第四十四話 魔法への適性
私の杖をグイッと力任せに引っ張るアッシュ。
アッシュが棒を振りかざした瞬間、私はパッっと杖を離した。バランスを崩し後ろへ倒れるアッシュ。
「くっそー!!女のくせにっ!!」
起き上がって更に殴りかかってくるところを一瞬だけプロテクションを張って攻撃を防ぐ。棒はボキッと折れておでこに直撃してしまった。
「痛ってぇぇぇぇ!!」
おでこを押さえ座り込むアッシュ。
私はアッシュの手の上に自分の手を重ね、おでこにヒーリングをかける。
「大丈夫ですか?アッシュ」
手を差し伸べると恥ずかしそうに頬を染めながら下を向いてしまうアッシュ。
レナはスカートの裾を絞りながら泣きそうな顔をしていたので、着替えに私の街服を貸してあげることにした。
私達は服を乾かすついでに反省会をし、今後の戦闘について備える。今回の模擬戦で解った各個人への課題。
まずアッシュ。彼は運動神経もよく力もそれなりにある。ただ動きが非常に単調である。直進して剣を振り回しているだけだ。
「アッシュは攻撃に魔力を使用していますか?」
ポカンとした顔で首を横に振るアッシュ。
だろうなとは思っていたけど、アッシュのような魔法が使えないタイプは魔力を持っていない訳ではなく、それを体外に出すことができないのだ。
その分、自分の身体の強化に魔力を使用する事ができる。クレアがそのいい例である。
ただ、それにも魔力の量や適性があるために一概には言えないのだが、アッシュは今より格段に身体能力を上げる事が出来る。
彼は今後、必殺技の開発と魔力のコントロールを課題とする。
次にレナ。アッシュが攻撃してから魔法を詠唱し、発動するまでかなりの時間がかかった。
サキに憧れているのはわかるが、もう一度魔力の適性を見直した方が良いかもしれない。
それともう一つ……。
「レナ。先ほどの魔法の詠唱をもう一度聞かせてください」
「はい。ええと……深淵にて産声を上げし獄炎よ、我のもとに集いて鋭槍となれ、火炎槍撃です」
「では深淵にて産声を上げし獄炎とはどのような炎なのでしょうか?」
「わかりません……。格好良かったので」
イメージが複雑すぎるんだ。
まるで熟練の魔法使いの詠唱になってしまっている。慣れないうちは現象詠唱は難しい。魔法の発動に慣れるまでは精霊詠唱のイメージに依存した方が良い。
精霊詠唱が魔力を精霊化するイメージに対して、現象詠唱は現象や効果そのものを詠唱するものだ。
魔法を発動してからコントロールの効かない精霊詠唱よりも、より精密に、より応用的に魔法の効果が得られる。
その反面、精霊詠唱よりも具体的なイメージと正確な魔力のコントロールが要求されるのだ。
「それと、今から私が地水火風のどれかを言いますので、無詠唱でなるべく素早く魔法を発動させてください。良いですか……水!」
とういう様に魔力適性を調べる。
詠唱無しで最も威力が大きいものがその人間が得意とする適性になるのだ。適性が無ければ発動もしない。
その結果レナは炎魔法よりも風魔法の適性の方が圧倒的に高いことがわかった。
「風ですか……。炎の方が良いのですが……」
こればっかりはしょうがない。
それに……。
「憧れる気持ちはわかります。それ自体は非常に良いことですから。ですが誰かの真似をしてもレナが上手く行くとは限らないですよ?レナはレナです。あなたはこれから誰もが憧れる風魔法使いになれば良いではないですか。風の精霊にはリムとポムという双子の兄妹がいまして……」
レナの課題は風の精霊詠唱の練習と、アッシュと同じ魔力コントロールを鍛える。
最後は一番の問題。シモン。
何故この子を冒険者に、しかも討伐団に入れたんだ。
戦闘が出来るタイプじゃない。
本を読む以外興味が無いのだ。
「シモン。あなたは本当に冒険者を続けていく覚悟がありますか?」
その言葉で自分がどういう評価をされたのかを悟り、青ざめるシモン。
でも私だって意地悪で言っているのではない。
