第二十四話 天罰
やはり私を狙ってくるか……。
大きなつららの切っ先が光り、こちらを目掛けてビュン!と放たれる。
「シルヴィア!!」
倒れたまま叫ぶクレア。
守護魔法!!
ドガガガガッ!!
巨大なつららはプロテクションに衝突し粉砕する。
私は弾け飛ぶ氷の破片越しに魔物を睨みつける。
何が起こったのか理解できていない様子の魔物。
「聖女様……今の魔法は……」
シャロンも驚いたようにこちらを見ている。
「何度も使用できません。今のうちにマジックアイテムを見つけなければ……」
プロテクションの原理は使用している私ですらあまり良くわかっていない。
どの魔術書にも載っていなかったからだ。
私しか使えないということは、これは恐らく聖女の魔法……。
本来魔力だけでは干渉できない物理攻撃を防いだり、ローグのマジックアイテムを破壊したりと、通常ではあり得ない効果が働いている。
ただ一つ言えるのは魔力の消費が尋常ではないこと。
他の魔法と違い、プロテクションだけは魔力効率が一切上がらなかった。まるで私の魔力に比例するかのように消費する魔力も上がっていく。
支援魔法のことも考えると、何度も使用することは出来ない。まさに切り札なのだ。
「どおりゃぁ!!」
ロブロットは再び棍を振り上げ足を狙う。
それに気付いた魔物は骨の剣をブンッ!と振り回す。
かろうじてかわすロブロット。
「はあぁぁぁぁーーーー!」
体制を立て直したクレアが跳躍し、魔物の頭部を狙う。魔物が剣になった骨を解除すると、今度は魔物の前に壁となって積み上がっていく。
クレアの剣は積み上がった骨の壁に阻まれ乾いた音を上げる。
その瞬間、壁の中から無数の手が現れ、クレアの足や腕をガッチリと掴んだのだった。
「しまっ……!」
そのまま壁の中に引きずり込まれるクレア。
「クレア!」
ライアンは咄嗟に手を伸ばし、クレアを壁から引きずり出した。
クレアの身体には無数の切り傷、太ももには折れた肋骨が突き刺さっている。
ライアンはクレアに刺さった肋骨を引き抜いた。
「あうっ……!」
溢れ出る鮮血。
私はクレアに駆け寄りヒーリングをかける。
その隙を魔物は見逃さなかった。もう一度骨の剣を生成し私に振り下ろす。
岩石障壁!!
ライアンは私の前に立ち、更にその目の前にストーンウォールを出現させた。
ドゴォォォォン!!
魔物の一撃はストーンウォールを縦に削り取る。
ライアンの盾によって攻撃をなんとか防いだものの、
魔物はすかさず剣を振り上げて追い打ちをかけようとしている。
やはりあの杖。
あの杖がマジックアイテムの可能性が高い。
風……?
どこからかヒヤッと冷たい風が流れ込んでくる。
それと同時にシャロンの詠唱する声が部屋の中に響いた。
「我は命ずる。汝、激龍の顎にてその身を混沌の贄と捧げよう……噛み砕け!!」
解錠……!激龍!!!
風が吹き込んでいたのはシャロンの更に後ろ。滝壺からだった。
ドゴォォォォン!!
入口の扉を突き破って入ってきたのは一匹の龍。
その体は白く輝いている。
白く見えるのは小さな気泡。それが体内の激流によって体中を駆け巡っているからだ。
美しい見た目とは裏腹に、その体に凶暴な魔力を宿している……。恐らく触れただけでひとたまりもない。
シャロンの足下には魔法陣が展開し、杖の宝石が光輝いている。その杖先をピッ!と魔物に向ける。
水龍はガリガリと地面を削り、その体内に破片を取り込んでいく。
大きく口を開けて、ストーンウォールごと魔物の剣を飲み込んだ。
ガイコツ達は水龍の体内で瓦礫とぶつかり、まるでミキサーにかけられたように粉々に粉砕される。
水龍は更に暴れ回って魔物の体に巻き付いた。
魔物の体が音を立てて削れていく。
白く透明だった水龍の体は土や瓦礫を飲み込み、濁流のように茶色く変わり始めていた。
回復が追いついてない……。いける!!
