第二十六話 もう一人の聖女
私たちは遺跡から脱出後、一日かけて村へと戻った。
冒険者の仕事を優先したため、この村ではまだ加護を与えていなかったのだ。
村に入ると、村長さんが手を振りながら私達のところに駆け寄ってきた。
「おお……なんということじゃ、こんな村に聖女様が二人もいらっしゃるなんて……」
二人……?私以外の聖女が来ているのか!?この村に!?
聖女はこの大陸に私を含めて十人しかいない。
巡礼期間中の聖女に絞ると更に少い。
なので教会によって管理され、巡礼のコースも大きな街を中継点として、なるべく被らないようには設定されているらしい。
ただ、どこの聖女がどこの場所を巡礼しているなどということは聖女同士で常に把握しているわけではない。立ち寄る村によってはこういった鉢合わせも起こりえるかも知れない。
私は少しワクワクしていた。
もちろん自分以外の聖女に会うのは初めてなのだから。話をしてみたい。そう考えていた。
村の小さな教会の前に馬車が止まっている。私達の馬車よりも一回り小さい、二人乗りで荷台のないタイプだ。装飾が施されていて、聖女教会の紋章が入っている。
私も神父さんと話をしたかったので、みんなを先に宿へ向かわせ、クレアを連れて教会の中へ入ることにした。
教会の中には白いローブを着た女の子が座っていた。
年齢は私と同じくらいだろうか?
褐色の肌に白色の髪。眉もまつ毛も真っ白で、その肌色に映える。窓から差し込んだ明かりをはね返し、神々しさを感じられる。
少し痩せ過ぎているとも言える細身の体で、入ってきた私達に構うことなく、少しうつむきながらじっと地面を見つめている。
「あの……お隣よろしいでしょうか?」
返事がない……。
私は二人分くらい空けて隣に座る。
「はじめまして。シルヴィア=イスタリスと申します。」
一瞬だけこちらを見てまた地面の方を見つめる。
「すみません、私自分以外の聖女の方とご一緒するの初めてでそれで……」
さり気なく一人分詰めてみたところ、サッと横にズレる。もう一度寄ってみる。同じだけズレる。
うん。避けてるなこれ。
「あの……よろしければお名前なんか教えていただけないでしょうか……?」
またこちらを一瞬見てもとの視線に戻す……。
え?私怖いの!?そんな威圧的に接しているつもりはないのだけど……?
なんかマズいことしたか!?
何か作法を飛ばしたりとか……?いや……
「サラ……」
教えてくれた。サラという名前らしい。
「サラ様とおっしゃるのですね!素敵なお名前……」
私のことなどまるで興味なし。といったところか。
私が興奮しすぎているだけなのかも知れない。
少し冷静になろう。
「どちらに向かわれるのですか?」
聞いているのかいないのか……。
視線はずっと同じところから動く様子がない。
「わからない……ドラッドが決めるから……」
なるほど……聖女の仕事についてあまり興味無いタイプか。なにか事情があるのならこれ以上掘り下げても悪いな。
本当だったら聖女あるあるでも語り合いたかったのだが。向こうがあまり関わりたくないのなら仕方がない。
「なんと……それは」
教会の奥の部屋から話し声が近づいてくる。
一人はこの教会の神父。
そしてもう一人。白い法衣をまとい、胸元に使徒のピンを刺した大柄の男、髪と眉がなく司祭帽を被っている。法衣には至る所に金色の刺繍が入っている。
なんというか、あまり品位を感じない……。
人の服装に口を出すのは余計なお世話だと思うが、主である聖女より煌びやかな法衣とはこれいかに……。
「では、私達はこれで。参りましょうサラ様」
もう帰ってしまうのだろうか。
「良かったらご一緒に加護をお願いできませんか?」
男はサラ方に目をやる。サラは何も言わず、先ほから全く視線を変えていない。
「いえ、我々は他に向かうところがありますので」
「そうですか……でしたら教義だけでも……」
「急いでおりますので。失礼」
「そうですよね……。巡礼は大変ですから。お察しいたします。ではまたの機会に……」
サラは去り際にフッとこちらを見て微笑んだ。
「お前らなんかに……わかってたまるか……」
え……?
私にだけ聞こえるようそう言った。
何が何だか分からないまま二人の背中を見送ると、
馬車を走らせ村を出ていってしまった。
私以外の聖女……。みんなあんな感じなのだろうか。
私もあんなふうに映っていたりして……。
一度宿に戻るとロブロットら三人が話している。
私達を見つけると、興奮気味に声をあげた。
「おお!二人とも!!実はのすごいことがあったんじゃよ!」
そう言って私達を椅子に座らせると、ライアンの手に赤く輝く宝石があることに気付いた。
「昨日魔物を倒した時に転がっていたものなのです」
ゴルフボールよりも一回りくらい小さな宝石なのだが、吸い込まれそうに赤く、そして美しい。
光にかざすと、中心に炎を宿した様な揺らめきが見える……。思わずうっとりと心を奪われてしまう。
あの魔物からはとても想像がつかないような物だった。
「これは魔石ですぞ……」
魔法石と名前は似ているが魔石は全く別の物で、魔物の体内で極々稀に生成される宝石のことを指す。魔法石とは違い、魔石はそれ自体が魔力を生み出している。シャロンの杖に嵌められている青い宝石も魔石だ。
魔石の主な使用用途はマジックアイテムである。
これを研磨して杖に嵌めると、マジックアイテムとしての杖が完成するのだ。
これは赤い魔石なので『赤焰石』と呼ばれている。
魔石は六種存在し、それぞれ赤焰石、翠爽石、蒼海石、金麓石、煌玉石、魔王石とされる。
どの魔石も他の色が混ざらず、透明度が高い物が良いものとされている。
ちなみに魔石自体はどの魔物でも生成する可能性があるのだが、たとえ冒険者であっても、自分で討伐した魔物から魔石が出ることは一生のうちに一回あるかないか程度らしい。
「こいつぁワシの見立てじゃと二本はいくのう……」
二本とは金帯が二本ということだ。
日本円にしたら12,000,000円相当になる!
なんという幸運なのだろうか。
でも待てよ……。こういう場合は誰の物になるんだ?
ライアンが見つけたからライアンのものなのだろうけど、もともと冒険者ギルドの仕事だったわけだし。
「まぁこいつはお前さんが持っとけ」
そう言ってロブロットはライアンに魔石を渡す。
「いえ、私は杖は作りませんし……」
「シルヴィアが倒したのだから、シルヴィアが貰ったら?」
クレアが私に言った。
「そうですね。それが良いと思います」
シャロンも賛同する。
「そんな……私は……」
寄付金と合わせると相当な額を運んでいることになる。盗賊に襲ってくれと言わんばかりだ。
とりあえず魔石は一旦私が預かるといった形にした。
今後魔法職の仲間が増えた時に約に立てようといった話になったのだ。
結局、村の人間は誰一人としてサラの加護を受けてなかった。
到着してすぐ村を後にしたのだろう。
そこまで急ぐような用事があったのだろうか?
そういえば今になって気づいたのだが、あの二人には護衛がついていなかった。
いくら街道しか通らないと言っても、脅威は魔物だけではないだろう。盗賊なども考え無くてはならないのに護衛がいないとは……。
次の場所まで何も無いことを祈るしかない。
その後、私達はもう一つ村を経由し、レニオンに到着した。
湖畔に浮かぶレニオンはとても幻想的で、さすが王国一と言われるだけのことはある。
私は屋敷やギルドに向かう前に、一つ行かないといけないところがある。




