第四十一話 ハンバーグ
私が目覚めたのは、登った日が傾いたときだった。
確か……最後レクスに回復魔法をかけていてそれから……レクスに……。
!!
私は自分の格好を確認する。
嘘でしょ?着替えた記憶は無いのだが何故か下着姿になっている……。
いやいやいやいや待て待て待て!!
息子の前でそれはマズいだろ……!!
どうしよう……。
私は両手を頬に当てる。
頭に血が上っていくのが自分でもわかる。
コンコン
「失礼します」
入ってきたのはなんとソフィアだった。
「あら!シルヴィアさんお目覚めになられましたか?」
なぜソフィアがこの村に……。
「申し訳ありません。失礼を承知でお着替えをさせていただきました」
ですよね。良かった。普通に考えたらわかることですもの。一人で何を勘違いしてるんだ私は。
「二人から話を聞きました……。このような思いをさせてしまい申し訳ありません」
「謝らないでくださいソフィアさん。みんな無事でしたし、二人のおかげで盗賊も捕まえることができました」
「そのことで少しお話がございます」
身支度を済ませて下へ降りると、ハルトとレクスが待っていてくれた。私達は応接室に案内してもらい席に腰掛ける。
「改めて、この度は我々が付いていながら……大変申し訳ありませんでした。これからお話することは極秘事項になりますのでご内密にお願いしたいのです」
その場に少し重たい空気が流れる。
「昨日シルヴィアさんを襲ったのは盗賊ギルドの人間です。先の聖女の誘拐も彼らの犯行ということはご存知だと思います」
シュラグ達の目的……。
「私を大陸の向こうで戦争に参加させると言っていました」
ソフィアは真剣な面持ちで頷いた。
「はい。盗賊ギルドの奥で糸を引いているのはドミネーターと呼ばれる者達です。数年前から活動を始めた犯罪者集団なのですが、そのメンバーはどれも高額の懸賞がかかった指名手配犯です。彼らはギルド、教会、国家に対して強い恨みを持っています」
ドミネーター……。シュラグはその名前を聞いた途端に怯え出した。
「その真意はわかりませんが、彼らはベルガンド全土に争いをもたらそうとしています。今後もまた彼らがシルヴィアさんを狙って来るかもしれません……。」
その会話に入って来るようにハルトが口を開いた。
「ドミネーターの件で現在リグルト連邦国を調査中のメンバーから連絡が途絶えた……。俺はそっちに向かう」
「サキが……?」
レクスから出てきた言葉に耳を疑った。
サキもジルエールなのか!?
頭が状況に追いついていけない。しかも今連絡が途絶えたったって……。
「あいつのことだから大丈夫だとは思うが……」
私も連れて行ってと言いたい。
でも巡礼とは方向が真逆だ。
せっかく会えたのにまたすぐお別れだなんて……。
「それでも、あのシュラグはベルガンドの盗賊ギルドで要となる人物でしたので、しばらくは大人しくなると思うのですが……油断は禁物よ?」
レクスの方を見て戒めるソフィア。
「あれだけお側についてとお願いしたのに」
「僕らは貴族の屋敷に入れないんだから仕方ないだろう?」
確かにレクスの言う通りだ。私がコレットの杖に夢中になってしまっていただけなのに。
宿で泊まれば良かったのだ。
ソフィアはレクスにお説教している。まるで兄弟のようだ。
「あーもうわかったよ。これからは着替えるときも寝る時もいしょだね。シルヴィア?」
ええっ!?あれまぁどうしましょう……。
一応心は人妻なんですが……。
「お前な……」
ハルトはレクスに呆れている様子だった。
「ねぇハルト。ずっと気になってたんだけどさ、キミなんで僕と盗賊の会話の内容知ってたの?」
ハルトはギクッとなって必死に目を泳がせ始めた。
「いや、何のことだ……?」
「だってキミ盗賊に『俺からもお前たちに〜』とか言ってたじゃないか。ハルト、僕が殴られてるの黙って見てただろ?」
え?そうなの?
「いや出ていくタイミングがちょっと……」
「ほんっと!!昔からそうだよなハルトは!!」
「そういうお前こそいろんな村で俺の悪口言ってるだろうが!!」
なんだか男子学生みたいで楽しそうだ。
友達できたんだねハルト……。
「はいはい二人とも座りなさい」
ソフィアが二人の背中をポンと叩く。
「そういえばハルトさんは何故私達の場所がわかったのですか?」
「俺はもともと奴らを追っていました。それにジルエールにはこれがあるので」
そう言ってハルトは首に下げたネックレスを見せてくれた。ネックレスの先には魔法石と思われる白色の石がはまっている。
レクスとソフィアもそれを見せてくれた。
これは通信石といって同じものを持った近くの仲間と連絡が取れるものらしい。距離の制限がある携帯電話みたいだ。
向こうの世界では当たり前に使っていたのだが、こちらの世界では離れている人との連絡手段がほとんど無い。なので非常に便利だ。
「実はシルヴィアさん用にも作っているのですが、これを作れる人間が一人しかいなくて……」
ほんとに!?それは嬉しい……。
なんだか私もジルエールになったみたいだ。
リコラは当然サキも持っているだろう。
連絡が取れなくなる場合として、石の魔力がなくなる、ネックレス自体が壊れる、距離が離れすぎるということが挙げられるらしい……。
何も無いと良いのだけれど。心配だがハルトに任せるしかない。
「では俺はこれで……」
席を立ち部屋を出ようとするハルトをソフィアが後ろから抱きしめた。
えっ!えっ!?ウソ!?予想外の出来事にドキッとしてしまう。
「ソフィア……!?」
「どこに行こうというのです?絶対に逃しませんわよ?」
ん?なんか思ってたのと違うぞ……?
