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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第二章 アルデリア共和国編
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第四十三話 国境を越えて


アルデリア共和国──。

人口こそフランディア王国には及ばないものの、国としてはベルガンド大陸の中で最も歴史が古い。

ここ共和国でも政治の中心となるのはやはり貴族で、その身分から選出される『執政官』と『元老院』と呼ばれる六名の御意見番が最高権力者となっているようだ。


聖女の加護は今や大陸中どこであっても、上流階級の特権とされている。

回復魔法、すなわち加護を受けることができるのは王族、貴族だけで、平民以下の身分の人間はその対象ではないのだ。


私は幸い魔力量に恵まれ、そのうえ仲間の冒険者から魔力を生成する魂の一部を二人分受け継いでいる。

それと合わせて幼少期から散々回復魔法を使用してきたこともあって、回復魔法に関してはほぼ無限近い魔力効率で使用できる。


私は決めたのだ。

一人でも多くの人間の助けになろうと。


巡礼中立ち寄る村、街の人間全てに回復魔法を使用する。

そこに身分は関係ない。

それが聖女シルヴィアの巡礼にして、至上命題だ。


とまあ格好いい事言ってはみたものの……。

フランディアでそれができていたのは私が貴族の出身だからであって、縁もゆかりも無いこのアルデリアにおいてはそれが通用するのかどうかはわからない。

ここでは冒険者の護衛以外に同行者はつかないのだ。


国境ではフランディアでずっと一緒に旅をしてくれたロブロットと別れ、新たな冒険者たちに護衛をお願いすることになったのだが……。


なんというか……毎度のこと馬車の空気が……。



「すっげぇ!!マジで聖女シルヴィアじゃん!顔ちっさ!!」


様をつけなさい様を。なんてことは言わないが遊びじゃないんだよ?なんでこんなにはしゃいでいるんだ……。


「ちょっと!!失礼でしょアッシュ!!ごめんなさい聖女様……」


申し訳無さそうにこちらを見る女の子。

そしてもう一人、本を読みながら片手で馬車の手綱を握る少年。


彼女の名前はレナ。ピンク色の髪の毛に、覗いた八重歯が可愛いメイジ。馬車の手綱を握っている少年はシモン。メガネをかけ、見るからに大人しそうな男の子だ。役割はわからない。話してくれなかったのだ。

そしてさっきから元気いっぱいで、短髪おデコが特徴のアッシュ。この子は剣士だ。


彼らが国境からアルデリア最初の中継点までの護衛を務めてくれる『覇王竜の翼』という討伐団だ。

名前は随分アレなんだが、彼らはなんと私と同じ十二歳の冒険者だというのだ。

しかも今回が初めての任務らしい……。

だ、大丈夫か……?

