第十七話 間違えた生き方
「我は聖女シルヴィア……今、邪悪に立ち向かいし者に不壊の守護を与えん……!!」
守護魔法!!
リグナーの前に飛び込んでプロテクションを展開する。
刃の先が光の壁に触れた途端。
バキィィーーーーン!!
ローグの剣が半分に折れ、折れた刃が宙を舞って自分の足を突き刺す。
グゴォォォォ!!
ローグは苦しみ悲鳴を上げる。
氷晶剣!!
まるで舞い降りる雪の様に静かな剣が、ローグを後ろから真っ二つに断ち切った。
左右に別れて崩れ落ちるローグ……。
それを見た他のローグたちは、互いに顔を合わせ散り散りになって逃げていった。
「リグナー!!しっかりして!!」
私はリグナーを抱き起こし、刺された身体に向けて回復魔法を放った。
回復魔法の原理は私の魔力を血液の様に相手に送り、それが相手の身体を循環して私の手元に帰って来るというイメージ。
それによって相手の損傷している箇所や患っている病気の輪郭などがわかるのだ。
巡礼によって何百、何千と繰り返し使用していることによって、詠唱を行わなくても最大限の効果を発揮できるようになった。
リグナーは腹部を大きく損傷している。かろうじて心臓は回避しているものの、既に鼓動は止まってしまいそうに弱くなっている……。
私は損傷箇所に意識を集中する。
…………。
「何で……!?回復魔法が効かない……」
なんで!?なんで!?なんで効かないんだよっ!?
焦り戸惑う私の視界に、折れたローグの剣が目に入った。
マジックアイテム……!
おそらくマジックアイテムの効果がリグナーの回復を妨害しているんだ……!
どうしよう……。呪いや魔法の効果を解除する魔法は使える。でもそれをしている間にリグナーの心臓が止まってしまう……!
「聖女……さま……ゴホッ!!……良いのです……もう」
リグナーは息も絶え絶えに言葉を発する。
「私は……生きかた……を……間違え……まし……た。
ゴホッ!!ゴホッ!!」
最期を悟ったかのようにフッと笑うリグナー。
「だめな……男です……」
私はリグナーの手を握りしめ、話しかける。
「リグナー。大切な人の顔を想い浮かべてください……」
「そんな……もの……」
「いたはずです!!!!」
リグナーは光の消えかけた目でボソッと小さく呟いた。
「はは……うえ……」
私はリグナーを寝かせ、杖を両手で持って握りしめる。
「解錠……」
呪いを解いてから回復していたら間に合わない。
同時にやるんだ……。残りの魔力全部使って……!
杖が解錠され、姿を変える。
二つの魔法の効果を同時に発動なんて前例が無い。
失敗すればどちらも発動さえしない。魔力も空になる。
それでもやるしか無いんだ!!
『ダメだ』などと、簡単に言ってくれるな。
人間が間違うのは当たり前だ。
間違うことが罪だと言うなら、ここに居る誰も
この男のことを責めることなどできないだろう。
確かにこの男は愚かだった。
でも、消して逃げなかった。
背負いきれない重圧を背負い、父親に見放され、唯一の心の拠り所だった母親さえも奪われてなお……。
この男は剣を振っていた。
クレアのことだって、レクスのことだって、
私は許せていない。
でも、リグナーがもう一度立ち上がらないまま終わってしまうことが、私はもっと許せない。
私の足元に白く大きい魔法陣が現れ、光輝きはじめる。
リグナーの身体が少しだけ宙に浮かんだ。
「力尽き倒れる者よ……病み痛み苦しむ者よ
絶望は幸甚へと替わり、苦厄は安息へと帰すだろう……
その純粋なる心で祝福を願うならば
今再び我と共に歩まん!!」
私のありったけを受け取ってくれリグナー。
大丈夫。私だって間違えたさ……。
全 回 復 魔 法!!!!
