第百八話 奪われて
「かっ……はっ……!!」
衝撃と痛みが全身を襲う。
立ち上がろうにも骨がきしみ、言うことを聞かない。
なんで……!?なんで回復しないの!?
ゆっくりと近付いてくるクローディア。
杖にすがりながら死に物狂いで身体を起こす。
今は逃げるしか選択肢が無い。
足を引きずるようにしてクローディアからなんとか距離をとろうと試みる。
「あら、鬼ごっこ?いいわねぇ。その身体でどこまで逃げれるのかしら」
わざと私に追い付かないようにゆっくりと距離を詰めてくる。
諦めるな……!諦めるな私……!!
きっと打開策があるはずだ!!
考えろ!考えろ!考えろ!!
考え……
ドン!と何かにぶつかった衝撃に顔を起こす。
「あ……あ……」
そこに立っていたのはコレットだった。
「コレッ……ト……助け……っ!!」
その瞬間、私はコレットから引き剥がされるようにしてクローディアの触手に捕らえられてしまう。
「は〜い残念でした。よくやったわコレット」
そんな……!コレットがクローディアと通じていたなんて……!!
コレットは黙ったまま私に冷たい視線を向けている。
私の首に、手足に、クローディアの触手が絡み付き自由を奪う。
そのままメキメキと強く締め上げると、先程打ち付けられた身体が悲鳴をあげる。
「うあぁぁぁぁぁ!!」
四肢には激痛が走り、あまりの痛みに意識が吹き飛びそうになった。
「アハッ!!いいわねその声!もっと聞かせてちょうだい!!」
クローディアは愉しみながら私の身体をもて遊ぶ。
そしてさらに無数の触手を私の身体に這わせた。
「さて、今回は邪魔者もいないことだし……じっくり楽しませてもらうわ」
クローディアは舌なめずりをしながら私を吊るし上げる。
「聖女様の魂はどんな味がするのかしら」
クローディアの触手が私の身体を伝い、弄るようにして蠢き回る。
手足の間隔が無い……。もう抵抗する力も残っていない……。
そのうち触手の一本がコレットに切られた傷口を見つける。
「いや……!!やめてっ……!!」
触手は勢いよく傷口に飛び込み、そこから根を張るようにさらに細かい触手を這わせ侵食する。
「きゃあああああああああああ!!」
傷口を指で抉られているかの様な痛み。
そして私の体内から触手へと魔力が流れ出る感覚……。
「ああっ!!最高に美味だわ!!あなたの魂!!」
クローディアは恍惚の表情を浮かべている。
「まだまだこれからよ。一滴残らず啜りとってあげるわ」
触手はいたるところから私の身体に侵入し、侵食を始めた……。
傷口に、喉元に、下腹部に……。
全身を引き裂かれるような痛みが走る。
「……ッ!!……!!」
「ウフフ。素敵な格好よ聖女様。あなたにとってこれ以上の辱めは無いんじゃないかしら?……と言ってももう声も出せないわね」
死……。
奪われる魔力と激しい痛みに襲われながら、私はそれを覚悟した……。
こんなところで終わってしまうのか……。
せっかくサキにも会えたというのに……。
みんな……ごめんなさい……。
「諦めちゃだめだ」
私の体の内側から聞こえたその声に、遠退く意識が呼び戻される。
暗闇の中に浮かぶ一人の男性……。
髪は長く、メガネを掛けている……。
知らない男性だ……。
その男性は掌に青く美しい光を浮かべ、それを私の手に渡して優しく微笑んだ。
「水は鏡。映すべきは真の心……」
そう言って男性はふっと目の前から姿を消した。
水は鏡……。
映すべきは……真の心……。
真の………。
!!
そうか……。
そういうことだったのか……。
傷口が治らないのも、触手がプロテクションをすり抜けたのも納得がいく……!!
私は青い光を両手で包み込みイメージする。
映すべきは真の心……!!
偽物では無い……私の心……!!
これは幻だ……!!
バシャ!!