魔物は命懸けで私達に抵抗してくるのだ。待ったも言い訳も通用しない。
いくら回復できるとはいえこんなに状態で魔物の前に立てばあっという間に死んでしまう。本当に本人にその覚悟があるのか確認しておきたい。
「お願いします!ボクは二人と一緒にやっていきたい……」
涙を堪えながら私に答える。
「魔物は命をかけて私達に向かって来ます。あなたも命を懸けることができますか?」
「できますっ!!」
「わかりました……。ですが今のままではダメです。恐怖に打ち勝つことができなければ、大切な二人を守ることはできません。肝に銘じておいてください」
シモンは涙を拭い頷いた。
「ところでシモンは何の本を読んでいるのですか?」
私はシモンが抱えている本が気になっていた。
「これは薬学……薬草と身体への有害反応が書かれた本です。ボク薬師になりたくて……お金稼がないと……」
あるじゃないか立派な武器が。
剣も魔法も苦手なら、知識で戦えば良い。
ロブロットの手記を熟読してもらい、先導者として魔物のことを研究して貰うようお願いした。
それと将来の研究ついでにポーションや薬剤の調合もやってみても良いかもしれない。
最後に私。
散々偉そうに指摘したのだ。
彼らの努力を必ずモノにして見せる。覇王竜の翼が討伐団として活動して行けるように、この三人をできるところまで育てるというのが一つ。
とはいえ彼らだってすぐには強くはならない。
戦闘に慣れないうちは私が彼らを守らなければならないだろう。
支援魔法の魔力効率を上げるのは引き続き練習するとして、複数の支援魔法を一つにした新たな魔法を生み出せないかと考えている。
全回復魔法で急回復、状態の異常、解呪を同時に発動することに成功している。
きっと支援魔法でも可能なはずだ。
成功すれば重ねがけの隙を大幅に減らせるだろう。
それと、やはり聖女の裁き以外の攻撃手段が欲しい。
プロテクションの発動が有限である異常、守り続けるのは不可能だ。
地水火風の攻撃魔法の適性は皆無なので、何か別の方法でということになるのだけど……。
そんな方法があれば苦労はしない。と自分にツッコミたくなってしまった。
難題ではあるが、彼らの手前私だって努力しなければならないのだ。
よーし!がんばるぞ!
こうして、アルデリアでの旅が幕を開けた。
巡礼をしながら道中特訓をしていく。
当然彼らと一緒に冒険者としての仕事も行うつもりだ。実践も必要だろう。
少し道草をしていたせいで村への到着が夜になってしまった。三人も流石に疲れが出ている。
巡礼は明日にして、とりあえず宿をとることにした。
「聖女シルヴィア様!!よくぞいらっしゃいました!村の皆も今か今かとお待ち申しておりました!」
宿屋の主人は興奮気味に話すと、周りの人間も一斉にこちらに集まってくる。
「子供だけ……?」
「ギルドはどうなってんだ……?」
と小声で囁く声が聞こえてきた。
やはりおかしい。いくら何でも誘拐されたばかりの聖女の護衛に新米冒険者を付けるだろうか……。
人出不足なのは充分承知の上なのだが、何かそれとは違う何かを感じていたのだ……。
しかしまあ彼らとやっていくと決めたばかりだ。
不安はあるけどやるしかないだろう。
レナはベッドに倒れるとすぐに寝てしまった。
私は一人窓辺に座ってリコラを眺める。
ハルトに会い、サキもジルエールで冒険者をやっていることがわかった。
現在リグルト連邦国での任務中に連絡が途絶え、ハルトが救出に向かっているのだが……。
あの時、全て投げ出して私もハルトと一緒に行きたいとも思った。
ただ、やはり私はまだ自分が母親だと伝える勇気がない。彼らに拒絶されるのが怖いんだ。
本当に情けない……。
リコラからふっとサキの声が聞こえるんじゃないか。
そんな事を考えていた。
リコラから手を離し寝ようと振り返った時、
「シルヴィア、起きてるかい?」
リコラからレクスの声が聞こえた。