一応街道を進むので魔物はそこまで心配していないのだが、また盗賊が襲撃してくる可能性もあるかもしれない……。


私は首からさげた白い魔法石を手にとる。

通信石(リコラ)だ。ソフィアから話を聞いた後、ミュストに立ち寄った際にレクスから受け取った。

私のものが完成していたのだ。


ジルエールはその強力な力故に、他の冒険者では手に負えない魔物討伐が主な仕事である。そのためずっと護衛に付きっきりということは難しいようだ。

私としてもそちらを優先してほしい。以前の武器持ちのローグ等が暴れまわると村一つ簡単に消滅してしまう。

レクスはリコラの届く範囲で魔物の討伐をしているらしい。何かあったら遠慮なく呼べと言われているが、よほどの非常時以外は使うつもりは無い。


嬉しいんだ。これを持っているだけで。

ハルトやレクス、サキを含めジルエールのメンバーになったようで。


思わず笑みがこぼれてしまったところをアッシュに見つかってしまった。


「それってリコラじゃん……!!なんでシルヴィアが持ってんの!?シルヴィアってもしかしてジルエールなの!?」


しまった……。

その言葉にレナも、本を読んでいたシモンさえも目を輝かせている。


「そうなのですか聖女様……?」


「いえ……これは非常時のために持たせられているだけで……」


「私!ジルエールの紅竜、サキみたいになりたいんです!!」


レナのその言葉に否応にも反応してしまう。


「サキ……さんですか……?」


「はい!私達は三年ぐらい前、サキに村を守ってもらって……。それから私も炎の魔法を一生懸命練習しているんです!」


そうだったのか……。三年前といったらサキは、私やこの子達と同じ十二歳ということになる。

そのころにはもうジルエールとして冒険者をやっていたのか……。


若くして冒険者になり、命を落とす者も少なくない

と聞く中、二人には随分と苦労をかけてしまったようだ。

知らない世界で兄弟二人……。

どんな気持ちだったのだろうか。


レナの話を聞く限りでは、サキは炎の魔法を使うのだろう。魔法の適性は本人の人間性が大きく出る。

例えばシャロンのように水魔法の適性が高い人間のイメージは、穏やか、優雅、冷静といったものが挙げられる。

対して炎のイメージは、情熱的、活発といった感じだろうか。

そして炎の最も大きな源動力となる感情は……。


『怒り』だ。


本人の心の奥底にある怒りを燃やし、あるいは爆発させることによって繰り出される炎魔法は、八大魔法最高の攻撃力を誇る。


きっとサキは怒っているのだろう。

自分たち兄妹の境遇を。そしてその原因を……。



「お前がジルエールとか無理だろ」


アッシュはそうレナに言い放つ。レナもアッシュを睨み付け応戦する。


「魔法が使えないアッシュに言われる筋合い無いわよ!」


シモンは我関せずといった感じでまた本を読み出した。


ねぇ三人共、これから一緒にやっていくんだからさ、もうちょっと連携力を高めていったほうが良いと思うんだけども。


待てよ……?連携力か……。


「シモンさん、あそこで馬車を停めていただいてもよろしいでしょうか」


私は少し先の広がった草むらを指さした。

口でどうこういうよりも連携するなら実践が一番。

彼らの戦い方も知りたい。


草むらに降りると、彼ら三人と私に分かれて広がった。


「皆さん、私を魔物だと思って攻撃してみてください」


「そ、そんな!聖女様にそんなことできません!」


「そーだそーだ!ケガするだけだぞ?」


「え……ボクも……?」


私は杖を構える。アッシュの剣だけはそのへんに転がっていた棒きれに変えてもらった。

私の身の安全を思ってということにしてあるが、真剣でやるとプロテクションによって剣が折れてしまう。


「遠慮をしなくても大丈夫ですよ。ケガしても回復できますし、防御の魔法もあるので」


三人は顔を合わせて困惑している。


「さぁどうぞ、魔物は待ってはくれませんよ」


私は三人の上に水の塊を出現させる。

何を隠そう、私はネメシス以外の攻撃魔法がこれしか無い。シャロンに魔力を貰うまではそれさえも出来なかったのだ。


私も火を出したり風を起こしたりすることはできる。ただ本当にそれだけで、攻撃に用いることができない。

それぐらい魔力の適性というのは残酷に現実として叩きつけられることとなる。どれだけ欲しても、できないものはできないのだ。


「うわっ!!」


避け損ねたシモンにバシャっと水がかかる。

アッシュは木の棒を振りかざしこちらに走ってくる。

振り下ろす棒を私は杖で受け止める。

さすが男の子……!かなりの力だ。

でも速くない。普段クレアやレクスの動きに合わせているせいか、この子の動きはしっかりと見切ることができる。剣筋も単調だ。縦切りと横切りを交互に繰り返している。

そして何より……。

私はアッシュの攻撃を捌きながらレナの上に水を落とす。


「ファイヤー……きゃあっ!!」


レナは頭から水を被ってしまい、発動しかけていた炎魔法も鎮火されてしまう。


圧倒的に魔法の発動が遅い……。


「シモンも攻撃してきてください!」


シモンはアッシュの後ろで棒を構えたままうろたえていた。


「や、やああーーーー!!」


目を瞑りながら棒を振り回すシモン。そして勝手に躓いて転んでしまった……。


うーーん。どうしよう……。

私相手に苦戦しているようだと魔物との戦闘は無理だぞ……。


よそ見をしていたらアッシュが私の杖をガシッと掴んだ。


「これで逃げられないよな!覚悟しろ!!」


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