第三十九話 ザマァみろ
レクス……!!
どうしてここに……。
「チッ……!どうやって嗅ぎつけやがった」
武器を抜いた盗賊達がレクスを囲み構える。
「シュラグ。シルヴィアを返せ」
レクスはシュラグのことも知っているようだった。
おそらく盗賊ギルド自体がジルエールに追われているのだろう。これほどの悪事を働いているのだから当たり前だ。
レクスが剣を抜く。白銀に輝く剣。
ヒュン!と一回剣を払って身体の横で構える。
「いいぜ白兎!相手になってやるよ!!」
シュラグは手をかざして仲間達に支援魔法をかける。
パワー、それとクイック。
詠唱はしていないから効果は落ちるがこの人数……。
魔力効率を上げたのが仇になってる……。
「アニキ……!!すげぇぜこれ!!」
拳を握り締め、猛るボア。
「この前の借りを返すぜ白兎……!」
腰から二振りの鉈を抜き、それをガキン!と打ち鳴らす。その瞬間にボアの身体が霧のように消えていった。
隠密魔法……!
それと同時に一斉に飛びかかる盗賊達。
レクスは剣を正面に構える。
「砕け……破軍の刃!!」
断岩剣!!
レクスが地面に剣を突き立てると、周囲の地面から尖った岩が放射状に突き出した。
その岩は飛びかかっていった盗賊達を切り付け、吹き飛ばしていく。
だが、その直後レクスの後ろに突如ボアが姿を現した。
ボアは回転するように鉈を振り回しながらレクスに斬りかかる。
捌き損ねた鉈の刃がレクスの肩をかすめ血が滲む。
「へっへっ……。お楽しみはこれからだ」
そう言ってまた姿を消すボア。
弾き飛ばされていた盗賊達も起き上がり武器を構え始めた。
先程の傷が消えている。回復魔法……!!
「オラオラどうした?そんな攻撃じゃソイツらは起き上がってくるぞ!?あぁん?」
だめだ……。これじゃあレクスが一方的に消耗していく。
飛びかかっていく盗賊を次々に剣で捌いていくレクス。
その隙を狙ってボアが斬りつける。
レクスの身体に一つ、また一つと切り傷が増えていく。
「はーはっはっは!!すげぇ!あのジルエールが手も足も出ねぇとは」
ボアは鉈を振りまして高らかに笑う。
レクスは身体についた傷を構うことなく静かに眼光を尖らせている。
「すごいのはシルヴィアの魔法だ。お前達じゃない。そうやって他人から奪ったものでしか自分を誇示できないんだろ?」
「負け惜しみを吠えやがって……その首跳ね飛ばしてやる!!」
怒りに待たせて打ち鳴らされた鉈の音を合図に盗賊達は少し後ろに下がる。それぞれが何やらブツブツと呟き始めた。これは……詠唱だ。
分身魔法!!
次々と盗賊達の分身が生み出されていく。一気に数を倍に増やした盗賊達は、大群となってレクスに襲い掛かる。
いくらレクスでもあれだけの数を相手は無茶だ!
おまけにボアはバーニッシュで姿が見えない……。
レクスは剣を真横に払って顔の前で構えた。
解錠……白兎!!
レクスが剣を掲げた瞬間に凄まじい衝撃波が走る。
肌を刺すような冷たく白い風が私のところまで吹き抜けた。すごい冷気だ……!!
レクスを取り囲んでいた盗賊達は一瞬で氷漬けにされてしまった。
分身体は姿を消し、ボアもバーニッシュを解かれ真っ白に凍り付いている。
レクスはシュラグを睨み付けると、一歩一歩こちらに歩み寄る。レクスが通った足跡にはパキッ!パキッ!と氷の塊ができていく。
氷晶剣・凍牙!!
剣の周りを激しく冷気が覆い、刀身の上に大きな氷の刃を発生させる。地面がめり込むほどの踏み込みの後、ものすごいスピードでこちらに向かってくるレクス。
しかしなぜだろうか……。シュラグは立ったまま笑みを浮べている。
私はコレットがシュラグに渡した紙のことを思い出した。
シュラグの言っていた大当たりとは……。
まさかこの男の狙いは……!!
「ン゙ン゙ンンンンンーーーーー!!」
出せない声を無理矢理出して首を左右に激しく振る。
だめだレクス!!攻撃してはいけない!!
シュラグの狙いはレクスの剣だ!!