顔面に落ちて来た水球によって、私は飛び起きる様に目覚めた。
そして私を囲む様にして貼り付く芋虫の様な魔物に気付き、急いで振り払う。
「ひぃ……!!」
芋虫状の魔物はキューと鳴きながら振り落とされて地面に転がった。
普段ならこんな魔物に触れることなどできはしないのだが、無我夢中になって振り払い、杖で弾き飛ばす。
魔物は子猫ほどの大きさがあり、よく見るとそこら中を埋め尽くす程の数で溢れかえっている。
あまりの気持ち悪さに全身の毛が逆立っていく。
その魔物はコレットにも貼り付いていおり、私は急いでそれらを振り払い、体を揺すってコレットを起こす。
「コレット!!起きて下さい!!コレット!!」
ゆっくり目を開けたコレットは、ハッとなって私を突き飛ばす。
「いやぁぁぁぁぁ!!来ないで!!」
暴れ出すコレットを必死になだめようとするのだが、無理もない。私と同じく最悪な幻覚を見させられていたのだから。
「コレット!!落ち着いて!!さっきまでのことは全て幻です!!ここは私達が魔法石を取った部屋です!!」
コレットは息を荒げながらようやく辺りを見回し、現実の自分を取り戻す。
「まぼろ……し……!?」
だが足元に群がる魔物を見て再び暴れ出した。
「いやああああ!!来るな!!あっちいけ!!」
手当たり次第に火球を連発し、魔物を振り払うコレット。
「コレット!!落ち着いて!!」
コレットに私の言葉は届いていない。
魔欠状態に陥っているのだ。
恐らくこの魔物達は魔法石を餌にして侵入してきた人間に幻覚を掛け、その間に魔力を吸って生きているのだろう。
私達の魔力はほとんど残っていないはずだ。
その状態で魔法を連発すればそれこそ行動不能になってしまう。
「来るなっ!!寄るなっ!!どいつもこいつもっ!!私に近付くな!!私から何も奪うなっ!!」
「コレット!!魔力がなくなります!!この小さな魔物はそれ程脅威ではありません!!冷静に!!」
「うるさいっ!!お前に何がわかっ……」
そう言いかけたコレットがふらっとその場に崩れ落ちてしまった。
マズい……。もう魔力が残っていない……。
この魔物、一匹一匹の脅威はほとんど無いのだが数が多すぎる。
コレットの攻撃魔法無しではここから出ることは不可能だ……。
私は這い寄る魔物に構わず精神を統一させる。
精度を最大限にした魔力探知……。
何処かに私達に幻覚魔法をかけた魔物がいるはずだ……。
そいつを倒せばあるいは……。
魔力探知を試みるも、辺りの魔物と魔法石の反応が邪魔をして上手く特定出来ない……。
どこだ……!?どこにいる……!?
もう一度よく思い出せ!!幻覚にかかった時のことを!!
あの時……私達はこの部屋で魔法石を採ってそのあと……。
はっ!!……そうだっ!!魔法石っ!!
私はバッグから急いで魔法石を取り出す。
次の瞬間、魔法石だと思っていたそれにパカッと亀裂が入り、羽を広げて飛び立ったのだ。
それは魔法石に擬態した魔物だった。恐らくこいつがこの魔物達の成体……。
魔法石の魔物は周囲をブンブンと音を立てて飛び回り、魔法石の群れの中に飛び込み再び擬態しようとする。
しまった……!今見失えば他の魔法石と見分けがつかなくなってしまう……!!
何か目印になるものは……!!
私は咄嗟に足元の魔物を掴み投げつけた。
魔法石に叩きつけられた芋虫の魔物が破裂し、その体液が魔法石の魔物に付着する。
やった……!!これで魔法石の中でも目視できる!!
私はバーラックさんから譲り受けたミスリルの杖を握りしめ、くるっと一回転させて正面で構える。
解錠……!!
私の残った魔力をコレットに託す……!!
聖騎士化魔法を展開し、私の魔力をコレットへ移していく。
魔力が戻り、再び目を開けるコレットに私はゆっくりと話かけた。
「コレット……落ち着いて聞いてください。あなたの力が必要です……」




