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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第一章 フランディア王国編
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第三十一話 粘液


しーーーーーーーーーーん……。



いやいやいやいや!!待ってよねぇ!!

杖壊れちゃった!!?


上から見ても下から見ても杖に異常は無い。


周りの人間どころかドラゴンまでも私を不思議そうに見ている。


「シルヴィア様!!ネメシスは邪悪な気を持つ者や不死者以外には効果がありませんっ!!」


向こうの方でソフィアが叫んだ。


先に言ってよそれ!!恥ずかしっ!!

視線集めちゃってるんですけど!!

ああああ!!穴があったら入りたいぃぃぃ!!

だから練習のときも発動しなかったのか……。


でもどうする?これじゃ攻撃する手段が……。

そんな考えを巡らせている最中、ロブロットがドラゴンの前に立って大きく両手を振っているのが見えた。


「おーーい!!よすんじゃぁ!!攻撃しちゃいかーーん!!」


確かにドラゴンをよく見るとなんだか様子がおかしい。時折用水池の壁に身体を当て、とても苦しそうにしている……。


ソフィアの言う通りネメシスが発動しないのであれば、このドラゴンはそもそも危害を加えようとしていないのではないか……?


私はロブロットの側まで駆け寄りドラゴンをよく観察してみることにした。


「ドラゴンはとても知能の高い生き物です。理由なく街を襲うなんてことはしません。それにドラゴンは非常に長寿です。こいつはずっと長い間この湖を守ってきたドラゴンなのかもしれませんな……」


確かにレニオンの湖には凶悪な水棲の魔物が存在していない……。

ロブロットが言う事はあながち間違っていないのかも知れない。

私は自分を中心に円を描くイメージで、その円の中にドラゴンを収める。

この前遺跡で使用した魔力探知だ。

ドラゴンの身体の中……ちょうど喉の部分に何か魔力の歪みがある……。何か詰まっているのか?


私はそこの箇所にピンポイントでヒーリングをかける。

少しだけ歪みが上に移動した気がする。

私は両岸の冒険者達にロープを緩めるようお願いすると、ドラゴンは大人しく頭をこちらに近づけてきた。

目と鼻の先にドラゴンの大きな顔がドン!とそびえている。正直怖い。

ゆっくりとドラゴンの鼻先に手を当てると、


プシュゥゥ!!


