第四十八話 冒険者ギルド
教会よりも先に向かう場所。
それは冒険者ギルドだ。
アッシュ達は当然ギルドメンバーなので言わずもがななのだが、正直冒険者ギルドの施設に入るのはこれがはじめてではないだろうか。
なんだろう……。予想していた感じと違う。
もっとなんというかこう……。
酒場みたいなところに荒くれ者達が集まっているようなイメージだったのだが……。
大きな掲示板に依頼がいくつも張り出されているようなこともない……。
綺麗なカウンターに受付のお姉さんが一人だけ座っている。
「あら……も、もしかして聖女様でしょうか……!?」
「は、はい!エルビオンのシルヴィアと申します。実はご相談がありまして……」
受付のお姉さんはあたふたしながら席を立ち上がると深々と頭を下げた。
「この度は大変申し訳ございませんでした!!」
んん……!?どういうことだ……?
「そそそそうだ!!ちょうど今うちの責任者が来ておりますので!!少々お待ち下さい!!」
お姉さんのあまりの慌てぶりに呆気に取られていると、奥のドアがガチャと空いて中に入るようにと案内される。
奥へ通されたのは私だけで、アッシュ達三人は受付で待つようにお姉さんに言われたのだ。
奥の応接部屋には一人の男性が座っている。
焼けた肌に、白髪が混じった深緑の髪。顔にはいくつもの傷跡がある。魔物との戦いの跡だろうか。
凛々しく落ち着いた雰囲気のあるいい男だ……。
生まれ変わる前だったらタイプだったに違い無い。
ただその雰囲気だけで只者ではないことが分かった。
溢れ出るオーラが違うのだ……。
男は立ち上がり私に優しく微笑んだ。
「ようこそおいでくださいました」
その男は私に近寄ると、ドアに手を伸ばしガチャと鍵をかける。
盗賊に誘拐されたときの記憶が蘇り、杖をギュッと握り咄嗟に身構えてしまう。
しかし、男は微笑んだまま私の前に跪いた。
「ご無礼をお許しくださいシルヴィア様」
少し呼吸が乱れてしまった……。
だっていきなり鍵かけるから……。
「ベルガンド冒険者ギルドのマスターを努めておりますダインと申します。お目にかかれて光栄にございます」
冒険者ギルドのマスターだって……!?
じゃあこの人がベルガンド大陸中の冒険者ギルドで一番偉い人ということになる。
なんでそんな偉い人がこの街に……?
「まずこの度の無礼について、私の方から正式に謝罪をさせて頂きたく存じます」
え?え?え?何!?謝罪!?
何の話だ……!?
「教会の指示とはいえ経験のない冒険者を護衛につけるなど……。誠に申し開きも御座いません」
アッシュ達のことか。確かにおかしいとは思ってはいたがそこまでされる事態だとは思っていなかった。
確かに経験はないけれども非常に良い子たちなのだから。
「護衛はすぐ代わりのものを手配いたします故……」
私はダインの言葉に覆いかぶせるようにして断る。
「い、いえ!私としては護衛はあの三人で構いません!むしろギルド側が問題なければあの三人にお願いしたいのですが……ダメでしょうか……?」
予想外の返答に驚きを隠せないダイン。
「いや、しかしそれでは……」
「実はその……そこでというのも悪いのですがご相談がありまして……」
私はテーブルの上にガイオンの毛皮と一つの網籠を置いた。ダインはその毛皮を一目見るなり驚いたような表情を見せる。
「これはダークヒドゥン……!ガイオンですか。これをどこで?」
私は無許可で討伐したことをどう言えば良いか困っていた。その表情を察してか、ダインは私に尋ねる。
「まさか彼らと討伐したというのですか……!?」
「ええ……まあ……」
あまり変な誤解を与えてしまってもいけないので、
ガイオンの討伐に関してはありのままのことをダインに話した。
「なんと……!あのダークヒドゥンを……。本来であれば正式に討伐依頼を受けなければならないのですが、村の事情をお聞きしましたので今回は問題ありません。しかしダークヒドゥン相手によくご無事で……」
「はい……。実は少し危ないところもありましたが三人とも頑張ってくれました。それとこちらを……」
私は網籠の蓋をとってダインに見せる。
「ガイオンの子供……!」
「申し訳ありません。勝手に討伐を引き受けた上に、私はこの子達を放っておくことができませんでした……」
