第二十一話 チェンジコンビネーション
結局鍛冶屋では大きな盾と片手用の直剣を購入した。
デザイン性は全く無く、木の板に鉄板を貼り付け、補強してあるだけの長方形型の盾だ。
「どれ、お前さんちょっと試しに実践してみるかの?」
ライアンの脳裏には昨日の出来事がよみがえったのか、一気に顔色が悪くなる。
「じ、実践ってまさか昨日の……」
「いやぁ魔物は使わんよ」
ロブロットの言葉にホッと胸を撫で下ろすライアン。
「今日はワシ等が相手じゃ」
それを聞いて目を丸くするライアン。
村はずれの草むらで私達は二手に分かれた。
ロブロット、シャロンの二人と。それからクレア、ライアン、私の三人だ。
「よいか、ワシらの攻撃を全部防いでみせろ」
クレアはライアンの側に寄り何やら指導をしている。
「ライアン盾を構えて」
「こうか?」
ライアンは大きな盾を身体の前で構える。
「そのままじっとしてて」
そういうとクレアはライアンの後ろ側に周り、自分の背中をライアンの背中に密着させる。
「はうン!!」
ライアンはびくっ!と前に仰け反る。クレアはバランスを崩して尻もちをついてしまった。
「ク……!隊長!!人前でそういうことは……!!」
クレアは真っ赤になって反論する。
「ち、違うわよ!!バカ!!何考えてんの!?」
ロブロットは終始呆れている様子である。
「チェンジコンビネーションじゃバカタレ……」
「よくご存知で……!」
クレアはロブロットに感心している。
確かにロブロットの知識はすごい。魔物のことだけでなく、魔法のことや色々な戦法にまで精通している。
「ワシら冒険者も似たような戦法を使いますからの。のうライアンとやら、お前さんその盾で矢は防げるか?」
「まぁ……それぐらいなら」
「うむ。では昨日の魔物、あれの突進はどうじゃ?」
ライアンはしばらく考えた後答えた。
「難しいと思います……」
「じゃろうて。さっきも言ったがただ立っているだけではいずれ防御が破られる……。そこでお嬢さんと瞬間的に位置を交換することで、お前さんの苦手とする相手に対応する。それがチェンジコンビネーションじゃ」
なるほど。私は前衛職ではないけど言っていることはわかる。
壁がある場合、それを破ろうとするとどうしても威力の高い攻撃を選択することになる。そういった攻撃は、例外はあるとしても基本的に攻撃動作に時間がかかるものが多い。そこに素早いもう一人が奇襲をかけるといった戦法だ。
それに壁役がいてくれるだけで魔法職はかなり助かるのだ。これはライアンの成長に期待しよう。
「さて、では行くぞ」
ロブロットは盾を構えてライアンに突撃する……。
そのまま体重を乗せドン!とライアンに体当たりする。
二人でふんばり、体当たりを止めるライアンたち。
「やった……!止めた……!」
ライアンが喜んだのも束の間、上からバケツをひっくり返したような水がバシャ!っと降り注いだ。
思い切り水を浴び、ずぶ濡れになる二人。
「ごめんなさい。私もいますので」
そう言って笑顔で手を振るシャロン。
ライアンはシャロンの詠唱が見えて無かったのだ。
これは先が長そうだなぁ……。
「どうする?やめるか?」
ロブロットはライアンに確認するがライアンは俄然やる気のようだった。
まぁそれは多分な不純な動機だろう……。
数時間後、草むらを囲うようにしてすっかり人だかりができてしまった。
何かの余興なのではと皆クレア達に声援を送る。
とりあえずライアンとクレアの二人はずぶ濡れなので、一度宿に戻って着替えることになった。
先ほどの特訓のせいで、村はもうお祭りモード待ったなしといったところだ。
ロブロットに至ってはもうすでにジョッキを手に振りかざしている……。まだ昼過ぎなんだが………。
というか終わりが深夜になるので、加護の午後からコースは控えてほしいのだが……。
「これしか着替えが無くて……変じゃないかな?」
着替え終わったクレアを見てびっくり。
そこにはいつもの鎧姿ではなく、すっかりお嬢様の装いになったクレアがいたのだ。
纏めていた髪を降ろし、赤と白を基調としたロングスカートのドレスはシンプルだが気品に溢れている。
少し恥ずかしそうに自分の服を気にするクレア。
なるほど。こぞって男共が競うわけだ……。
これはこれで人だかりができそうなんだけど……。
「まぁ……ステキ!!」
シャロンはクレアの姿を見て両手で口を押さえながら感動をあらわにしている。
ロブロットもライアンもクレアの姿に言葉が出ない様子だ。
村人に加護を与えている最中も、男共は皆関係ないクレアの手を握っていく。
『クレアさんに』といって寄付金を持ってくる輩までいるのだ。
こ、これじゃあ私はおまけじゃないか!!
