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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第二章 アルデリア共和国編
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第四十七話 要塞街イレジア


魔物は命を懸けてこちらに向かってくる。


以前、冒険者のロブロットからその言葉を聞いた時、

私はその言葉の本当の意味を理解出来ていなかったのだと知った。


ガイオンの巣穴には小さな声で鳴く赤ん坊が二頭。

当たり前の話だが、彼ら魔物だって生きている。

私たちはそれを力でねじ伏せ、その恩恵に預かっているだけなのだ。


相手の命には、こちらも命を持って答えなければならない。

自分でシモンに言っておきながら、私はその覚悟がなかった。


必死に身を寄せ合い小さく丸まったガイオンの子供を見て、レナは胸が苦しそうに私を見つめる。


「聖女様……」


言いたいことはわかる。私だって同じ気持ちだ……。

でもダメだなんだ。置いていくしかない……。


私はレナに対して無言で首を横に振った。


ガイオンの遺体を全て持ち帰るのは不可能だ。

日が暮れる前にこの黒いガイオンだけでも持って帰ろう……。

皆で手分けをし、木とツタで簡易的な担架を作り、ガイオンを乗せる。

その間もずっと、レナはガイオンの赤ん坊のことが気になっている様子で、時折そちらを見ては哀しげな表情をしていた。


帰ろうとしたその時、アッシュはガイオンの巣穴から赤ん坊を取り出し、担架に乗せる。


「俺が面倒見るから」


「アッシュ……。いけません……」


私と目は合わせず、黒いガイオンに沿い寄せるように子供を乗せるアッシュ。


「俺は冒険者を辞める。それでいいだろ?」


「ダメよアッシュ!!あなたがいなくなったらこの団はどうするの!?」


レナは堪えきれない感情に涙を流してアッシュを引き止める。


「お前だってわかってんだろ!!」


アッシュの大きな声に私達三人はビクッとなってしまった。


「所詮そんなもんなんだよ俺たちはっ!!シルヴィアがいなかったらみんな死んでたじゃねぇか……。無理なんだよ俺たちには冒険者なんて……。俺たちはジルエールみたいにはなれないっ……!!」


アッシュは悔し涙を拭う。



まただ……。

また空回ってしまった。

私は一体何がしたかったんだ……?



こんなはずではなかった。今回の討伐で彼らに自信をつけてほしかったのに……。

私が強引に手を引っ張ったせいでこのザマだ。


ギルドの許可も得ず無理矢理依頼を引き受け、魔力探知を過信したせいで周囲の警戒を怠り皆を危険に晒した。そしてガイオンの子供を前にして、彼らに何も言い示すこともできない……。


情けない話だ……。


まず彼らがどうこうの前に、私が一番成長しなければいけないのではないのか?

いつまでこんなポンコツでいるつもりなんだ。


このガイオンの子供は私が責任を持ってギルドに報告しよう。お咎めがあるのであればそれは甘んじて受けなければならない。




村に戻った時にはすっかり日は沈んでいた。

村長さんは帰りが遅い私達を気にかけて、農家の皆さんと待っていてくれたのだ。


「こ……!これは!!」


村長さんはガイオンの姿を見るなり飛び上がる程驚き、急いで他の村人を集め出した。

なんでもこの黒いガイオンは突然変異種らしく、数年に一度目撃される『ダークヒドゥン』という珍しい個体なのだそうだ。

通常のガイオンよりも非常に知能が高く、その特殊な毛皮によって姿を消すことができるため、まず見つけることが困難だということ。それに加え仲間と連携した奇襲や陽動を得意とするため、返り討ちにあう冒険者も多いとか。


