第二十七話 聖女教会本部
聖女教会フランディア本部。
フランディア中の教会を取りまとめる総本山である。
総本山と言っても大陸には同じような存在の本部があと二つ存在する。
私が向かう最終地点のアルデリア共和国ラキア。
もう一つは大陸南部と島々を統べるリグルト連邦国にある魔法都市ノースターレーン。
それぞれの国に存在し、それぞれの支部をまとめているというわけだ。
教会の中であれば護衛はいらない。ロブロット達はギルド組合と宿の手配に。クレアとライアンは先にハーミッド家の屋敷に向かった。
私はこの教会本部においてやらなければならないことがある。
それは……納金である。
あぁ……これでやっとこの大金を手放すことが出来る。
魔石も合わせると日本円にしてほぼ一億円に近い金額を馬車で運んでいるのだ。普通に危ない。
宿に泊まっているときでさえ気が気じゃないのだ。
しかもこれは私のお金じゃないときたら、なおさら扱いに気を使ってしまう。
教会本部は五階立ての大きな建物で、石造りの教会と木造の造りの執務塔が複合しており、教会の上部には大きな聖女像が据えられている。
エルビオンの貴族街にある教会もかなり大きなものだったのだが、さすが本部。その倍以上ある大きさだ……。
私は入口にある大きな受付に行き、金帯と金貨の入った袋をドン!と置いた。はっきり言って重い。いろんな意味で。
受付のお姉さんはとても笑顔が素敵だった。
通常のシスターの服ではなく、襟とボタンのついたブラウスのような事務服を身に着けている。これはこれで素敵だと思う……。
そんなことを思っていると早速お姉さんは計数に入る。
「えーと、まず金帯が一袋……金帯っ!!!?」
二度見した。当然の反応だと思う。
「あわわ……こ、これはこちらではちょっと……!!今上の者を呼んで参りますので!!お名前をお教えいただけますか……!?」
「は、はい……エルビオンのシルヴィアです」
お姉さんはガタッ!と後ろの椅子にぶつかる程驚い
た。
「せ、聖女……シルヴィア様……!!これはとんだご無礼を……!!お許しください!!」
お姉さんは両手と頭を地面につけて必死に謝る。
やめてくれ!!そんなつもりじゃないから!!納金しにきただけですからっ!!
オロオロする私と必死に謝るお姉さんを見て何事かと周りがざわつき始めている。
その時、奥の部屋が開き神官と思われる老人が三人こちらに走ってくる。ほぼ全力疾走に近い。
「ハァ、ハァ、これは聖女シルヴィア様!!おっしゃって頂ければお迎えに上がりましたのに!!」
「お噂はかねてよりお伺いしております。ささ、こちらへ!!」
神官のおじいさん達に連れられて、私は奥へと案内される。
広い廊下の両端に並んだシスターと神父が私に頭を下げている……。
いやいや……。いくら聖女とはいえこれはやりすぎじゃあないか?聖女というかもはや魔王なんだが……。
通された広い部屋には大きな絵が掛けてある。もちろん聖女の絵だ。だが顔のところが削られている……。
──大聖女ローザ──
先の聖女戦争の引き金となった人物。最大の信仰対象にして、最大の過ちの象徴とされている……。
顔の部分が削れているのは教会や聖女に対しての戒めなのだ。二度と悲劇を繰り返さないためにと。
もう一つ、壁の張り紙に表のようなものが書いてある。
そこには私の名前も載っている。
簡単に言うどうやらこれは全聖女の寄付金ランキングの表のようだ。
そんなエンタメ性の高い用途で作られたものでは無いのだろうが、そう言ったほうが分かりやすいだろう。
どれどれ私の寄付金額は……。
あれ?少ない……。数字で12と書いてある。
他の聖女は……どれも皆1,000,000を超えているのに……。
よく見ると私だけ単価の前に何か記号がついている。
『億』
あばばばばばば……!!
12億!!?ウソだろ!!?なんでそんなことになってるんだ!?