今度は私がダインに対して頭を下げる。
ダインは困ったような顔で私に尋ねた。
「どうなさるおつもりで?」
「もし許されるのであれば、このまま面倒を見て育てたいと考えております。そうなれば自然へ帰ることは難しいでしょう……。覇王竜の翼の冒険者活動の中で、この子達が役に立つ場所も作れないかと……」
ダインは腕を組み少し考えてから、再度私に尋ねる。
「魔物は人間に対して滅多に懐かないのです。大きくなれば他の人間を襲うやも知れません」
やはりそうか……。でもここではいそうですかと引き下がるわけにはいかない。
「私はこのガイオンたちを通じて彼らに教えたいのです。奪うことだけでは無く、『与える』ということを」
命には命をもって応える。
このガイオンの子どもにしてみれば、私達は突然現れて自分達の親の命を奪っていった存在なのである。
そうである以上、私達は彼らの命に責任を持たなければならない。それ同等の幸せを与えるべきだと考えている。
自分達と姿形は違えども、彼らだって生きている。
一方的に奪っていいという考えは非常に危険だ。
アッシュ達にはそうなって欲しくはない。
「お言葉ですが聖女様。冒険者は魔物を殺すことが仕事です。そんな彼らに対して魔物に慈悲をかけろと?それはいささか矛盾しているかと」
ダインの言う通りだ。私はこの矛盾にずっと答えを出せないままでいる。
それでもきっとあるはずだ。このガイオンたちとアッシュ達が共に生きられる未来が……。
「はい。仰る通りです……。ですから彼らと一緒に答えを見つけていきたいのです」
私はダインの目を見つめ揺るぎない決心を見せる。
ダインは目を閉じて溜め息を一つ吐いた。
そしてまたフッと優しい顔へと戻る。
「やはり子供達から聞いていた通り、あなたは普通の聖女様とは違うようだ……」
子供達……?何の話だ……?
「ご気分を悪くされたら申し訳ありませんシルヴィア様。鍵を掛けさせていただいたのには理由があります。この話を他の人間に聞かれるといけませんので……」
まるで私を試していたかのような言い方のダイン。
「シルヴィア様のご活躍はソフィアとレクスからお話を伺っております」
その名前を聞いて私はハッとなった。
「ジルエールは私が作りました。通常の特命団とは異なり、外部に依頼主はおりません。国や身分に左右されないギルド直轄の精鋭部隊。それがジルエールです」
そうだったのか……。
ソフィアやレクスが団長と呼んでいたのはこの人、ダインのことだったのだ。
「ソフィアが嬉しそうに教えてくれましたよ。なんでも武器持ちのローグを倒し、ドラゴンを手懐け、盗賊ギルドの幹部二名までもお縄にかけたと」
私は顔が真っ赤になっていくのがわかる。
全部私の力じゃない……。すごく恥ずかしいのだが。
「そして何より、身分に関係なく会う人間全てに加護を与えていらっしゃるのだとか」
うん。それだけは私が胸を張れる唯一のことだ。
「先ほどの話ですが、魔物はすでに私達の生活に欠かせないものとなっています。有用な魔物はすぐに狩り尽くされ、かといって放っておくと数を増やし脅威となる。魔物と人が共存していくにはいくつもの矛盾と向き合っていかなければなりません。それがたとえ答えの無い問題であろうと」
ダインは私の目を見てニッコリと笑った。
「ジルエールはあなたを全面的に援護致します。立場は違えど、志は私達と同じところにあるものだと感じますので」
そう言ってもらえるとすごく嬉しい。思わず笑みが溢れてしまう。
まるで私もジルエールになれたような、そんな気持ちになるからだ。
今回のガイオンの件は、冒険者ギルドが全面的にバックアップをしてくれることになった。
ただ、赤ん坊とはいえ生きた魔物を街へ入れるのは御法度のため、ガイオン達は街の外れにあるギルドの買取所で預かってもらうこととなった。
護衛の件も引き続き覇王竜の翼に引き受けてもらう。
ただ一点、サキの消息だけは未だに掴めていないということだった。
それだけが唯一の心残りである。
どうか無事でいて欲しい……。
ダインは去り際にこの街の加工所を案内してくれた。ガイオンの毛皮をそこで装備品へと加工してくれるらしい。
教会に挨拶を済ませたら行ってみようと思う。
アルデリアの聖女教会か……。




