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異世界の果てに旦那と子供置いてきた  作者: ジェイ子
第三章 ラグナ大陸編
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第百二十六話 前線調査


あれから数日後、私達は再びリゼのもとへ集まっていた。

王国から正式に前線での調査の許可が降りたのだ。

ギルドの執務室には前回討伐訓練に参加したメンバーが揃った。


「いよいよ前線へ向かうのだけれど、その前に皆に伝えておかなければならないことがあるわ」


リゼは集まったメンバーに向けてそう言った。


「知っている人間もいると思うけど、シルヴィアはソウルイーターに狙われているの。本来であれば奴がいる可能性がある前線に連れ出すのは危険なのだけれど……」


リゼは立ち上がって手を机の上に乗せる。


「先日からアイザック団長の手の者から捜索を受けているの。理由は不明だけど、もし彼がソウルイーターと繋がっているなら、彼女をここには置いていけないわ」


「俺も聞いた。怪しい二人組だろ?この辺じゃ見ない顔だって話しだぜ」


「ええ。なのでシルヴィアは前線の調査に同行させ、全員で護衛しようと思うの」


なんだか皆の足を引っ張ってしまっているようで申し訳ないな……。


「ご迷惑をおかけして申し訳ありません」


「んだよ水くせぇ。気にすんなって!仲間だろ?」


ラルクは私の肩を叩いて笑ってみせた。


「そうそう!私達に任せて!」


続いてニアも親指を立てて私に微笑んだ。


「目的はソウルイーターの調査だから不要な戦闘は避けたいけど、場所が場所だけにデイラット軍への警戒も必要よ。各自準備だけは怠らないようにね」


「はぁ……。魔物の方が遥かに良かったぜ」


ラルクは頭を掻きながら溜息をこぼした。

普段は魔物を相手に戦っている冒険者だが、人間が相手となると勝手が変わってくるだろう。

特にレイヴンズは対魔物に特化したチームだ。

この前のアズールのようにはいかない。

私としても同じ人間と戦うのは気が引けるな……。


「まぁでも前線にはあの天才王宮魔導士システィアが作った守護魔導兵(ガーディアン)があるからな」


ジャックの言った聞き慣れないその言葉を、私は皆に尋ねた。


「そのガーディアンというのは……?」


「ガーディアンは無人で敵兵を殲滅する平気なの。元々ソウルイーターのために作られた兵器なんだけど、それのおかげでユリウス軍は今の前線を維持することができているのよ」


リゼはガーディアンのことを教えてくれた。


守護魔導兵(ガーディアン)はクローディアが操る不死者の軍団に対して、リゼの妹のシスティアが開発し自立式の魔道具だそうだ。

クローディアはフランベルジュの力で人間から魂を奪いとり、それを死者の体に入れることで、その体を操ることができるのだ。

不死者となった体は痛みも感じず睡眠も必要ないため、その四肢を切り落とすまで攻撃を辞めない。

しかも戦場では次々と死体が増えていくため、不死者の軍団はどんどん数増やしていくのだ。


ガーディアンは魔力を動力源として動く魔道兵器で、一定範囲内に敵が侵入すると自動で魔法を放つようになっている。

これであれば昼夜関係なく、死体が増えることもない。

おかげでユリウス軍は不死者の軍団を退けることができたというわけだ。


システィアの死によってその技術は失われてしまったため、新たに作ることはできないのだが、今もなおガーディアンは前線に陣取り、デイラット軍の侵攻を防いでいる。


「すごいですねシスティアさん」


「この槍も……あの子が作ってくれたのよ。聖遺物(レリック)ではないけど、それに匹敵する力があるわ」


そう言ってリゼが手に取った銀槍が、呼応するように光を跳ね返した。


魔道具だけではなく武器なども開発していたのか。

入団試験の装置といい、システィアさんはとても優秀な人だったのだろう。

彼女がユリウス要だとわかっていたから、クローディアは王宮に乗り込んでまで手にかけたに違いない。



その日の夜、私はサキと共に出発の準備に取り掛かっていた。

場合によってはクローディアとの直接戦闘も考えられる。ひょっとしたら、もうここには戻ってこれないかも知れない……。

そんな胸が締め付けるような気持ちに苛まれ、私はリコラを取り出して握りしめる……。


あれ……?何か違和感が……?