魔物は苦し紛れに水龍の喉元を鷲掴みにする。
ベキッ!ベキッ!と削れていく魔物の体。
「今です!!杖を!!」
ロブロットが棍を大きく振りかぶって、渾身の一撃を魔物の杖目掛けて叩きつける。
ベキッ!!
魔物の杖が真っ二つに折れる。
杖は黒い煙を上げながら消滅していく……。
これでもう回復はできないはずだ。
ここで決める……!!
私はクレアの回復を終え、杖を正面に構える。
聖女の魔法にも一つだけ攻撃できる魔法がある。
私はその存在を知っていた。
ただ、使えなかったのだ。
今まで何度も試してみたものの、一度も発動することはなかった。
天罰
聖女唯一にして最強の攻撃魔法。
そのイメージは『裁き』だ。
「解錠!」
「我は聖女シルヴィアなり。聖光の剣をもって邪なるものへ天の裁きを」
圧縮した魔力を
上から叩きつけるイメージでっ!!
天 罰!!!
ドオォォォォォーーーーーーーーン!!
光の柱が魔物に落ちる。眩い光とものすごい衝撃が辺りに広がり、吹き飛ばしていく。
ロブロットとクレアはライアンの盾にしがみついて、飛ばされないように堪えている。
柱の中で魔物の体が塵になっていく……。
光がおさまると魔物は黒く焼け焦げ、プスプスと音を立てていた。両腕は無くなり、目の炎は消え、下アゴが外れだらんと垂れている……。
やった……。
勝った……。勝ったんだ!!
私は振り返ってシャロンに手を振った。
「ダメッ!!シルヴィア!!避けて!!」
後ろからクレアの声がする。
ドッ!
え……?
脇腹に走る鈍い痛み。その周辺がじわっと暖かくなる感覚。
細く長いつららが私の脇腹を貫いていた。
なんで……?
倒れながら振り返ると、そこには手を伸ばした魔物の姿があった。
なんで……さっき腕は無くなったはずなのに……。
回復している……?
なんで!?マジックアイテムは破壊したのに……!?
目眩がしそうな激痛と、大量の出血が私の判断を鈍らせている。
そうだ……まずは傷の回復だ。
渾身の力を振り絞ってつららを引き抜く。
「うぅ……ああぁ!!」
引き抜いたところから血がドバッと溢れ出した。
傷口を押さえながらヒーリングをかける。
落ち着け!私は聖女だ。これくらいの傷はどうってことない。みんなを守らないと……!
魔物は咆哮すると、今度は先程バラバラになったガイコツ達を身に纏い出した。
巨大な両腕に大きな爪を生やし、背中には翼……。
まるで悪魔の様な姿に変貌した魔物はその大きな腕でロブロットを薙ぎ払った。
壁にめり込む程の威力で叩きつけられるロブロット。
魔物はライアンを睨みつけると叩き潰す様に腕を振り下ろす。
ストーンウォールで防ごうとするが、容易くそれを破壊してしまい、大きく弾き飛ばされるライアンとクレ
ア。
だめだ……このままではみんなが死んでしまう。
まだ回復が終わっていない。
シャロンももう魔力が残っていないだろう。
どうする……?
どうする……?
あのとき私が油断しなければ……。
だめだ、私の回復はあとだ。
まずはみんなを回復しないと。私を中心に円を描
く。入った仲間を認識……。
回復魔法
「シルヴィア……」
ライアン達は立ち上がりもう一度陣形を作る。
魔物はその翼をバサッと羽ばたかせると天井の近くまで一気に飛び上がった。
だらんと垂れたアゴを自分で引きちぎると、口に魔力を溜め始めた。私達をまとめて一掃する気だろう。
限界まで増幅、圧縮された魔力が一気に解き放たれ、光線となって私達を襲う。
守護魔法!!
「ぐっ……くぅ!!」
重い。象にでも踏みつけられている様な感じだ。
バチィィィッ!と光線を弾くが、すでに魔物は第二波の動作に入っている。
このままでは魔力が切れる……。
もう一度ネメシスを当てるしかない。
杖を……。くそ……手が震えて力が入らない……。
そうだイメージは……。イメージ……。
裁く……?誰を……?
そもそも私に誰かを裁く資格などあるのか……?




