第二十三話 古の王
確かに一匹の魔物がこの壁の下の隙間に入っていったのを私は確かに見た。
その壁は他と変わっているところは特に無く、ロブロットがコンコンと叩いてみても、向こう側に空洞がありそうな気配が無い。
こんなときに透視ができる魔法なんて使えたらどれほど便利だろうか。
いや、待てよ……。
私はスタンレーで加護を与えていたときのことを思い出した。あのとき私は支援魔法の魔力効率を上げる練習をしていたのだ。
その時に自分を中心に円を描き、その中にいる人間に対して魔力付与を行っていたのだ。
自分を中心に魔力を展開すると、その円の中にある魔力を認識することができる。巡礼のときは人しかいなかったのだが、魔物でも同じことが言えるはずだ。
それを応用してこの壁の向こうを調べることができるはず。
私は壁に手を当てて意識を集中する。
後ろに感じる4つの魔力はロブロットたち……
前。ちょうど目の前に魔力を帯びた何かがある……。
そう、私の手の先。触れている壁に魔力が流ているのだ。
この壁の向こうはモヤがかかっているような感じでよく認識できない。これは多分……。
「恐らく結界でしょう……」
「結界……ですとな?」
「はい。この場所だけ魔力の流れがあります。シャロンさん、結界の解除はできますか?」
「簡単なものでしたら……」
そう言って壁の前に立つシャロン。
壁に手を当てて詠唱を行う。
「古より守られし者よ、我が呼びかけに応え真の姿を現せ」
封印解放呪文
壁の表面が水面のようにゆらゆらと波立つ。
しかし、壁はもとの状態に戻ってしまった。
「駄目です……流ている魔力が強く、このままでは解除は難しいでしょう。もう少しだけ結界の魔力が弱まってくれれば……」
シャロンは首を横に振って答える。
「いや……それならできるかもしれんぞ。おい皆の衆、この部屋にある魔法石を全部集めてくれ!」
私達はロブロットの言う通り部屋に張り付いている魔法石を根こそぎ集めた。
「よおし、これをこうしてと……」
ロブロットは持っている棍で魔法石を砕き始めた。
数分後、魔法石は細かく砕け、粉末に近い状態にまでなった。
「これは魔収砂と言いましての。マジックアイテムの修理などにも使われております。本来はもっと純度の高いもので作るのですが、これでも充分効果はあるはずです。」
ロブロットはその粉を両手で集めてすくい、結界のかべにブワッと撒いた。
「魔収砂は周囲の魔力を吸収する特性がありましての。これで結界の魔力を吸い取ってくれるはずです」
キラキラと舞い落ちる粉。魔収砂に触れた壁の表面が揺らぎ出した。
「さ、シャロンもう一度やってみるのじゃ」
シャロンは壁に手を触れもう一度アンシーリング試みる。結界が大きく揺れ、まるで上下に引っ張らたシップのようにビヨーンと伸びる。しかし、引っ張ったまま破れる様子が無い。
「くっ……!」
まずい。シャロンの集中力もそろそろ限界だ……。
「とりゃぁぁぁぁ!」
ライアンが大声と共に盾を構えて結界に突っ込んだのだ。
バシューーーン!!