私は手に取ったリコラをよく見てみると、リコラの魔法石全体に大きく亀裂が入っているではないか……!!

なんで!?いつから……!?


私は心当たりを思い返してみる。

そういえば前回の討伐訓練のとき……。

リゼに槍を届ける途中で、すれ違う兵士に何度かぶつかったことを思い出した……。


そうか……あの時に……!


何か不吉な暗示でないと良いのだけれど……。

私の脳裏に一人の顔が浮かんだ。


レクス……。




一週間後、私達は北部の前線に向けて出発した。

今回は馬車ではなくそれぞれが馬に乗っての移動だ。

馬車での移動は目立つ上に、大きな道しか通ることができない。襲撃されたとしても逃げることが困難だろう。

馬であれば馬車では通れないところへ入っていけるし機動力もある。

荷物があまり持てないところが難点ではあるが……。

この際仕方がないだろう。


幾つかの村や街を経由しながら、私達は北上を続けた。北に進めば進むほど駐在しているユリウス軍の数が多くなり、前線に一番近いとされる街ここルインシュタインでは、街そのものがユリウス軍の拠点となっている。

そして現在この街にはユリウス王国の第一王子であるサーリスと、例の騎士団長アイザックが駐留しているのだ。


「やはり前線付近ではすごい兵の数ですね」


兵士以外街の人間は殆どいない。

かつて賑わっていただろう商店街も、物資と砂埃にまみれてから時間が立っている。


「さて……このまま調査を始める、というわけには行かないから、私達はサーリス王子殿下にご挨拶に行ってくるわね。シルヴィアはサキと一緒に待っててちょうだい」


「オッケー。行こうシルヴィア」


リゼ達はサーリスのもとへ向かい、私達は拠点となる冒険者用の宿舎に行くことにした。


街のはずれにあるボロボロの宿舎。

私もサキも思わず顔が引きつるほど年季が入っている……。

雨が降れば雨漏りでもしそうなその宿舎は、吹く風にドアをガタガタ言わせて私達を出迎えた。


そっとドアに手を触れようとした瞬間、ガチャッ!とひとりでにドアが開く……。


「ヒィィィ!!」


サキは私に抱きついて悲鳴を上げた。


「おや?これはすまない。冒険者の方であったか。一通り片付けてはいるが、何か必要なものがあれば言ってくれ」


中から出てきたのは男性だった。白髪混じりの優しそうな男性。ここの管理人さんか誰かだろうか。


「あ、ありがとうございます……」


サキがその男性にお礼を言い、ドアに手をかけて中に入ろうとしたとき、再びその男性に声を掛けられた。


「君たち、スピナスフローレの人間だろう?」


「そうですが……何か?」


「シルヴィアという女性を知っているかな?」


!!?

何故この男性が私のことを!!?

一瞬サキと顔を合わせると、彼女はその男性に言った。


「知りませんけど……その人が何か?」


「あぁいや、であれば良いのだ。呼び止めてすまなかった」


このおじさんもアイザックの手の者なのか……?

まさかこんな早く遭遇するとは思わなかった……。

ホッと胸を撫で下ろし、私達はリゼの帰りを待った。




「イヤァーーーー!絶対にオバケ出るってぇ!!」


ニアは入口に座り込んで首を横に振る。


「仕方無いだろ?ランク5位がオバケくらいで何泣きごと言ってんだ」


ラルクは呆れて両の手のひらを上へと持ち上げる。


「ムリムリムリ!!これはムリィィ!!」


ニアは意地でもここには泊まらないつもりなのか、その場から動く気配が無い……。


「困ったわね……」


「何かお困りの様子かな?」


誰もがその声の方へと視線を向けた。







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