第四十六話 力を合わせて
私達は荒らされた畑についた足跡を追跡する。
足跡は村外れの森の中へと続いていた。
森の中には落葉が積もっており足跡を判別するのは困難を極める。数メートル先からすでに追えなくなってしまったのだ。
足跡による追跡は不可能か……。
何か魔力の痕跡となるようなものはないだろうか……?わずかでも魔力が残っているなら魔力探知で見つけられるはず……。
「シモン。ロブロットの手記にはガイオンの生態について何か書かれていますか?」
「そうですね……」
シモンはペラペラとページをめくる。
「縄張意識が強く、木や地面に身体を擦り付け匂いを付ける……と書いてあります」
所謂マーキングというやつだろう。
身体を擦り付ける……。
そうだ!!
絵でしか分からないのだが、恐らくガイオンは毛皮に覆われている。
その体を木に擦り付けているなら、木には大量の毛が付着しているはずだ。
魔物の体の一部ならわずかに魔力が残っているはず。
私は魔力探知の範囲を限界まで広げ、周囲の木々に魔力が付着していないか神経を尖らせる。
…………。
魔力探知の外側ギリギリのところに、モヤがかかったように魔力の滞留がある。
見つけた……!
恐らくあれがガイオンのマーキングだろう。
ガイオンのマーキングの周りには再び足跡が残ってい
る。そしてまた足跡を辿り、マーキングの場所を探す。これを繰り返せば奴らの巣を見つける事ができるかもしれない。
迷わないように目印をつけながら、私達は森の奥へと進んでいった。
どれくらい進んだだろうか、時間にして3時間程度。
もう数キロは歩いている……。
これ以上時間がかかるようなら一度引き返さなければ日が暮れてしまう。
この魔力探知を最後にしよう。そう思った瞬間、今までとは違う、ハッキリとした魔力を感じる……。
左手前方、八十メートルくらい……。
私は三人に合図を送り静止させる。
木陰からこっそりと様子を伺うと、ガイオン達は横になって寝ているようだった。
よし……!このまま奇襲をかけて一網打尽にする!!
数は四頭。大きさは大型犬より一回り大きいくらいだろうか……。
灰色の毛皮に包まれたガイオンは私たちに気付いていない……。一箇所に纏まっている今がチャンスだ。
レナに最大出力で風魔法を放ってもらい、支援魔法をかけたアッシュとシモンで叩く。
レナが詠唱を始める。
声を出さず口だけ動かす詠唱方法。本当は声に出したほうが良いのだが、魔物に気づかれてしまっては意味がない。
レナの両手に魔力が集まり、空気が一瞬にして圧縮される。
疾風……!!
「ギャオオオウ!!」
突然の咆哮にレナはビクッと魔法を止める。
あまりにも突然すぎて何が起きたのかわからなかった。前方の四頭とは別に黒い毛皮の個体が飛び出してきたのだ。
私は咄嗟にプロテクションを張った。
レナに牙が届く寸前、黒いガイオンはプロテクションに衝突し大きく弾かれて体制を崩す。
が、すぐに起き上がり他のガイオンのところへ駆け寄った。寝ていると思っていた他の四頭もすでに戦闘態勢に入っている。
なぜだ……!?
魔力探知はずっと展開していた。にもかかわらず黒い方のガイオンは魔力探知に反応しなかったのだ。そんなことがあり得るのか……?
ガイオン達はあっという間に私達の周りを囲み、こちらを睨みつけながら威嚇している。
完全に油断していた……。恐らくガイオンはだいぶ前から私達を察知し、奇襲をかけたのだろう。
私達は背中を合わせ、ガイオンの攻撃に備える。
「レナ!私の側にいる限り安全です。もう一度落ち着いて詠唱を!」
レナは息を呑み精神を集中させる。
「シモン!アレを使いましょう!レナが魔法を放ったらあの黒いガイオンをお願いします!!」
シモンはカバンから瓶を二つ取り出し両手に握り締める。
「アッシュ!私が合図したら黒いガイオンに全力の一撃を!!」
「お、おう!!」
レナは両手を前に突き出し、私は杖をくるっと回転させ正面で構える。
──我は聖女シルヴィアなり。立ち向かいし勇者に
──流れ響き渡るは蒼風の共演、リムよ!ポムよ!
久遠の守護を与えん!──
我が前の暗雲を払え!──
守護魔法!!
