第十六話 騎士団の名誉
逃げた……?いや違う……!
「また下から来るぞ!」
リグナーの声に兵士たちは足下を気にしながら後ずさりする。
「シル……ヴィア……?」
クレアは目を覚ましたが、まだあまり回復できていない。今下から奇襲を受けるとマズい。
かといってこのままでは動けない。回復を急がないと!
解錠……回復魔法!!
杖が眩しく輝き、光球が出現する。それと同時にクレアが緑色の光に包まれた。
ぱちっとクレアの目が開く。
クレアはがばっと飛び起き、私を掴んで横に飛んだ。
ドスッ!!
地面からでてきたのはローグの大剣だった。
寸前のところでクレアがかばってくれたおかげで回避することが出来たが、当たっていたら一巻の終わりだった。
突き出した剣はズズズ……と地面の中に戻っていく。
ロブロットが言っていた。武器を持った魔物は通常の個体とは異なる能力を持っている場合があると……。
恐らくこれはこのローグだけが持つ能力だろう。
これではこちらから攻撃することができない……。
しかも脅威は剣だけではない、周りのローグ達も攻撃する隙を狙っているのだ。
このままでは串刺しなるのは時間の問題だろう。
何か方法は……?
ローグは液体化して地面を移動している。
攻撃の時、どこかで実体化する瞬間があるはず。
そこを攻撃すれば……?
でもそれがわかったところで地中にいる相手にどうやっ……!!
ドスッ!!
突き出した剣が、私のスカート状になった法衣を切り裂き、頬をかすめる。
今一瞬、狙いが外れた気がする……。
もしかしてローグは地中にいるとき私達のことが見えていないのではないか……。じゃあどうやって私達を狙っているんだ……?
そういえば……。
クレアを掴み上げたとき、アイツは匂いを嗅いでいた……!
そうか……!匂いで私達を感知しているのか……!!
だから私とクレアは見つけやすいんだ!!
「リグナー!無詠唱で構いません!風を起こしてください!!」
リグナーは咄嗟に手を前にかざす。
ヒュウゥゥゥゥと小さな旋風が巻き起こる。
私は道具入れから1本の小瓶を取り出して瓦礫に叩きつけた。
「これは……!」
クレアが匂いに反応する。
そう。これはシャロンに教えて貰ったアロマオイルの瓶だ。
リグナーが起こした風に乗って、辺り一帯に香りが広がっていく。
ドスッ!ドスッ!と手当たり次第に剣を突き出すローグ。やはり完全に私達を見失っている。
痺れを切らしたのか、ボコッ!と地中から飛び出すローグ。匂いを払うためか、首を左右にブンブン振って鼻息を吹き出した。真っ赤な目をギロリとこちらに向けて、怒りをあらわにしている。
「すごいなシルヴィア。冒険者みたいだ」
レクスはローグに目をやったまま私に言った。
ロブロットは以前魔物に塩をかけて倒した。剣や魔法以外にも、魔物に対抗できる手段がある。
レクスはローグに斬りかかっていく。ローグは側にいた自分の仲間を鷲掴みにしてレクスに投げつけた。
レクスは避けることなく一匹、二匹と投げられるローグを斬り捨てる。
レクスとの間合いが詰まり、繰り出した斬撃がローグの肩を切り裂いた。
グギョォォォォ!!
汚い悲鳴が響く。
私はここぞとばかりにもう一度支援魔法を重ね掛けした。
加護を受けた前衛の兵士達が、レクスに続いてローグに突撃していく。
それを見たローグは身体を起こして、持っている剣を思い切り地面に叩きつけた。
ギィィィィィン!