私は他の聖女の金額を全て確認する。
他の人で一番高い人……。メアリーという22歳の聖女が、9千6百万……。
桁が違う……。前からおかしいおかしいとは思っていたが、やはり寄付金額が異常だ。
しかも恐らくこの紙には今日持ってきた分は入っていない……。
ぶっちぎりじゃないか……。
だからこんな対応というわけか。
そういえば……。
私はふとこの前村であったもう一人の聖女のことを思い出した。
表を見て名前を探す。
あれ……?
いない……。サラという名前の聖女はいないのだ。
「あの……サラという聖女に聞き覚えはございますか?」
神官達は三人とも首をかしげている。
なるほど……。そういうことか……。
恐らくサラは聖女ではない。ニセモノなのだ。
もうとっくにご存知だろうが、聖女はお金になる。
聖女を語って寄付金を騙し取るといった手口も当然あり得るだろう。きっと護衛がいなかったのもそのせいだ。盗賊が盗賊の心配などするわけがない。
確かによく考えればおかしいところがたくさんあった。
何だか少し寂しい気持ちになる。
「ようこそいらっしゃいました聖女シルヴィア様」
声がする方を振り向いた。
私は目を疑った。
そこにはこの世のものとは思えぬ美貌を持った女性が立っている。
年はまだ20歳にもいってないくらい。
ペールブルーのロングヘア。女性用の神官法衣に身を包んだその姿は、この人が聖女と言われても何ら違和感のない気品の高さだ……。女神。そんな言葉がふさわしいとさえ感じてしまう。
正直自分で言うのもなんだが、私はかなり容姿が良い。客観的に見てもそう思う。
だが上には上がいるのだ……。
この人は次元が違う……。
「お初にお目にかかります。フランディア本部、大神官を務めておりますソフィアと申します」
お辞儀の作法一つとっても、一挙手一投足が輝きを放っている。
「こ、こちらこそ初めまして。シルヴィア=イスタリスと申します」
ソフィアは私をまじまじと見て言った。
「なるほど……。お噂には聞いておりましたがここまでとは……」
「はい……?」
「いえ、失礼をお許しください。あまりにもお美しい方だと思いましたので」
あぁ。ありがとう……。
でもあなたに言われるとイヤミに聞こえてしまいますそれ。
「ソフィア様に比べたら私などは……」
ソフィアは私に微笑みかける。
「大聖女に一番近い聖女、としてその人気は国境を越えてアルデリアにも轟いていますのよ?いつ巡礼に来るのだと教会にも多数問い合わせがあります。その理由がわかりましたわ」
え……?そうなの……?ホントに国境越えてるの?
「私はシルヴィアさまとお話がありますので、外していただいてもよろしいかしら?」
そう言って神官達を部屋から出すと、突然ぷっと吹き出して笑い始めた。何が面白いのかも分からないまま私はポカーンと突っ立っている。
「ごめんなさいね……でもおかしくて」
なんか……雰囲気変わった?
先ほどまでとは打って変わって、急に若い女性らしさがでたような……。
人差指で涙を拭いながらソフィアは答えた。
「シルヴィアさん、あなたレクスに平手打ちを喰らわせたんですって?」
「え……?あっ……!どうしてそれを!?」
「本人から聞いたわ。ホントよくやったわね!アイツお調子者だから丁度良かったわ」
楽しそうに笑うソフィア。
それにレクスのことを知っている。もしかして……。
「改めまして、特命団ジルエール所属、銀羊のソフィアよ」
そう言って襟元を裏返すと、レクスと同じように羊とハープをかたどった装飾がついている。
なんということだ。ソフィアもジルエールのメンバーだというのだ。
「驚いたでしょ?この事はここだけの内緒ね。ジルエールは冒険者ギルドだけではなくて、商業、文化ギルド、あと教会にもメンバーがいる特命団なのよ」
そうだったのか。てっきり冒険者ギルドだけだと思っていたのだが、色々なところにメンバーが入り込んでいるのか……。ますます謎が多い組織だ……。
「シルヴィアさん。あなたに一つ伝えておかなければならないことがあるの」
ソフィアは真剣な面持ちで話出した。