すごい敗北感……。嬉しいのやら悲しいのやら……。
結局村は深夜まで大いに盛り上がり、またお祭り騒ぎになってしまった。
ロブロットはライアンと肩を組みながらお酒を飲んでおり、シャロンは自分で作ったポーションやオイルの実演販売を始めている……。
仕事を終え、ベッドに倒れる私。いつの間にか眠りに入っていたようだが、何かの物音で目が覚めた。
「や……て……!!」
部屋の外から声が聞こえる……。
この声は恐らくクレアの声だ。
私は恐る恐る部屋のドア越しに外を覗くと、なんとライアンがクレアに襲いかかっていた。
さんざん密着した上に、あの姿を見せられたのだからライアンは我慢の限界だったのかもしれない。
クレアの両手を掴み、壁に押し付けている。
そしてクレアの首もとに顔を埋めるライアン。
「やめてって言ってるでしょ!!」
ライアンの手を振り払い、突き飛ばすクレア。
「なぜだ……こんなにキミのことを愛しているのに」
ライアンは酷く酒に酔っているようで、フラフラと足下がおぼついていない。
「僕たちは夫婦になるんだぞ!!」
「ええそうよ!でも今は違う!!お願いライアン……もう少しだけ待って。約束したじゃない……」
クレアの目から一粒の涙が頬を伝っていく。
そこで二人は私がいることに気付いた。
クレアは走って外へ出てしまった。ライアンはそのまま壁にすがりながら座り込む。
「ライアン。クレアは嫌がっていたように見えましたが」
ライアンは黙ったまま下を向いている。
さすがに見過ごせないから言わせてもらう。
「あなたは貴族としても男としても最低です」
「だったらなんだ。僕だって努力しているんだ。騎士団に入って、必死に振り向いてもらえるように……!」
まただ。
本当にこういうところなのだ。
正直さ、ひたむきさを盾に相手を追い詰め、結局は自分を一番大事にしている。
この男は素直すぎる。他人に対しても、自分の欲望にも。
クレアが今どれだけギリギリのところで自分を保っているのか理解できていないだろう。
だからお前に現実を教えてやる。
「努力ですか……頑張ったから、それに対してご褒美をねだるのというのは御屋敷の中だけにしておいたほうが良いかと」
「なんだと……!!」
立ち上がろうにも足がフラフラしてすぐ転んでしまっている。
「ライアン。世の中には努力や想いに関係無く、絶対に手に入らないものだってあるのです。あなたは間違っています。本当にクレアのことを愛しているなら、まず彼女の気持ちを一番に考えてください」
私はライアンにそう言うと、クレアを探しに外へ出た。
村の灯りはすっかり消え、静けさの中に虫の鳴き声だけが響いていた。
村の入口付近、木の柵にもたれかかって泣いているクレア。
「ごめんなさいクレア。盗み見るつもりはありませんでした」
クレアは涙を拭い、唇を横に結んで必死にこらえている。
「いいえシルヴィア。おかしいでしょ?笑っていいのよ?」
「笑いません……」
「自分で勝手に好きになっておいて……この期に及んでまだ諦められないなんて……」
「団長殿ですか……?」
クレアが想いを馳せ、心を焦がしているのは騎士団長のディランだ。
でもそれは始めから叶わぬ恋だったのだ……。
なぜならディランはすでに奥さんがいる。
そう、クレアの一番上のお姉さんだ。
「小さい頃、私たち三姉妹は一度街道で盗賊に襲われた事があったの……その時、まだ街道警備隊だった団長が私たちを助けてくれた……。馬を飛び降りざまに放った三連撃……。私は幼くして心を奪われた……」
クレアは星を見上げる。
「あの人と話すだけで、手が触れるだけで、あぁ私はこのために生まれたんだって……そう思えたの」