耳をつんざく様な嫌な音が響き渡る。
衝撃波のように広がったそれは、兵士達の身体を突き抜ける……。
その瞬間、兵士たちを纏っていた輝きが無くなった。
「ダメだ!避けろ!!」
レクスの叫びが届く前に、ローグは身体をぐるっと一回転させると、その剣を大きく真横に振り抜いた。
数人の兵士達がその直撃を受けて真っ二つにされてしまった……。
「嫌……!!そんな……!!」
傷は時間があれば回復魔法で治すことが出来る。
だが、死んでしまうと意味が無いのだ。
私のせいだ……。
剣を地面に叩きつけたとき、私のかけた支援魔法の効果が全て掻き消された。
おそらくあれはあの剣、マジックアイテムの効果に違い無い。
このローグには支援魔法が通用しない……。
「こいつは僕に任せて。みんなは周りの奴らを……」
レクスはそう言って再び剣を構える。
ローグは先程の一撃が応えているのか、怒り狂ったかのように剣を振り回しはじめた。
レクスはそれをかわしながら応戦する。
支援魔法の効果が残っている兵士たちは、他のローグ達を相手取る。クレアとリグナーも陣形を保ちながら一匹、また一匹と次々にローグを倒していく。
「切り裂け……氷結の刃」
レクスの剣が青く輝き出す。パキッ、パキッと音を立てて、剣の周りが凍っていき、刀身を氷の刃が覆い冷気を放つ
氷晶剣……。
レクスめがけて振り下ろされたローグの剣が、もの凄い音を立てて地面を揺らし大量の土煙を上げる。
「レクス!!」
土煙が収まると、そこには右腕を斬り落とされたローグの姿があった。
持っていた大きな剣は地面に突き刺さっており、切られた腕は、まだ剣の柄を握ったままだった。
腕を切られたローグは苦しみ、黒い血液を吹き出しながらのたうちまわっている。レクスはとどめを刺すためもう一度剣を構える。
ザクッ!
一瞬、何が起きたのか解らなかった。
レクスの隣にいたのはリグナーだった。リグナーは持っている剣でレクスの足を突き刺していたのだ。
「くっ……!何を……!」
剣を引き抜いた箇所から鮮血が吹き出る。
「そんな……!リグナーなんてことを!?」
私は目を疑った。
「私はもう負けれ無いのだ。」
リグナーは弱ったローグに剣を向けると大声で叫んだ。
「フランディアの戦士よ!私に続けぇぇぇぇ!!」
私とクレアの周りにいた兵士達も、雄叫びを上げ、リグナーに続いてローグに突っ込んでいく。
失敗は許されない……。ラブロがリグナーに言い放った言葉……。
レクスがローグを倒してしまうと、騎士団はまた尊厳を失ってしまう。リグナーはそれを恐れたのだ。
私はレクスに駆け寄り回復魔法をかける。傷はすぐに塞がったのだが、レクスはリグナーを睨みつけていた。
私はレクスになんと声をかけて良いのか分からなかった。
ローグは弱ってはいるものの、怒りに任せて暴れまわっている。兵士達は次々にローグの振り回す腕に蹴散らされている。あの距離だともう加護も届いていない……。
何をやっているんだリグナー……!
ローグは残った左手で武器を持ち、乱暴に振り回す。
リグナーは兵士を盾にローグに駆け寄り、渾身の一撃を放つ……。
「うおおぉぉぉぉ!!」
叫びながらローグに剣を突き立てるリグナー。
が、しかし剣はローグの胸に刺さってはいるが、心臓までは届いていない……!
ローグはリグナーの剣を掴んで引き抜くと、ブン!と投げ捨てた。そのままリグナーを追い詰め剣を構える……。
だめだ……。このままではリグナーは……。
「レクス!リグナーを助けてください!」
レクスは何も言わずリグナーを見ている。
「お願いです!このままではリグナーが……!」
レクスは下を向いて答えた。
「なぜ?あいつは君の友人を囮に使ったんだぞ?」
そうだ。それは事実だ。でも今はそんなこと言っている場合じゃない。
「レクス……!」
「あいつが勝手なことをしなければこんなに死ぬ必要は無かった。生きていれば……またきっと同じような犠牲者が出る」
レクスは何かを諦めた様に私に言った。
「あいつは死んだほうがいい」
そんな……!!だめ……!!
私はリグナーのところに走った。
ローグはリグナーめがけて剣を突き出した。
剣はリグナーの身体を貫き、リグナーの口から大量の血液が吹き出す。
「リグナァァァァァ!!」
ローグは剣を引き抜き、とどめを刺そうともう一度振りかぶった……。