「もう日が暮れます!泊まっていけば良いでしょうっ!!」
「離せソフィア……!」
「いーーーえ!今日という今日は離しません!!もう私は団長にも教会の人間にもあなたとお付き合いしていると宣言していますの!!きっちりと既成事実を作ってもらいますわよ!!」
「なに考えてるんだお前……!!」
ソフィアの頭を鷲掴みにしてグイグイ押しのけるハルト。食らいつくソフィア。
「大丈夫すぐ終わりますから!!誰のために女を磨いているとおもってるんですかっ……!!」
「任務のためだろっ……!!」
「きぃぃぃぃ!!またそんなことをっ……!!いいから私を抱けぇぇぇぇ!!」
なんかとんでもないものを見せられているんだが。
レクスは肩を震わせて笑ってるし……。
ピタっと動きを止め、ハルトの背中におでこをつけるソフィア。
「そんなことを言ってるうちにあなたがいなくなるんじゃないかと……私は怖いのですよ」
「ソフィア……」
「私だっていつまでも若く綺麗ではいられないのですよ?一番綺麗な時に愛して欲しいじゃないですか……」
振り返ってソフィアの方を向くハルト。
「幾つ歳をとってもソフィアはソフィアだろ?」
「……」
二人はそういう感じだったのか……。
若干ソフィアの一方性を感じるのだけれども。
幼馴染とはいえソフィアみたいな美女はいろんな男が放っておかないだろうに。あまり待たせるもんじゃないぞ息子よ。
しかし驚くのはハルトだ。
自分の息子だということを抜きにしても、なんでこんな美青年になってしまったのだ……!?
確かに若い時の旦那の面影はある。それは間違いないのだが……なんというか遺伝子レベルで改造されているような気が……。
レクスの明るく優しい王子様のような雰囲気とは対照的に、少しダークで色気のあるような感じ。少し長めの黒髪が余計にそれを際立たせている。
結局ハルトは宿には泊まらず夕食だけ一緒に食べて村を出ることになった。
そこで私はあることを思い付いたのだ。
そういえばハルトはハンバーグが大好きだった。
随分と昔の話にはなるけれど、今まで何もしてあげられなかった分何かしてあげたい気持ちに駆られていたのだ。
宿の厨房と食材を使わせてもらって聖女特製ハンバーグを作ってみようと思う。
まずはよく手を洗おう!!聖女様との約束だぞ!
ハンバーグは何度も作っていたのでレシピは不要だ。
問題は食材。ひき肉はいいとして玉ねぎというものはこちらの世界あるのかわからない。このすごくよく似た形をしている野菜を代替品として使おう。
卵、パン粉やミルクも問題ない。塩はロブロットも使ってたし、スパイスは匂いを嗅いでみて使えそうなものを選んだ。
まずはこの代替品をみじん切りにして火にかける。色が付いたら火から離して熱をとる。
ひき肉に玉ねぎ、卵、パン粉、ミルク、スパイス、塩胡椒を加えてこねる。空気を抜きながら楕円に形成したら蒸し焼きにする……っと。
ソースは宿で出している料理に使用しているものを使わせてもらった。
よし!!これが聖女特製の……
そぼろ丼だっ!!
あれっ!?あれぇぇぇぇ!?なんで!?
焼いているうちに肉が崩れてしまうのだ……。
まぁでも味はきっと大丈夫。何度も作っていたので自信がある。きっと私を思い出して涙の一つでも流してくれるはずだ。
三人の前に料理が並ぶ。
「変わった料理ですね!どこの国の料理なのですか?」
ソフィアは興味津々だった。聖女でしかも貴族生まれの私が料理をすること自体意外だったのだろう。
大陸の向こうの料理ということにしておこう……。
「それじゃあいただきましょう」
三人はそぼろをさじで掬って口に運ぶ。
私はみんなの表情をじっと見つめる……。
「ん〜〜っとなんというか……非常に個性的なお味ですわ」
「はい……美味しいです」
ソフィアとハルトの顔が明らかに無理をしている。
レクスは別に普通だ。
まさかと思い私も食べてみる。
!!!!
まるでシュラグに殴られた時のように、脳みそが
爆発するかと思った。
まず口に入れた瞬間に襲ってくる圧倒的な渋みとえぐ味。多分毒なんじゃないかとも思う。そして異常に酸っぱい。
えぐ酸っぱい。聖女の耐性を貫通してダメージを与えてくるマズさである。
とても食べれたものじゃない。
「あのぅ……」
宿屋の主人が申し訳無さそうに伝えてくれたのだが、
私が玉ねぎだと思っていたものは野菜ではなく、花壇に植えるための球根だったらしい。
なんでそんなもの厨房に置いとくんだよ!!
それにスパイスの中には極端に酸味の強いものがあったらしく、それがつなぎの成分を分解して肉をそぼろ状にしてしまった原因らしい。
あぁ……。違う意味で涙が流れている。見事におみまいしてしまった……。
あれ?でもレクスはなんとも無いのか……?
レクスは静かに笑みを浮かべたまま微動だにしていない。
「レクス……?おい……?なっ!?レクスが息をしてない!!」
いやぁぁぁぁ!!ごめんなさいぃぃぃぃ!!




