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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第一章 フランディア王国編
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第三話 聖女からのプレゼント


ガチャ!


「シルヴィア様…………!いかがなさい………………」


メイドが勢いよくドアを開ける。



脱ぎ捨てられたローブ。下着姿の私。

そして…………足元の水溜まり。


部屋入ってきたメイドのお姉さんは、全てを察したかのように優しく私を抱きしめて、


「ご安心ください。誰にも言ったりしませんから」


そう行ってニコっと笑うと、すぐに着替えを用意してくれた。


ごめんなさいお姉さん…………。


夜になっても、私の興奮は収まらなかった。

ベッドに入っても眠ることが出来ず、これからのことを期待してしまう。


今日、平民街で旦那に会った。

ようやく一つ、家族への手がかり手に入れたのだ。


私を苦しめ、締め付けていたものが、少しだけ緩んだ気がした………。


…………………………………………


結局、貴族街の巡礼が終わるまで4ヶ月半かかってしまった。そこから更に1週間の準備期間を経て、今日、ようやく平民街への巡礼に入る。


貴族街での護衛はロイヤルガード2名のみだったが、

今日からは違う……。

その数なんと200人!!ものすごい規模の護衛だ。それに加え、町中を巡回する憲兵の数も増やされているため、それらを含めると更に多い…………。

万に一つもあってはならないということだろう。


平民街は広く、基本的に馬車に乗っての移動になる。

巡礼の方法も異なり、一軒一軒回るようなことはしない。

街をいくつかのブロックに分けて、広場や施設に民衆を集約させ、そこに私が教義を述べるというものだ。

貴族街とは違い、効率を重視される。

回復魔法も使用しない。

なんという格差………………。


まぁでも何万人といる平民街の1人1人に加護を与えていたら、何年かかるか分かったもんじゃない。



ゆっくりと貴族街のゲートが開き、私を乗せた馬車が動き出す……。

それを期に平民街から凄まじい熱気と大歓声が押し寄せて来た。


「聖女様ーーーーー!!」

「シルヴィア様ーーーーーーーー!!」


貴族街南ゲートから平民街の一番近い広場まで真っすぐ伸びた大通り。

その両端を溢れんばかりの人が押し寄せている。

盾を構えた兵士たちが、聖女を一目見ようと近寄る民衆たちをグイグイと必死になって抑えている。


聖女シルヴィアの初巡礼は、それはもう大賑わいの

お祭り状態となっている。

この日のために近隣の街や村々から大勢の人が押し寄せ、巡礼の完了するひと月半の間、昼夜を問わずお祝いを続ける。

自分で言うのもなんだが、聖女シルヴィアはその容姿も相まって、かなりの大人気っぷりだ。

軒先には聖女にあやかったお土産やマジックアイテム……。

加護の宿る聖水などという怪しげなものまで売られている。


もうご理解頂けたと思うが、聖女はお金になるのだ。


平民街、南中央広場。

平民街の中で、最も大きな広場だ。

すり鉢状になった会場に数千人といった人々が集まっている。

私が壇上に上がると、民衆から大きな喝采が上がる。


本当にアイドルの屋外コンサートだ…………。

向こうにいたときには考えられない……。


ゴォーーーーーーーーン

ゴォーーーーーーーーン


大きな鐘の音を合図に、皆目を閉じて手を合わせる。


私は教義を読み上げる。

「始まりの時。生きとし生けるものすべての命に祝福  

を与え賜う。大地はに喜びに溢れ、聖女は久遠の安息と………。 (長いので以下略。)」


教義の内容を簡単に訳すと「聖女はいつもあなたの中にいます。いつも聖女を思い浮かべましょう。そうすれば聖女が加護を与えてくれるでしょう。」


と言う内容だ。


ウソつけ。と私は突っ込みたくなる。


広場に集まった人々は皆、感動に浸り、中には祈りながら涙を流している者までいた。


ダメだ……。

人数が多過ぎる……。


貴族街に時間をかけ過ぎたせいで、60以上あった区画が三分の一以下にまで減らされている。

当然、その分一箇所の人数は多くなり、溢れる者も多くなってくるだろう。


これでは一人一人の顔を認識することは不可能だ………。

私は巡礼会場で家族を見つける作戦は諦め、

用意しておいたもう一つの作戦に望みを託すことにした。


平民街には向こうでいう学校というものがなく、子供たちが一同に集まるような場所がない。


子供だけ集まるような場所があれば我が子を見つけやすいのではと考えた私は、巡礼の間の時間を使って

教会や孤児院を回り、子供たちにお菓子を配るといった作戦を企画していた。

昔、ハルトの子供会イベントを行ったときのことを思い出したのだった。


これは初め、孤児院だけを対象に考えていたのだが、

父のラモンドに相談した時は怪訝な顔をしていた。なんの見返りも無く、何故平民街の孤児に対して施しをしなければならないのか理解できなかったらしい。

ただ、愛する一人娘の願いということもあり渋々飲んでもらったのだが、その後少し状況が変わった。


それは平民街で旦那と出会ったことにより、子供たちはそこで一緒に暮らしている線が濃厚になってきたことだった。

それを受けて本来孤児院だけに行うつもりだったものを、奮発して教会に集まる子供達も加えたのだ。


聖女からのプレゼントという事で、大量のお菓子と飲み物を商業ギルドを通じて買付を行うことになったのだが、ラモンドにとってこれはかなり嬉しい誤算だったらしい。

もともと流通を管理する高官のラモンドは、王国の権威を受けないギルド組合に対して、日々頭を抱えていたのだ。