結界は穴の空いた風船のように小さく萎んで消えてしまった。
ライアンはその奥に続いた通路に倒れ込んだ。
「でかしたぞ!!」
「やった……はは。やったぞ!」
ライアンは嬉しそうにクレアを見るが、クレアは表情を変えることなく結界の中に入っていった。
はは……。
ライアンの咄嗟の機転により、私は結界を破ることに成功した。
本来なら、結界を発見した時点でギルドに報告するのだが、入口が塞がってしまっている以上、この先に進んで出口を見つけるしかない。
隠し通路の奥は広く、入り組んでいる。
ロブロットは地図を作成しながら奥へ進む。どれくらい内部をさまよっただろうか、どこからか水が流れる音が聞こえる……。
「滝……?」
上の部分は暗くて見えないが、大きく上に突き抜けた空間に、滝が流ている。音の正体はこの滝のようだ。
どれくらいの高さから落ちているのだろうか……。
滝壺に打ち付ける水の音が、その落差を物語っている。
ライアンは滝壺の水を小さなビンにすくって入れると、左右に細かく振った。
「おお。この水は飲めるようですな、こいつはありがたい」
そう言って両手ですくった水をグビグビと飲んだ。
滝壺をぐるっと回った反対側、その壁面に大きな扉が見える。
ここにくるまでに扉というものはなかった。
恐らくあの扉のむこうにマジックアイテムがあるのだろう。
入口のトラップといい、その後の結界といい、まるで侵入者から何かを守っているようだ。
「あの扉……恐らくあの奥に親玉がおる。今まで見つからんかった遺跡じゃ。マジックアイテムの影響を受けとるかもしれん。無理だと思ったら逃げるぞ」
私達は恐る恐る扉を開ける……。
大きく広い空間。
その奥にあるのは玉座だ。
そこに腰掛けて異様なオーラ放っているもの……。
黒くくすんだ王冠、手には身の丈ほどあろう大きな
杖。
どこかの王族だろうか。ただ一つ言えることは、
もはやこの世のものではないということだ。
その亡骸の目に炎が灯る。口から赤い吐息を吐き出し、ゆっくりと玉座から立ち上がった……。
杖をかざすとその先に幾つものつららが現れる。
「ライアン!練習の成果を発揮するときじゃ!」
ライアンはロブロットと一緒に前に走る。
その後ろにクレアが続く。
魔物は杖を振り下ろすと、数十はあろうと思われる
つららが一斉に襲いかかる。
クレアはライアンの盾に入り、チェンジコンビネーションの姿勢を取る。ロブロットはつららを盾で防ぎ、
野球の打者のように、何か玉のようなものを棍で打って飛ばした。
打ち出された玉は、魔物の近くでドォン!!と爆発する。
衝撃で後ろによろめく魔物。顔の半分を手で押さえながら怒りをあらわにしている。
ロブロットに向けて火球を放とうと杖を振りかざす魔物。
「クレア!!」
ライアンの声に飛び出すクレア。
「駆けろ閃光、音をも超えし疾風の加護を」
俊敏性向魔法!!
雷光のようにジグザグに駆け抜け、ガンッ!と杖を持つ手を貫くクレア。火球は大きく方向を変え壁に当たる。
「清らかなる麗水よ、魔弾と成りて悪を貫け」
水圧弾丸!!
シャロンから打ち出された水弾が魔物の顔面に直撃する。
クレアは魔物の手から剣を引き抜き、ぐっと姿勢を落とす。
三連刺突!!
魔物の懐から顎を狙う三連突き。
そこへロブロットが棍で追撃をかける。
ベキッ!!と鈍い音を立ててロブロットの棍が魔物の足にめり込んだ。
魔物はよろけながら後ろへ下がる……。
だがおかしい……。
あれだけの攻撃を受けておいて、まるでダメージが無い。
いや、ダメージが無いのではない。損傷している箇所が瞬時に修復されているのだ。
マジックアイテムの効果なのだろうか。
もしそうだとすればそれはどこに……?
グオォォォ!!
魔物が咆哮すると、足下から無数のガイコツが現れる。ボロボロの服や鎧を身にまとったそれらは、かつてこの王に仕えていた者たちかもしれない。
「クレア!右と正面!」
「了解!」
練習の甲斐もあってか、コンビネーションを使いこなす二人。その奥で魔物がまた杖を構えている。
先ほどまでとは違う、強い魔力を込めている。
「ライアン!魔法に気をつけてください!!」
咄嗟にクレアの前に出て盾を構えるライアン。
次の瞬間、召喚されたガイコツ達が、まるで杖に吸い込まれるように集められていく。
ガシャガシャと音を立てて集まったガイコツ達は、杖の先で大きな剣を形成した。
魔物は思い切りそれを振り回す。
「聖女シルヴィアの名のもとに命ずる、我が盾となりて魔に抗う力となれ!!」
筋力増強魔法!!
バキィィィィィ!!
支援魔法を受けた状態でも、弾き飛ばされるクレアとライアン。
魔物は燃え盛る眼を私の方に向けて巨大なつららを出現させる……。