姿が消える上に魔力探知にも引っかからない。

この魔物の毛皮はかなり有益かもしれない……。



せっかく希少な魔物を討伐したというのに、私達はどこか晴れない気分のままだ。

特にアッシュはすっかり元気がなくなってしまった。


黒いガイオンは毛皮を剥いでもらい、肉は村の食料にすることになった。残酷だけど、奪った命を無駄にはできない……。

ガイオンの子供については正直村長さんでは判断しかねるというこだったので、次の中継点である街の冒険者ギルドで直接聞くことになった。


ガイオンの子供はまだ母乳しか飲めない。

村で手に入れたミルクを与えてはいるが、それが正しいのかもわからない……。


「アッシュ……あなたは強い魔物を倒したんです。自信を持ってください」


「魔法がかかってたからな……俺の力じゃない」


アッシュはずっと下を向いて、何度も溜め息をついていた。レナもシモンも不安げにアッシュを見つめる。

私は座り込むアッシュの正面にしゃがみ、冷えた両頬に手をあてグイッと顔を上げる。


「はじめから強い人間なんていませんよアッシュ」


アッシュは顔を赤くして振り払おうとするが、もう一度をグッと力を入れ目を合わせる。


「将来……。いえ明日かもしれません。自分よりも遥かに強く大きな力が、理不尽にあなたの大切なものを壊してしまいそうになったとき……。アッシュはそれを黙って受け入れるのですか?」


「そんなの知るかよ……」


「私達が倒したガイオンは、本来であれば戦闘を避けて逃げるような魔物です。なぜあの場で私達と戦ったのかわかりますか?」


アッシュは横目でガイオンの子供に目をやる。


「大切なのは力の強さではなく、想いの強さです。たとえ今は非力だとしても、いずれあなたの助けを必要とする者が現れるはずですアッシュ。諦めてはダメ。その剣で誰かを守れるようになるまで、一緒に強くなりましょう」


アッシュはガイオン達を抱えてゆっくりと立ち上がり、馬車へ乗りこんだ。レナとシモンにもお互いに頷きながら、私達は村を後にしたのだった。




アルデリアは六つの地方に別れており、そのうち今回の巡礼で巡る地方は四つ。最初の中継点はこの村から馬車で一日ほど進んだところにある要塞街イレジアという街だ。

その名の通り、要塞として南からの侵攻を食い止めるアルデリアの要所である。

今は争いがなく要塞としての機能はしていないが、高い街壁に囲まれ、更にその街壁が遥か東西に広がるっているらしい。

それはすぐにわかった。村を出てからしばらくして、視界の先に見える丘の上に延々と続く壁。

四角い石をレンガ状に積み上げ、上部には一定間隔に見張り台が設けてある。

これを作る迄にどれだけの人と時間がかかったのだろうか想像もつかない。流石は歴史が深いアルデリア。圧巻だ……。


覇王竜の翼はイレジアで誕生したとのことだった。

彼らはイレジア近隣の村に生まれ、小さな時からずっと一緒に暮らしていたらしい。

村は貧しく、ほとんどの子供は十二歳になると皆イレジアに出て働く。シモンは薬屋に勤めるという撰択もあったらしいのだが、二人と一緒にいたいという理由で冒険者になったらしい。

もとより彼らのような立場の人間は冒険者ぐらいしか仕事の宛がないため、冒険者になったのは必然的なのだろう……。

恒久的な人手不足が続く冒険者ギルド。魔物も待ってはくれないので仕方がないといえばそうなのかもしれないが、剣も魔法も未熟な子どもに魔物の討伐を任せるのはどうなのだろうか……。

せめて誰かに就いて教えを受けられるような環境でもあれば良いのだけれど……。


イレジアの大きな跳ね橋には様々な人が行き交っている。街壁は見上げるほど高く、その厚みも民家が二軒すっぽりと入ってしまいそうなほどである。


数名の門番は私が聖女だということを知ると、敬礼をして快く受け入れてくれた。

街壁をくぐるとそこには賑わいを見せる大通りと、その大通りに軒を連ねる様々な商店。

路上で音楽を演奏するものや、怪しい露天商など様々だ。

とても要塞だとは思えないような活気に満ちあふれている。


本来であれば真っ先に教会支部へと向かうべきところなのだが、その前に寄らなければならないところがある。

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