とまるでくしゃみをするように、鼻の穴からネバネバした液体を飛ばす。

私は全身でそれを浴びてしまった。


おおぅ……。これは大変な御寵愛を賜りまして……。


ここで騒いだりしたらかえってドラゴンが暴れ出すかも知れない。私は必死に微笑みを浮かべて平静を保ちながら、先程の箇所へもう一度ヒーリングをかけた。


ドラゴンの喉から歪みがスポン!と抜けたと思ったら、ドラゴンはべぇっとそれを吐き出した。

私は盛大に『追い粘液』にまみれることになった。


あぁ……もうどうにでもしてくれ……。


カランと転がったそれは一振りの剣だった。

抜き身ではなく鞘に収まったままの剣。

ロブロットはそれを拾い上げると、鞘から少しだけ刀身を出した。

中身はすっかり錆びてしまっている……。

随分と古い物のように見えるが、これが喉に引っ掛かっていた事で苦しんでいたのか。

巡礼による回復魔法に釣られてやってきたのかも知れない。


ドラゴンはとても綺麗な高い声で鳴き、水門の外へと帰っていった。

全身粘液まみれでベトベトになった私に、一人の男がものすごく申し訳なさそうに近づいてくる。


「あのぅ……聖女様……もうはじめてもよろしいでしょうか……?」


「あ……はひ。お願いしまふ……」


教会の上空からドォンと音がなった。

街のみんなはそれを見上げる。


花火だ。

ただの花火ではない。昼間でもその色がはっきりとわかる魔収砂入りの特製花火なのだ。


昼間に花火を観ることなんてもちろん初めてだ。

透き通った青空に色とりどりの花火が弾ける。

燃え尽きる魔収砂がキラキラと輝いて美しい。


なぜ夜ではないのか。

レニオンの夜はもともと美しい。わざわざ花火で彩る必要などないと思った。

それにさっきも言ったが、見てみたいじゃないか。

昼間の花火なんて……。結果的に大成功なわけで。


花火はその間隔を早め、クライマックスとなる。

最後、一際大きい花火がドォーンと咲いた後、パチパチと燃え尽き文字が浮かび出る。


シャロン美容品店近日オープン


決まった……。

達成感と粘液に包まれ、レニオンの巡礼は完了した。



ドラゴンから出てきた剣の正体は結局わからずじまいだった。

マジックアイテムのようではあるらしいのだが、現時点でそれが何かを判別できる方法がないのでギルドに預けることにしたのだ。


巡礼を終えて3日後。

シャロンの代わりとなる冒険者が来るのに少し時間かかるということだったので、私達はもう少しレニオンに滞在することになった。

その間ソフィアから呼び出しがあったので私は教会へ向かう。


今回の巡礼も恐らく寄付金額がとんでもないことになっていそうなのでドキドキしている……。

ソフィアの話だと商業ギルドに前もって応援を頼んでいたらしく、スタンレーの時のように集計がパンクするようなことはなかったらしいのだが。


応接間に通されると、ソフィアの前に一枚の金属板が置いてある。えらく豪華に赤い布の上に置かれた金属板の見た目は金帯そのものだった。


金帯が一枚か。

なんだ。今回は以外と少なかったんだ。

やはり家の中でというのがあまり良くなかったのだろうか……。結構自信があったのだが……。


その金属がキラっと光をはね返したとき、私はあることに気付いた。


金色ではないのだ。

銀色……。そして反射する光がプリズムのように虹色に輝いている。


ソフィアは困ったような笑みを浮かべている。


「こちら……虹帯(こうたい)です……」



!!!!



口から心臓が飛び出るかと思った。

虹帯だって……!!?本当に存在するのか……!!


通貨の価値がわからなかった私は、あれから色々と勉強をしたのだ。

今目の前にあるコレ、見た目は金帯と同じなのだが実は素材が違う。

この虹帯の素材は魔錬銀、またの名をミスリル銀と言う。

見た目が銀色なので銀という名前がついているものの、銀とは全く異なる物質である。

ミスリルは非常に魔力の影響を受けやすい金属で、魔石に並んでマジックアイテムの原料となっている金属だ。

この虹帯を溶かしたものを数滴加えて鋳造するだけで、通常の鉄の武具があっという間にマジックアイテムに変わってしまうというトンデモ素材なのだ。

その分当然希少性が高く、普通の人間が一生のうちに見る機会などない。

基本的に虹帯は王都などの主要拠点から出回ることはなく、有事の際にはそれを使用した武具を作成し戦いに使用する。最大の通貨にして兵器なのだ。


金帯100本分とも言われているが、それは恐らく時価で正直いくらかなんて検討もつかない……。


「今回の寄付金を両替したらこれが返ってきて……」


もう恐怖すら覚える。


「私も見るのは初めてでしたので……シルヴィアさんにもお見せした方が良いかと……。さすがにこれは持ち運びできませんので、こちらで保管させていただきますね」


「お願いします……」


「街ではシルヴィアさんがドラゴンを手懐けたとウワサになっていますよ」


ソフィアは笑いながら言っていたが、ものすごく申し訳ない気持ちになる。

そもそもドラゴンのことに関しては私は何もやってない。

盛大に魔法をスカした挙げ句、全身ベトベトになっただけなのだ。




教会から屋敷に戻ると、新たな同行者が挨拶に来ていた。ダークブラウンのおさげ髪に、縁の太いメガネをかけている。騎士団法衣を着ているので魔法職の人間だろうか。


交代か……。

思い返せばこのレニオンではいろんなことがあった。


クレアは自分の想いに決着をつけライアンを選んだ。

ライアンもまた、ずっと想い続けたクレアと結ばれた。

シャロンは私に魔力を託し、冒険者としての人生に幕を下ろした。


本当に世の中にはいろんな人間がいる……。


どれだけ望んでも手に入れられない者。

また、手に入れたものを失ってしまう者。


そして


自らそれを手放してしまう者……。


私は私の闘いに向き合わなくてはならない。


「フランディア騎士団第二部隊、エストレーン領、コレット。よろしくお願い致します」



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