目前に緑色の防護壁が出現し、私とシュラグを包む。
プロテクションは例えマジックアイテムだろうと、その防護壁に触れたものを破壊してしまう性質がある。
シュラグはレクスの剣を破壊するつもりなのだ。
私の異変に気付いたレクスがギリギリで減速し剣速を弱める。まるで金属を切断するノコギリのようなギリギリという甲高い金属音とともに、氷の刃が大きく削りとられてしまう。
剣はなんとか無事だったが、周囲の氷の刃は粉々に崩れ落ち消滅してしまった。
「コイツ……何度も余計なことしやがって!!」
シュラグは私の腹部を膝で蹴り上げる。
「ン゙アッ!!」
みぞおちに食い込み息が出来ない。私はその場に膝を付き屈み込んでしまった。
シュラグは容赦なく私の髪を掴み上げ、身体を起こさせる。
「シュラグッッ!!!」
レクスはプロテクションをガンッ!と思い切り殴りつけた。
レクスの拳弾かれ後ろへのけぞる。
「おや……?随分とこの聖女に熱心じゃねぇか。それじゃあ王子様にいい事教えてやるよ」
そう言ってナイフを取り出して私の顔の前に据える。
「聖女ってえのは不思議でなぁ……ちょっとくらいの傷ならすぐ塞がっちまうんだぜっ!」
そう言ってナイフを横にピッ!と払う。
ナイフは私の頬を切り裂いた。鋭い痛みと共にポタポタと血が滴り落ちる……。
「やめろっ!!」
レクスは何度もプロテクションの壁を殴り付ける。
「だがコイツには今魔力が無い。このまま首を描き切ったらどうなると思う?」
そう言って今度は私の首にナイフを充てるシュラグ。
「武器を捨てろ」
だめだレクス!!挑発に乗ってはいけない!!
この男はバカみたいにプロテクションを展開し続けている。
もうじき私の魔力が切れる……。
そうしたらもうコイツを守るものは無いんだ。
だからレクス!!闘って!!
私はレクスを見つめ首を振る。
シュラグがさらに髪を引っ張り上げるとブチブチと髪が千切れていく音がする。
喉にチクッとした痛みが走り、ツツーっと私の血がナイフを伝う。
レクス……お願いだ……!!
コイツを……シュラグを倒して……!!
カランッ……。
レクスは目の前に剣を放り投げた。
なんでっ……!!!だめだレクス!!
剣をとって!!
「ンンンーーーッ!!!ンンーーーッ!!」
私の叫びはレクスに届かなかった。
レクスの後ろから氷漬けになったはずのボアがぬっと顔を出し、鉈を振り下ろした。
「ぐっ……!!」
鉈はレクスの背中を切り裂き、外套を赤く染める。
「許さねぇ……!!殺してやる……!!」
ボアの身体や顔にはまだ氷の塊が付着しており、凍傷と怒りによって真っ赤になっている。全身から冷気とも湯気とも思われる白い気体を放っていた。
「ンンンーーー!!」
悲鳴は夜の闇の中に消えていく……。
ボアはレクスを斬りつけ、殴り飛ばし、踏みつける。
「おいおい殺すなよ。トドメは俺が刺す」
レクスの服は真っ赤に染まり、その目にかろうじて光があるが、もはや戦えないくらいに負傷している。
やめてくれ……。
もういい……もうたくさんだ……。
こんなことなら生まれ変わることなど望まなかった!!
私に構わないでくれ!!
あなたにはまだ救わなきゃいけない人がいるはずだ!!
仲間と約束したんでしょう!?
なんで私なんかのために命をかける必要があるんだ!!
私にそんな価値は無い!!
子ども捨てたんだぞ!?
私の心なんてもうとっくに折れてる……!!
いなかったんだ……!子ども達はあの村に……!!
これ以上誰かを不幸にするくらいなら……
もういっそここで終わらせてくれっ……!!
お願いだ……終わらせて……。
お願い……。
私の溢れ出る涙を見てシュラグは勝ち誇ったように笑う。
「どうした?なんか言いたいことがあるのか?」
そう言って私の猿ぐつわを外した。
「私は奴隷にでもなんでもなります!!だからあの人は殺さないでください!!お願いします!!」
レクスはドサッとうつ伏せに倒れる。
それでも必死に手を伸ばして私に呼びかけた。
「だめ……だ」
シュラグは私に顔を近づけニタニタと笑っている。
「泣かせるねぇ。俺が見たかったのはこれなんだよ!!お前みたいになんでも持ってる金持ちのガキが人生を転がり落ちていくところ!!ザマァみろ!!最高だ!!」
そう言って私を振り払い地面へ叩きつける。
「最初からお前に選択肢なんかねぇんだよ。王子様がくたばる瞬間をよーくその目に刻んでおくんだな」
私の命乞いも虚しくシュラグはレクスの剣を拾い上げる。
シュラグを挟んでレクスを見ると、私に向けて必死に手を伸ばしている。
「ジルエールを殺れると思うと興奮してきたぜ」
レクスの手を踏みつけ剣を構えるシュラグ。
だめだ……レクスが殺されてしまう。
誰か……誰か助けて!!お願い!!
「じゃあな王子様。死ねぇぇぇぇぇぇ!!!」
振り下ろされる剣。
「レクスーーーーーーッ!!」