眩しい光がリグナーを包む……。その光が柱となって空へ高く高く放たれる。
一際大きな輝きを放ち、その光が辺り一面に一瞬にして広がっていったあと、上空からキラキラと星屑のような光が降り注いだ。
リグナーの身体はそっと地面に下りる。
どれくらいの間があっただろうか。周りの皆が息をのむ中、リグナーの目がゆっくりと開く。
「私は……生きて……いるのか……?」
まだ意識が朦朧としていると思うが、しばらくすればそれも回復するだろう。
大量に魔力を使ったせいか、頭がぼーっとする。
音もあまり聞こえない。
喜び集まる兵士達を尻目に、私はすたすたと歩き出していた。
レクスのところまでくるとピタッと足を止める。
次の瞬間……。
パァーン!!
気が付いたら手が出ていた。
私はレクスの頬を思い切り叩いた。
「死んだほうがいいなんて言うな!!」
私は感情の抑えが効かなくなり、目から涙がこぼれていた。
襲い来る疲労感に大きく肩で息をする。
レクスは頬を押さえながら下を向いたままだ。
「今後二度と……私の目の前で仲間を見捨てるような真似は許しません……!肝に命じておきなさい……!」
踵を返し、三歩から四歩歩いたところぐらいだろうか……。突如電源が切れたかのようにプツンと目の前が真っ暗になった。
ずっとずっと昔……。サキがまだ生まれる前。
ハルトが泥だらけになって私に泥団子を見せてくれたことがあった。
私はその時、怒ってしまった。汚いからと……。
あのとき見せたハルトの顔……。
なぜ今になって思い出すのだろうか……。
あぁ私は間違ってばかりだった。
「ごめんね……」
私が目を覚ました時には、すでにアルバの背の上で揺られていた。
レクスの背中にもたれかかるようにして、私は体を固定されているようだ。
今度は間違いなく。レクスの鼓動が聞こえる……。
「目が覚めたかい?」
行きのスピードとは全く異なり、とてもゆっくり蹄の音がパカッパカッと鳴っている。周囲は暗く、涼やかな風と若葉の匂いが鼻をくすぐる……。
とてもあの凶暴なローグと戦った後とは思えない程
穏やかだった。
「どのくらい眠っていましたか……?」
「うーん。6時間くらいかな……」
後ろ側の空が明るくなって来ている。夜明けだろうか……?
「思い出したよ。あの魔法……キミはあのときの女の子だったんだね」
さっきは興奮して叩いたしまったが、今回の戦いはレクスがいなければクレア達を救い出すことはできなかった。本来であればまず先に感謝の言葉を伝えなければならないのに。
毎日を魔物の討伐に費やし、騎士団には恨まれ、挙げ句の果てには聖女様にビンタを食らわせられる仕打ち。
彼はどんな気持ちで戦っているのだろうか。
ちゃんと伝えなければ。
「申し訳ありませんでしたレクス……その……手を上げたりして……」
「構わないよ別に。それに……」
穏やかに微笑んだレクスは、徐々に上がってくる太陽に照らされていく。差し込む金色の光が、真っ暗だった世界に色を付けていく……。
「いくら剣を振っても救えない命を、僕は正当化していただけなんだと思う。シルヴィアに言われて目が覚めたんだ……」
「私達はレクスに救って貰いました。感謝しています」
静かな街道には鳥たちのさえずりが響いていた。
アルバに乗った私達の横をつがいの小鳥たちが飛んでいく。
「あ……ジルエール……」
そう。ジルエールとは小鳥の名前。向こうの世界で言うスズメのように、どこにでもいる普通の小鳥だ。
「レクス……また会えるでしょうか?」
「僕らはどこにでもいるさ。この鳥たちみたいに。
きっと会えるよ」
レクスの言う通り、またきっとどこかで会える気がする。その時はこんなかたちじゃなくて……。
ゆっくり話ができるといいな……。
スタンレーに到着すると、レクスは早々に次の仕事へ行ってしまった。ロブロットとシャロンはあまりの帰還の早さに驚いて、本当に討伐したのかを疑われるくらいだった。
そして今回の騒動は、後世のスタンレーにも語り継がれる出来事となった。王国騎士のリグナーは、聖女と共に魔物と戦った。一度は倒れるも、聖女の奇跡により立ち上がり、魔物を討ち滅ぼしたと。
これで騎士団の名誉が守られたのかはわからないが、
しばらく大人しくしておいて欲しいものだ。
次の日、宿にクレアとリグナーが顔を出してくれた。
リグナーとはここスタンレーでお別れとなる。
リグナーは一歩前に出て敬礼する……。




