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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第一章 フランディア王国編
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第二十九話 湖上のウエディング


次の日、クレアとライアンは正式に騎士団を退団した。二人とも二日後の式典の準備に追われているらしい。


私は翌週の巡礼に関して打ち合わせを行うべく、再び教会本部を訪れていた。

レニオンは湖上の都市ということもあり、街中を幾つもの水路が通っており、それが交通手段にもなっている。

逆に言うと、街の人を一度に集約できるような広場や施設が少ない。

どのようにして巡礼を行うのかソフィアに知恵を借りたかった。



「そうですねぇ、本部には大きな教会がありますが、そこではだめなのでしょうか?」


「いえ、もちろん教会も利用させていただくのですが、さすがにここに全て集約するのは難しいかと……」


ソフィアは首をかしげている。


「全て集約……ですか……?」


「はい。なるべくならスタンレーの時のように街をいくつかの区画に分けて行いたいのです。ここだけだと、街の反対側に住む病人や御老人は来れないので……」


ソフィアの美しい顔が思い切り引きつっている。


「シルヴィアさん……もしかして街の人間全員に加護を与えるおつもりですか……!?」


「はい。ダメでしょうか?」


ソフィアはガタッ!と立ち上がる。


「いやいやいやいや!!無理ですよそんなこと!!何千人いると思ってるんですか!?」


スタンレーではやったんだけどな。

そんなに驚くようなことなのか?


「いえ、一度に千人位なら……」


「せ、千人!!可能なんですかそんなことが……?」


「可能ですよ。ですから本来一番加護を必要とされる病人の方にも、無理せず参加できるようになるべく区画を分けて行いたいのです」


ソフィアはゆっくり席に付く。


「やはりあなたは私の想像を遥かに超えています……。スタンレーでの異常なまでの寄付金額にはそういう理由があったのですね……」


あまりにも驚いた様子なので私も聞いてみることにした。


「そんなに珍しいことなのですか?」


ソフィアは逆にため息をついて私に教えてくれた。


「昨今では聖女の加護は貴族や上流階級の特権になっています。巡礼で加護を与えるのは貴族だけで、その他の人間に対しては教義を示すだけというのが一般的です。街の人間全員なんて聞いたことがありません」


そういえば最初の巡礼はそうだった。

スタンレーでは時短と特訓のつもりで始めたのだけれども……。

でも私はそれを言う気にはなれなかった。


「それに言い方は悪いのですが、一般階級の人間が医者にかかるお金のことを考えたら、寄付金のほうが遥かに安上がりなのではないでしょうか」


言われてみればそうなのかも知れない……。

お医者さんには悪い気もするけど……。


「ですが……そうなると難しくなってきますね……」


ソフィアは街の地図を睨みながら顎に手を当てる。


「特に街の南側、大水門に近づくにつれて走る水路の数が多くなります。人を集約させるのは難しい気が……」


ソフィアの言う通り、街の南側は城壁との間に大きな用水池があり、そこに向けて無数の水路が走っている。それを縫うようにして建物が並んでいるため、

広場のような場所がない。

向こうの世界のように、ネット配信のようなもので家にいながら加護を受けられたら便利なのに……。


家にいながら……そうか……。


「ソフィアさん……できるかもしれません……」


ソフィアの目がぱちりと開いた……。




二日後……。

クレアとライアンの婚姻式が開かれた。

式場は教会本部の大聖堂。

この世界の結婚式は意外とシンプルだ。

貴族の場合、指輪ではなくて、男性側から女性へ冠をプレゼントする慣わしがある。

これは『僕のプリンセスはキミだけだぜベイベー』といった意味合いがある。

まぁ逆に別れる時はそれを手にはめて殴りつけるとかそうじゃないとか……。

まぁそれは置いといて、別にドレスも白でなくても良いし、誓いの言葉も交わさない。その代わり聖女と教義を読み上げるというものがある。

私は友人の結婚式ということもあり、今回色々口を出させてもらったのだ。

向こうの世界風にだいぶアレンジさせてもらった。


大聖堂のドアが開き、タキシードに似た白い礼服を纏うライアンが入場する。

その後、ハーミッド卿に手を引かれウエディングドレス姿のクレアが入場する……。

もちろんドレスは白にさせてもらった。

本来こちらの世界において、白という色は教会や聖女のイメージカラーなのだが、そんなもの関係ない。

現に会場からはどよめきに近い歓声が巻き起こっている。皆クレアのその姿に見とれているからだ。

ちなみにここに音楽隊を呼んだのも私の指示である。

やはり新郎新婦の入場はこうでないと。


ハーミッド卿からクレアの手をとり、私の前に並ぶ二人。

私と共に三人で教義を読み上げる。


そして誓いの言葉だ。これもこちらには無い文化なのだが、私は二人に誓いあってほしかった。

これから先、もしお互いのことを信じられなくなってしまいそうな日が来たら、今日のことを思い出してほしい……。

なんて自分のことなど完全に棚に上げて、そう願いを込めた。


「ライアン。あなたはクレアを、病めるときも健やかなるときも妻として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」


「誓います」


いい顔だライアン。絶対にクレアを裏切らないであげてくれ。


「クレア。あなたはライアンを、病めるときも健やかなるときも夫として愛し、敬い、慈しむことを誓いますか?」


クレアはライアンの方を見ながら少しだけ目線を落として微笑んだ。


「はい。誓います」


その眼にもう迷いはなかった。

だめだ……こっちが泣きそうになる……。


「新郎ライアンより契冠の授与を」


クレアによく似合う赤い宝石が散りばめられたティアラ調の契冠を、そっとクレアの頭に飾るライアン。


その瞬間、会場からは盛大な拍手と喝采が広がる。


「キレイだ……。クレア」


ライアンを見て頬を赤らめるクレア。


「大事にしてよね……」


そうだ。この世界ではここが式のピークなのだ。


が、しかし


向こうの世界ではここじゃないんだよ。



「では……誓いの口付けを」



ライアンとクレアだけでなく会場全体がざわつきだした。

二人も聞いてないぞと言わんばかりにこっちを見ている。

うん。だって言ってないもん。アドリブだし。


会場の視線が二人に集まる。

よほど斬新なことなのか、会場にいる若い女性などはもう目をキラキラさせて、食い入るように見ている。


私はクレアをみて頷く。クレアは覚悟を決めたようにライアンの方を向いて目を閉じる……。


ライアンはもう緊張し過ぎてロボットのようになっていた。顔を真っ赤にして、右手と右足を同時に出している……。

頑張れライアン!ここが一番の見せ場なのだから。


それでもライアンはクレアのべールを上げると、そっと肩に手をやる。


ゆっくりと近づく二人の唇に会場全員の目が釘付けになった……。





ゴォーーーーーーーーーン

ゴォーーーーーーーーーン


鐘の音の祝福と共に、会場からは先程とは比べ物にならないほどの歓声が上がる。


自分達もこんなふうになれたら……。

そう思う女性がたくさんいてくれたら嬉しい。

今後貴族の結婚式はこれがスタンダードになるかも知れない。


よほど刺激が強かったのか、女性の何人かは卒倒してしまった。

ハーミッド卿の目には涙が、ガーラントなどは身を乗り出して喜んでいる……。


いつまでも鳴り止まぬ拍手の中、二人の結婚式は幕を閉じた……。


街は二人の婚姻を祝ってお祭りのような賑わいを見せている。

湖上の灯りは夜になっても消えることがなく、巡礼が始まる日までずっと続いていたのである。



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