嵐輪舞曲!!
「ギャウウウ!!」
ガイオン達の突進をプロテクションで防ぐ。
灰色のガイオンたちはプロテクションに激突し、ガンッ!と鈍い音を立てて弾かれる。
その瞬間、二つの竜巻が私達の周りを回るように発生し、ガイオン達を上空へ巻き上げていく。
そのまま地面に叩きつけられ悲鳴を上げるガイオン。
それをまたもう一つの竜巻が巻き上げ、また地面へと叩きつける。
黒い個体は距離をとり竜巻を逃れ、こちらを撹乱するかのように木々の間を駆け回っている。
「落ち着いてシモン。しっかりと敵を引き付けてからお願いします」
ガイオンは周囲を走り回っていると思いきや、急に方向を変えてこちらに飛びかかってきた。
「うわぁっ!!」
アッシュが咄嗟に出した剣に噛みつくガイオン。
そのまま頭をブンブンと振り、剣を奪おうと暴れ回る。アッシュも腕に力を入れて必死に耐えるが、右に左にと揺さぶられて今にも剣を離してしまいそうだ。
「今です!シモンっ!!」
シモンはもっていた瓶をガイオンめがけて投げつける。瓶はアッシュのもっていた剣に当たり、パリンと割れて中から飛び散る液体がガイオンの目や口に入る。
「キャウゥゥゥゥン」
ガイオンは飛び跳ねるように後ろへ下がり、悶え苦しんでいる。ブルブルと頭を振り、カハッ、カハッと液体を吐き出すように嗚咽を繰り返す。
シモンが投げた瓶に入っていた液体。これはネローという花の根を絞った汁と、香酸椒という樹の実を粉末にしたものを混ぜている。
何を隠そう、これは以前私がハンバーグを作った時に偶然生まれてしまった劇薬である。
この二つが合わさると強烈な分解作用が起こり、粘膜などに触れると一瞬でそれを分解してしまう。嗅覚や視覚の優れた魔物であれば、その効果は凄まじいものだろう。
シモンも『薬学的に生物の体に大変な危害を加える毒薬』だと言っており、消して口に入れるようなことはしてはいけないとお墨付きをもらった。……ごめんなさい。
私達はこれをデッドボトルと名付けた。
──聖女シルヴィアの名において命ずる。我が剣となりて敵を貫け──
筋力上昇魔法!!
「アッシュ!!お願いします!!」
「うおぉぉぉぉ!!」
アッシュは剣を構えてガイオンに突っ込む。
ブンッ!!っと大きく剣を空振る音が聞こえたかと思うと、ガイオンは剣を躱しアッシュに体ごとぶつかった。
アッシュは数メートル弾き飛ばされ、転がりながら木に体を打ちつける。
「ぐはっ……!」
「アッシュ!!」
私はすかさずアッシュにヒーリングをかける。
大丈夫。大したダメージじゃない。
立ち上がり、そのまま横に飛んでガイオン突進を避けるアッシュ。
怒りに任せたガイオンの突進は細い木など簡単にへし折ってしまう。
今のアッシュの身体能力だと通常の支援魔法ではガイオンに追いつけない……。
パワーとクイック、それだけじゃダメだ……。
それを上回り、アッシュ自身が持つ魔力を爆発させるような支援魔法……。
イメージは……。
私の脳裏にレクスの姿が思い浮かんだ。
無駄のない身のこなし……。
光の如く魔物を切り裂く斬撃……。
そして仲間を信じ守り抜く強い心……。
イメージはレクス……!!力を貸して!!
──聖女シルヴィアの名において命ずる。魔を断ち、闇を払い、悪を砕く、我が騎士となりてその剣をかざせ!!──
聖騎士の加護!!
アッシュの体が白く眩い光を放つ。
光は全身を包み、体中を駆け巡っていく。
「グガァァァ!!」
ガイオンはアッシュに向かって再び突進する。
「アッシュ!訓練を思い出してください!!魔力を集めて!!」
アッシュは大きく息を吸い込み、左手を前に突き出し、腰を落とした。
「はぁぁぁぁ!!」
アッシュは剣を握ったままガイオンの突進を体と左手だけでドォン!と受け止め、そのままガイオンの頭を持ってベキッ!と地面へと叩きつける。
「ギャン!!」
アッシュは剣を構え、渾身の力を込めてガイオンに突き立てた。




