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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第一章 フランディア王国編
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第五話 大嫌い


はじめての巡礼が終わり、すっかり聖女ブームも落ち着いてしまった。


私は平民街への立入禁止をラモンドと約束し、あれから約一年の月日が流れた。

旦那と子供は元気しているだろうか。

日々そればかりが気になっていたのだが、旦那を使徒に任命したことにより、たとえ2人の子供がいたとしても、平民街で生活するのには充分すぎるほどの給金を与えている。

今までよりも遥かに楽な暮らしになっているだろう。


そんなある日にこと、エルビオンの聖女教会支部より私に連絡があった。なんでも、平民街の古い教会を立て直したらしく、その竣工に是非私を招きたいとのことだった。


私は内心飛び上がって喜んだ。

これは私の聖女としての仕事だ。ラモンドやマチルダがどうこう口を出せるものではない。

一応報告はするが、ラモンドは今商業ギルドと関税を巡る交渉期間らしく、かなり疲弊している。あっさりOKをもらうことができた。


これでやっと子供たちに会うことができる…………。

2人とも今の私よりもお兄さんお姉さんになる。

きっと辛い思いもたくさんしてきたに違い無い。

初対面になる2人にはおかしく思われるかもしれないが、この手で抱きしめよう。まずはそれだ。

これからの事や言い訳なんて後で考えれば良いんだから…………。


そしていよいよその日がやってきた。

私は仕事を済ませると、子供たちのお土産を胸に抱えて家族の暮らしているであろう家に向かった。


旦那に与えられた家の前には、お世話をお任せした神父さんが待っていてくれた。


「お久しぶりです神父様。」


「おお…………これはこれは聖女様。ご機嫌うるわしゅうございます。」


「カズヒコ様の樣子は如何ですか?無理をなされてないでしょうか…………?」


「え……ええ……それが…………」


私が尋ねると、神父は黙り込んでしまった。

なんだか様子がおかしい………。まるで何かを隠している様子だ………。


「あの………大変申し上げにくいのですが…… 」


神父の話の途中で、家の方から何やら騒ぎ声が聞こえてくる


「がーはっはっはっ!」


「もぉ~カズヒコさんったら〜!」


旦那の笑い声………もう一つは女性の声だ…………。

神父がとても気まずそうな表情でこちらを見る。


……………………嫌な予感がする。


私は神父を置いて玄関のドアを開ける。

その瞬間に鼻から入ってくるひどい匂い…………。

アルコールの匂いと香水が入り混じったような、思わず吐き気がこみ上げてくる……そんな匂いだ。

衣服やゴミが散乱しており、奥の方には積まれた酒瓶が雪崩のように崩れた形跡があった………。


私はあることに気づいた。

子供達の気配が全く無いのだ…………。

私は恐る恐る声がする2階の方に上がってみる。


「あ〜ンもうカズヒコさんダイスキぃ〜〜♪」

「アタシもぉ〜♪」


旦那は2人の女性を膝の上に乗せてたいそうご満悦の表情で笑っていた。


2人の女性はほぼ裸に近い格好をしている…………。

あまりのショックに、私は子供たちにと思って買った衣服の袋を床に落としてしまった。


「あら…………?」


女の一人がこちらに気づく。


「せ、聖女様…………!どうして…………!」


「あ、あははは…………ワタシたちはこのへんで失礼しますぅ〜!!」


そう言って、2人とも服を着る間も無くそそくさと部屋から出ていった。

旦那はというと、悪びれる様子もなく、ソファの中央にドンと腰掛け、コチラを見ながらニヤニヤしている。


「お久しぶりです」


爆発してしまいそうな怒りと、心臓を突き刺されたような悲しみを必死で堪えて私は言った。


「オー聖女サマー!!アイシテイマース!!」


昔からお酒が入ると気持ちが大きくなる人だった。

こちらに抱きついて来ようとしたので、私は真顔のままじっと見つめ返した。

私の気持ちを察したのか、旦那はポリポリ頭をかいてまたソファ腰掛けた。


「言葉は…………話せるようになりましたか?」


「コトバ…………?アー…………コトバね」


旦那は何か思い出したかのように、


「アー……ワタシ!…………シト!エライ!」


と自慢げに言ってみせる。

正直今ここでハルトとサキはどこだ?と日本語で聞けば全て終わることかもしれない。

だが、私はこの何とも言えないやるせない感情を整理出来ずにいた。


そうだ…………。そうだった…………。

私はこの人のことが嫌いだった…………。


信じた私がバカだった…………。

ハルトは?サキは?

一緒じゃなかったのか!?

お前親だろ!!

なんで………………なんで………………!


必死で涙を堪え、肩を震わせる私の姿を見てか旦那の顔から笑顔が消える。


「なんだよ?なんか文句あるのかよガキンチョ。」


小さくボソッっと旦那が日本語で喋り出した。


「聖女だかなんだか知らねーけど、俺はお前ら金持ちのおもちゃじゃねーんだよ……。」


こちらがわからないと思って喋り続ける。

手元にあった酒の瓶を掴むと、グイッと中身を飲み干して乱暴にドン!と置いた。

大きな溜め息のあと、またボソッとつぶやく…………。


「かおり……………………。」


その一言に私はハッとなった。

旦那はうなだれたまま床を見つめていた。


「また来ます…………。言葉……勉強しておいて下さい。」


そう言って背を向けると、私は振り返らずにまっすぐ急いで馬車に乗りこんだ。


涙を見られたくなかった。


悔しかった。辛かった。苦しかった。腹が立った。

そして何より一番許せないのが、

あの時箱を開けてしまった自分自身だった………………。


わかっていたんだ。

旦那を責める資格なんて無いことを。


でも…………。それでも………!

私は今日子供たちに会えると

本気でそう思っていたのだ。


空っぽになった腕を抱えて

私は一人馬車の中で泣いた。



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