今回の件はギルドに対して大きな貸しを作れる絶好のチャンスなのである。

かなりの費用になったが、聖女ビジネスによってラモンドが得られる恩恵に比べれば、微々たるものだろう。



午前、午後と1回ずつある巡礼の間に、近くの孤児院と教会に子供をたちを集め、お菓子と飲み物を配った。

プレゼントは大好評だったが、未だに子供たちを見つけることが出来ずにいたのだ。


我が子を見分けるポイントは、実は結構簡単だったりする。

それは髪の毛の色だ。

この世界というか、この国には青や緑といった様々髪色があるのだが、黒い髪は殆どいない。

黒い髪に的を絞って子供たちを探しているのだが、そもそも黒髪の子供自体が見当たらない………………。

なぜ…………。

どうして…………。

掴んだはずの手がかりが全く実を結ぶ気配がなく、

ただただ時間だけが過ぎていく…………。


ここは平民街南西の教会。旦那と再開した場所とはちょうど反対側に位置する。

やはりこんなところにいるはずないだろうと、私は半分諦めかけていた。


私の家族捜索は、また振り出しへと戻ってしまうのか………。


「聖女様!ありがとうございます!」


嬉しそうにお菓子の袋を受け取ると、私に満面の笑みを浮かべる女の子。年齢は私よりも2つ3つ上だろうか。


「あのね、あたしね!大きくなったら教会にお勤めするの!!」


まだ何も知らない、汚れない眼差しで彼女はそう教えてくれた。


「そうですか……。あなたに聖女の加護を……。」


そう言って微笑んだ瞬間、私は彼女の身につけている服に、ワッペンのようなマークが縫い付けてあることに気づいた。普段なら気にも止めないだろう、でも、その時は何かが気になった……。


私はこのマーク、何処かで見たことがある気がする……。


どこだ…………?


ふと、私の脳裏に前の世界での記憶が蘇った。


朝…………、私は慌ただしく子供たちの準備をしていた。朝食を作り、サキを着替えさせ、ハルトを小学校に送り出す……。

玄関先でハルトに忘れものがないかを訪ねる…………。

水筒……ハンカチ…………帽子……………。


そうだ…………!!帽子…………!!

ハルトの帽子!!

あのマークはハルトの帽子に付いていたものだ!


「あのっ!!」


私は慌てて女の子を引き止める。


「どこで…………これを?」


「あーこれ?っへへん!いいでしょー?エントツ屋さんにもらったんだー!」


「エントツ屋…………さん……?」


近くにいたシスターが代わりに説明をしてくれた。

エントツ屋さんとは、ざっくりいうと便利屋さんことだ。子守からの屋根の修理等までいろいろやってくれるようで、教会の煙突掃除で頻繁に見かけることから、エントツ屋さんと呼ばれているらしい。


「その方は今どちらに…………?」


「ちょっと待ってね!!連れて来るっ!」


女の子はそう言って急いで走って行くと、しばらくして1人の男性を連れてきた。


なんという幸運だろうか…………。

子供たちが連れてきた男は、予想通り旦那だったのだ。


「あ、エントツ屋さんだぁー!!」

「エントツ屋さん!!」


旦那はあっという間に子供たちに囲まれていたのだが、なぜ自分がここに連れてこられたのか分からない様子だった。


「聖女様、エントツ屋さん連れてきたよ!」


旦那は私の顔を見た途端に、ビクッ!と驚いた様子で顔を引きつらせていた。


「あの…………はじめまして…………。」


旦那に声をかけてみたのだが、オドオドと落ち着きのない様子だ。

旦那はしばらくして目をギュッと瞑ると、まるで観念したかのように、ポケットから何かを取り出した……。


テーブルの上に置かれたそれは、小さな赤い宝石があしらわれた金の髪留めだった。

そう、これは私が身につけていたものだ。


旦那はいきなり両手を地面に付け、大声で


「ゴ、ゴメンナサァーーーーーーーーイ!!」


と叫んだ。


え?

え……?

ええええええええええええぇぇ?


ナニコレ!?

どういうこと!?


そういえば少し前旦那に会った時、髪をまとめていた布がほどけたことがあったのを思い出したのだ。

この髪留めはその時に落ちたのだろう……。

でもだからといって何で今!?このタイミングで!?


旦那の大声に何事だと言わんばかりに護衛の兵士たちが集まってくる…。


あああ…………マズい!マズい!マズい!

この状況は非常にマズい!!

聖女に対する傷害や窃盗は重罪だ……!

もしラモンドやマチルダにこれを見られたりしたら旦那の命は無いぞ………………!!


護衛の兵士の一人が、テーブル置かれた髪飾りを見つけ、旦那を問い詰める。


「む……!!これは………貴様まさか盗んだのか!?」


旦那は頭を地面にこすり付けながら、再び叫んだ


「ワタシ………………!!…………ヘンタイ!!」


はあぁ!!?


何を言っているんだこの人は……?

ふざけてる場合じゃ……………。


「チガウ…………ゴメナサイ!!…………ワタシ…………ヘンタイ!!…………ビョウキ!!ビョウキ!!」


違う…………。

喋れないんだ…………。


当然ことだが、この世界では独自の言語がある。

日本語が通じないのは当たり前だ…………。

この人はこっちの言葉を喋れ無いんだ……。


「気色の悪いやつめ………………。おい!連れて行け!」


だめだ!このままじゃ…………!!


「お待ちください!!」


旦那の両脇を抱えようとする兵士たちに駆け寄り、必死に引き止める。


「違うのです!!この方は盗みなどしていません!!」


とりあえずこの人の誤解を解かないと…………!


「一体何の騒ぎだね…………?」


ラモンドだ…………。

騒ぎを聞きつけてやってきたのだった。

最悪だ…………。




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