあげよう。
ギルドでもそうなのだが、まず教会には必ず受付があり許可を得た者しか中に入ることができない。
街民からの寄付金の納入もこの受付で行っている。
「エルビオンのシルヴィアです。アルデリア三路の巡礼に参りました」
このアルデリア三路というのは巡礼のコースである。
王都エルビオンから首都ラキアまでの道程は決まっており、その中継地点である教会に必ず到着した報告をしなければならない。
これは聖女が現在どこにいるのか安否を確認するためであり、たとえ聖女であっても勝手にコースを変えたり、中継地点を飛ばしたりすることはできない。
「はっ!!せ、聖女シルヴィア様……!!」
なんだろう、冒険者ギルドに続きみんな私の顔を見るなり驚くのだが……。
一体何がどうなっているのやら……。
「御無礼を承知で申し上げます。お時間を変えていただけないでしょうか……!?」
受付のお姉さんまるで懇願するかのように小声で私にそう伝える。何かに怯えているのかとても焦っている様子だ。
何か理由があるのだろう。出直すとしよう。
私達が教会を後にしようとすると、後ろから女性に呼びかけられた。
「あなたがシルヴィアさん……?」
振り返るとそこには白い法衣に身を包んだ女性が立っていた。
茶色い長い髪をかき上げ風になびかせる。
頭には王冠を模したような髪飾りが乗っており、幾つもの宝石がギラギラと輝いている。
バッチリとメイクをして、何故か大きくはだけた胸元を押し出しながらこちらに近づいてくる。
受付のお姉さんは目をギュッと瞑り、しまったと言わんばかりの顔をしている。
「はじめまして。シルヴィア=イスタリスと申します」
私はその女性にお辞儀をする。まぁだいたい誰なのかは想像がついているのだが。
「ふーん噂ほどじゃないかなぁ……?」
私の顔をジロジロ見ながら品定めする様にそんな言葉を吐いた。
「まぁでも殿方には好かれそうな顔かも!ねぇ?後ろ盾はどこの貴族?もしかして王族かしら?」
「失礼ですがどちら様でしょうか?」
知ってるけどね。あえて聞くよ。
というよりも初対面の人間が挨拶しているのだからまず名乗れよ。
「あらごめんなさい……!私を知らない人がいるなんて思わなかったからつい……」
少し機嫌を損ねたらしく、私を睨みつけてそんなことを言ってのける。ある程度覚悟はしていたが、まさかここまで露骨に目の敵にされているとは……。
「私はメアリー=ディレッテ。大聖女になる女よ」
自分で言っちゃうそれ?
まぁ興味は無いので大聖女にでもなんでもなっちゃってください……。
「それにしても随分可愛らしい護衛ですこと」
メアリーはアッシュの目線に合わせてかがむ。
そうなってくると必然的にアッシュの目にはソレが入ってくるわけで。
両腕で寄せるように強調し、アッシュを見つめるメアリー。
アッシュの目は完全にメアリーのソレに釘付けになっている。
おーーい。見過ぎだアッシュ。
私とレナを飛ばしてシモンにもくねくねと近づくメアリー。
しかしシモンはロブロットの手記を夢中になって見ている。
「何を読んでいるのかしら?」
シモンから手記を取り上げるメアリー。
「なにこれ魔物……?こんなの何が楽しいわけ?」
「返してください!」
メアリーはもう一度私の方を見て勝ち誇ったかの様に笑みを浮べる。
「でも本当に子供の冒険者なのねぇ……シルヴィアさんも同じくらいの歳の子と一緒のほうが旅も楽しいんじゃないかって、ギルドにお願いしたの。喜んでもらえたかしら?」
なるほど。おかしいとは思っていたが、アルデリアに入ってからの嫌がらせは全部この女の仕業だったのか。
でも、いくら聖女だからといってそんなことが可能なのか?教会はともかくギルドに関しては別の機関なのだ。
ダインの話す感じだと、止められなかったように聞こえたのだが……。アルデリアの出身というのはあるのかもしれないが、現地の教会やギルドにまで影響力があるなんてどれほどの権力者なのだろうか……。
「はい!三人ともとても良くやっていただいてます」
私の困った顔が見たいのだろうが残念。この三人は確かに子供ではあるがメアリーが思っている以上に優秀なのだ。
予想外の返事にまた顔をしかめるメアリー。
「ああ、そうそう!ここイレジアの貴族は私の加護しか受けませんので。せいぜい頑張って寄付金を集めてくださいね」
寄付金を集めるための加護か……。
根本的に間違っているような気がするのだけれど、それが現実なのだろう。これが今の聖女のあり方何かもしれない。
怒りを通り越してなんだか可哀想に思えてくる。
私は私のやるべきことをやろう。
「来たら教えなさいって言ったでしょ?このノロマ!これだから下民は……」
受付のお姉さんに悪態をついて教会を出ていくメアリー。馬車に乗り込むまで通りすがる人間は皆平伏すように頭を下げている。
なんとも品がない。恐らく私と同じ貴族階級の生まれなのだろうが、威光や威厳を示せば示すほど、人は離れていくものだ。
本来貴族というものはは領民を守らねばならない。
平民よりも恵まれているのは、有事の際にその命を懸けなければならないからである。
彼女に民を重んじる心は見られない。下民などという言い方も気に食わなかった。
メアリーと私は完全に価値観が違う。
歩み寄るということは恐らく不可能だろう。
関わらないのというのが一番良いかも知れないな……。
「申し訳ありません。先ほどのあれは私のことを気遣ってくれていたのですね」
私は受付のお姉さんに感謝を伝える。
「とんでも御座いません。この国の人間はあのお方には逆らえないのです……。メアリー様はレイスリー執政官様のご令嬢なのです」
執政官というのは言ってみれば大統領のような存在であり、この国の最高権力者である。メアリーはその娘だということだ。
どおりであんな我が儘を突き通していけるわけだ。
また、メアリーはその立場を利用して元老院にも取り入り、貴族たちを掌握しているらしい。まさにやりたい放題を尽くしているわけだ。
国が違うとここまで立ち振舞が変わってくるものなのか……。
正直アルデリアに生まれなくて良かったと思っている……。
メアリーの登場で中断されてしまったが、私達は教会の見学を続けた。
三人とも大聖堂の中に入るのは初めてで、高い天井や装飾を見て感動している。
「なぁシルヴィア、なんであの聖女像は顔が無いんだ?」
大聖女の上部に掘られた聖女像を指差してアッシュが尋ねる。
「それは大聖女ローザ様です」
奥から現れたのは神官のおじいさんだった。
年齢はすでに八十を越えているように見える。
優しそうなおじいさんはアッシュたちに大聖女ローザ
のことを話してくれた。
恥ずかしい話だが、私も聖女でありながらローザのことをよく知らない。
詳しく聞くのはこれが初めてだ。
大聖女ローザ。彼女が産まれたのはフランディアがまだ二つの王国に別れていた頃の話……。




